小山ナザレン教会

箱舟の中を見つめる(稲葉基嗣) – 創世記 7:1–8:5


Listen Later

2025年8月10日 三位一体後第8主日

説教題:箱舟の中を見つめる

聖書: 創世記 7:1–8:5、コリントの信徒への手紙 一 1:10–17、詩編 29、ヨハネによる福音書 14:27

説教者:稲葉基嗣

 

-----

ノアの箱舟の物語は、洪水の危険を伝える単なる教訓ではありません。この物語において、洪水は一言で言うならば、神が造った世界に、カオスが侵入し、混沌とした状況が世界中に広がっていくような出来事でした。そして、このような洪水をもたらす原因となったのが人間の罪や悪でした。そう考えると、洪水物語はとても象徴的な意味を含んでいるといえます。人間の罪がこの世界に様々な形で混沌を引き起こしている。そして、それに囲まれて、私たちは生きていると、伝えているのですから。この舟は、「箱舟」と訳されているように、大きな長方形の箱として描かれています(創 6:15 参照)。ただ混沌とした洪水から命を救うために用意された、水の上を漂う箱です。その狭い世界の中で、あらゆる生き物たちとの共存が必要でした(創 7:14-16)。混沌とした世界に囲まれていても、神に守られた箱舟の中で、すべての生き物がお互いの命を尊重し合って、共存することができる可能性を提示するかのように、箱舟について興味深い描写がなされています。「箱舟は水の面を漂って行った」(創 7:18)と記されていますが、ヘブライ語の聖書では「歩く」や「進む」という意味の単語が用いられています。この単語は、創世記において、これまで、ノアとエノクが神と共に歩んだことを伝えるときに使われていました(創 5:22, 24; 6:9)。それはまるで、混沌とした世界の中であるけれども、箱舟に生きる共同体が神のみ心のうちに歩み、お互いに手を取り合いながら、その小さな世界の中で生きていたことを象徴的に伝えているかのようです。この物語が促しているのは、箱舟の残骸を探しあてることではありません。むしろ、箱舟の中を、箱舟で共に生活をした小さな共同体を見つめることです。混沌の水の上を漂う箱舟は、混沌に包まれた世界のただ中であっても、神のみ心のうちに、人々やあらゆる生き物が手を取り合って、小さな世界を造っていけるという希望を提示し続けています。だから、箱舟という入れ物を探しても意味がありません。その箱舟という入れ物の中に広がっていた、小さいけれども、お互いの命を喜び、助け合える共同体こそが私たちにいつも必要なものです。まさに自分が乗っている箱舟の中で、お互いの存在を尊重し合い、手を取り合って歩むことができる、小さな世界を作り上げていくことが私たちには必要だと、この洪水物語は伝えています。そんな箱舟の中に広がった共同体のあり方を私たちは教会から始めましょう。そして、箱舟の中の小さな共同体が、平和のうちにこの世界へと広がりますように。

...more
View all episodesView all episodes
Download on the App Store

小山ナザレン教会By 小山ナザレン教会