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「大変です。」
ひとりの捜査員が血相を変えて勢い良く捜査本部に入ってきた。
「何だ。手がかりが見つかったか。」
自分の頭の中をツリーのように書き出したホワイトボードと向かい合って座っている松永は右手に持ったマーカーをくるくると回しながら、ぶっきらぼうに言った。
「いえ、新たに被害者が出ました。」
松永の手が止まった。
「何だと。」
「先ほど七尾中署から連絡があり、顔面を鈍器のようなもので複数回殴打された遺体を発見とのことです。」
「顔面をか。」
「はい。死因と身元を特定するために、現在、金沢の石川大学医学部付属病院へ遺体を搬送中とのことです。」
「いつ到着予定だ。」
「18時半ごろです。」
「詳しい犯行現場は。」
「七尾市街地のとあるアパートの一室だそうです。」
「第一発見者は。」
「分かりません。電話での通報です。『人が死んでいる』と言って一方的に電話を切ったそうです。男の声だったようです。」
松永はゆっくりと立ち上がって拳を強く握りしめた。そしてその拳を目の前のホワイトボードめがけて叩き付けた。
―奴だ。一色が通報したに違いない。
「くそっ!!」
捜査本部の捜査員たちは手を止めて、松永の方を見た。
「矢継ぎ早にコロシか。そうか、捜査を攪乱するつもりだな。おもしろい。やれるもんならやってみろ。お前がコロシをすればする程、手がかりは多くなる。」
松永はホワイトボードに貼付けてある一色の顔写真を睨みつけて、独り言を言っていた。
「関。」
「はい。」
「指名手配だ。」
「了解いたしました。」
「奴の行動範囲は俺が思っていたよりも広範のようだ。全国の警察の協力を仰げ。」
「はっ。」
続けて松永はそばにいた捜査員に指示を出した。
「おい。」
「はっ。」
「熨小山付近と金沢市全域に重点的に配置していた警備人員を石川県境に移せ。犯人を石川県内に封じ込めろ。県境の主要道を封鎖するだけでは手ぬるい。犯人逃亡のルートになる可能性がある道という道は押さえろ。」
「了解いたしました。」
―必ず尻尾を掴んでやる。
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