ボイスドラマ〜Interior Dream

ボイスドラマ「木の温もりと飛騨の匠」後編


Listen Later

登場人物

・娘(24歳)・・・声優を目指す女性/実家から離れて東京で一人暮らしをしている(CV:桑木栄美里)

・父(56歳)・・・家具職人/若い頃から飛騨の匠の元で修行して家具職人となった(CV:日比野正裕)

(SE〜拍手と歓声〜そこにまざってドラムロールの音〜F.O.)

娘: ステージに立つ7名のファイナリストたち。

その中に立つ私は、ゆっくりと目を閉じる。

やがて歓声とドラムロールの音が、私の耳からすうっと消えていった。

私の頭の中に蘇ってきたのは、幼い日の父の背中。

★娘7歳/父39歳

父: 「いいかい、大きくなっても、温もりを忘れちゃいけないよ」

(BGM〜inspiring-piano-300473695)

娘: 父は家具職人。

幼い私をよく自分の工房へ連れていってくれた。

木目もあざやかに、磨かれた木材が所狭しと並ぶ小さな工房。

父は、工具や木工機械で私が怪我をしないよう、

背中越しに見ているよう言い含めて、いつも私を気遣った。

ある日、1枚の白木を手にとった父は私を手招きして、

(SE〜工房の雑踏)

父: 「ほら、この木をさわってごらん」

娘: それは、家具に生まれ変わる前の白木(しらき)。

無垢の清らかな香りが漂ってくる。

父: 「あったかいだろう」

娘: そこには、スチールやプラスチックをさわったときとは全然違う

やわらかくてあったかい感触があった。

父: 「木の温もり、っていうんだよ」

娘: 「木の温もり・・・」

父: 「木は私たち人間と同じで、呼吸しているんだ。

だから木には体温がある。

この木で作る家具にも、そのまま温もりが残るんだよ」

(BGM〜seventeen-street-346951958)

娘: 確かに父が作る木の家具には、冷たい感触はまったくなかった。

学校で辛いことがあっても、家に帰って木の家具に囲まれていると

冷えた心がほんわり暖かく溶けていくような・・・。

父: 「この椅子を見てごらん」

娘: それは背もたれの曲線が美しい木製のアームチェア。

左右の肘掛けにシンメトリーに浮かび上がる木目を見ていて思わず、

「きれい・・・」

とつぶやいた。

父は顔をほころばせて、

父: 「そうだろう。

これは”匠”が作った椅子だから」

娘: 「たくみ?」

父: 「ああ、たくみさ。

むかーしむかしに飛騨から都へ送られてお寺とかお城を作った職人だよ」

娘: 「へえ〜」

父: 「座ってごらん」

娘: 「はい」

座った瞬間、木の温もりに包まれる感じがして、

心がふわっと軽くなっていった。

父: 「気持ちいいだろう?」

娘: 「うん・・・」

父: 「匠が作る家具はね、毎日のストレスを和らげて、

安らぎと温もりを与えてくれるんだよ」

娘: 「ふうん」

父: 「だから、おまえ自身も、いつだって温もりをなくしちゃいけないよ」

娘: 「わかった」

私の方へ振り返ったまま、満足気に微笑む父の笑顔と背中のあたたかさ。

今でも鮮明に覚えている。

東京で一人暮らしを始めるときに選んだのも、すべて木の家具たち。

あ、そうだった。気づかないうちに、私、温もりに包まれていたんだ。

★娘24歳/父56歳

(SE〜会場の大きな雑踏〜そこにまざってドラムロールの音〜F.I.)

娘: 父と家具たちを思い出しながら

自分でも不思議なほど落ち着いて、私はゆっくり目をあけた。

ドラムロールが途切れた次の瞬間、

私の名前を呼ぶ大きな声が、耳に飛び込んでくる。

嬉し泣きの声は、歓声と拍手があっという間にかき消していった。

(BGM〜インテリアドリーム)

(SE〜拍手と歓声、それにまじってオフで父の「おめでとう」の声)

娘: 壇上でトロフィーを手にした私が顔をあげると・・・

客席の一番後ろには父の姿があった。

笑っているような、でも泣いているようにも見える表情で

大きく手を叩く父。

昨日名古屋へ帰るって言ってたのに・・・

おとうさん、私、おとうさんのような匠になりたい。

一切妥協せず自分の技能を信じて誇りに思う、職人のような声優。

大丈夫。私、できるよね。

匠に、なる。

だって、私はおとうさんの子どもだから。

...more
View all episodesView all episodes
Download on the App Store

ボイスドラマ〜Interior DreamBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、インテリアドリーム