田舎坊主の読み聞かせ法話

「今を生きる ー親父の最期の夜桜花見ー」田舎坊主のぶつぶつ説法


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平成8年4月6日、自坊不動寺の小さな境内にある一本の桜の下で、非常勤勤務していた役場の職員や友人15名ほどに呼びかけ、夜桜の宴席を計画した。

この時の桜は、満開に見えるものの花も堅く、八分咲きといったところだ。

庫裡から電源をとり、100wの電球三個を桜の木にぶら下げた。

日暮れとともに手作りの簡素な夜間照明はその雰囲気を盛り上げ、遅れてやってきた職員からも、「紀ノ川の橋から見ると、寺の桜が浮かび上がってきれいだった」と、賛嘆の言葉が返ってきたほどだ。

宴会が始まると、夜桜とはいいながら、桜の花ではなく、ほとんど4月の人事異動の話に花が咲き、酒がまわるとともに悲喜こもごものようすがあちこちで繰り広げられていた。

しばらくすると、当時住職である親父が庫裡からやってきて、「ワシも中に入れてくれんか」と、にぎやかな話にひかれてか、仲間入りしたのである。

最初は、息子の友だち同士だからと遠慮していたものの、親父自身、ながく役場勤めをし、集まったなかには当時の部下もいたこともあり、なんといっても酒は嫌いな方ではないのが、庫裡でじっとくすぶっていることを我慢させなかったのだろう。

みんなは親父のことを「園長先生」とよんだ。というのも、役場勤めの後半はほとんど本庁勤めではなく、保育所の園長として勤務していたのである。

一時は、全国保育所連合会の会長を務めたこともあり、退職して20年近く経っていながら、未だに園長先生で通っていた。

親父が合流してからは、話のほとんどが役場の昔話に変わっていった。しかし昔話なのに、なぜか話はどんどん盛り上がった。

酒もまわり、気分も良くなった親父は「ああ、楽しいなあ」「ええ花見やなあ」と、久しぶりに役場の話をできたことがよほどうれしかったのか、そこそこの時間になり、少し小雨も降ってきたにもかかわらず、花見をお開きにすることを嫌い、「庫裡に入って飲もう」と、みんなを庫裡の座敷に招き入れ、第二部の花見の席が設けられたのである。

夜も11時を過ぎた頃、親父は何を思ったのか、押入の中からたくさんの帽子を出してきて、「この帽子の中から、好きなものを持って帰れ」とひろげだしたのだ。

そういえば親父は若いときから、それなりのおしゃれだった。

なかでも、常に帽子は手離すことはなかった。帽子といっても、いろいろな形のものがあり、モスクワや中国などいろいろな国のものがあった。

友人たちはそれぞれ好みのものを一つずつ手にし、やっと一部二部の夜桜宴会はお開きとなった。

みんなが帰ったあと、親父に「きょうは酒を飲んでるから、風呂に入ったらあかんぞ」と言い、母親にも風呂に入れないように言い置いて、歩いて5分ほどの、お寺とは別の居宅へ帰っていった。

合掌


4月からのシーズン2の読み聞かせ法話の本は

私の初版本で、2002年に出版した「田舎坊主のぶつぶつ説法」です。

後に「田舎坊主シリーズ」とつながる第1弾です。

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒