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恋の初風
季節の初めに吹く風を初風、特に秋の風をいうそうだが、私の心にその風が吹いたのはいつ頃だったのだろうか。
中学校へ通ういつもの道で、彼女は友達と待ち合わせをしていた。その日は、まだ友達が来ていなかったので、手持ち無沙汰な後ろ姿がそこにはあった。同じクラスなので、「おはよう。」と、少し風が吹いた。返す「おはよう」は心なしか震えていた。
「友達は、まだ?」
「今日は、ちょっと遅いみたい」
「そう、じゃぁ~」
「じゃぁね~」
短いやりとりなのだが、風の中に甘い香りが漂いだしていた。一瞬にして、私の心を捉えたその笑顔を落とさないように、学校までゆっくりゆっくりと歩いていった。
その後、同じ高校にも通ったが、彼女の笑顔を落とさないまま、無為な風が流れただけだった。
さて、齢六十にして、風は吹くのだろうか。吹いたとしても、それは初風ではなく、末風となることだろう。いや、何年も前から、風は静かに吹き続けているのかもしれない。
By 森田義夫恋の初風
季節の初めに吹く風を初風、特に秋の風をいうそうだが、私の心にその風が吹いたのはいつ頃だったのだろうか。
中学校へ通ういつもの道で、彼女は友達と待ち合わせをしていた。その日は、まだ友達が来ていなかったので、手持ち無沙汰な後ろ姿がそこにはあった。同じクラスなので、「おはよう。」と、少し風が吹いた。返す「おはよう」は心なしか震えていた。
「友達は、まだ?」
「今日は、ちょっと遅いみたい」
「そう、じゃぁ~」
「じゃぁね~」
短いやりとりなのだが、風の中に甘い香りが漂いだしていた。一瞬にして、私の心を捉えたその笑顔を落とさないように、学校までゆっくりゆっくりと歩いていった。
その後、同じ高校にも通ったが、彼女の笑顔を落とさないまま、無為な風が流れただけだった。
さて、齢六十にして、風は吹くのだろうか。吹いたとしても、それは初風ではなく、末風となることだろう。いや、何年も前から、風は静かに吹き続けているのかもしれない。