𝟛𝕞𝕚𝕟 𝕤𝕥𝕠𝕣𝕪

「良い女」


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どうでもいいことなんて、山ほどある。ありすぎて、それを山とも認識できないくらいには。文字通り「山積」したそれの中に君とのLINEのやり取りが埋まっているのを、実は君も知っている。ハイライトの緑のパッケージが汚い部屋の隅に綺麗に並べられ、そこに自分のものではない面影を見る。


「…わかってる。わかってるよ。」


為すべきことを為せ、以前友人が口にしていた座右の銘がジリジリと詰め寄っては、倦怠感にクロスオーバーしていく。感情に囚われずに淡々とこなせていたら、このやるせ無さと君の優しい嘘は、陽の目を見ることなく過ぎていったはずなのにな。

こんな時代に、あぁいや、「こんな時代だからこそ」だったよな。どこに行くにもチェキを持ち出して写真に収める君を見ては、心に薄い膜が張った。過去を切り取るその道具を、骨の無い優柔不断な俺と照らしては、嫌になった。


重い話は明るいうちに。ワイドショーで流れてきたこのどこに根拠があって無いのか分からないものに、さり気なく寄りかかって手帳をしまった。言わなきゃならない事ほど、どうしてこうも言いづらいんだろう。今更、なんて誰がそのベストなタイミングを知っていようか。たとえそれがあったとして俺にその分岐を切り返す「熱」と「愛」と「想いやり」があっただろうか。


最後の夜は朝になって、陽は明るく波間を照らした。

ごめんな。ありがとう。

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𝟛𝕞𝕚𝕟 𝕤𝕥𝕠𝕣𝕪By 廣野ノブユキ