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<第1セクション【タイヤル族の郷の出湯「烏来」】>
11月も今日が最後の日曜日。年末に向けての商戦もだんだんと熱を帯びてたが、冬になると恋しくなるものの代表と言えば、やはり温泉だ。本日は台北からMRT(電車)とバスを乗り継いで1時間ちょっと、日帰りでも行ける温泉地の一つ「烏来(ウーライ)温泉」の魅力についてご紹介したい。烏来温泉は、現在の行政区分では新北市烏来区に位置する。台北の中心地からは30キロほど離れた標高500メートルほどの自然豊かな山あいにあり、翡翠色の川面の南勢渓沿いに広がった温泉地だ。お手軽に日帰り入浴もできる旅館から高級リゾートホテルまで立ち並ぶ。かつては河原で湧き出るお湯でいわゆる「野渓温泉」も楽しむことができたが、この川は首都圏の飲料水の水源ともなっており、安全面と衛生面、また景観保護の観点から今は条例で禁止されている。泉質は無味無色透明の弱アルカリ性炭酸ナトリウム泉、いわゆる「美人のお湯」である。その利便性から、台北郊外の北投温泉と並んで観光客にも人気の温泉地である。
さて、烏来は台湾原住民族で3番目に多いタイヤル族が多く居住する地域である。2021年の統計では、タイヤル族の人口は9万3千人余り。「タイヤル(またはアタイヤルともいう)」とは、タイヤル語で「人」のこと。そして「烏来(ウーライ)」という地名は、同じくタイヤル語で「熱い泉」、すなわち温泉を指す言葉なのだ。これはこの地の温泉が、タイヤル族の間では古くから広く知られていたことを意味する。烏来のタイヤル族は、南投県信義郷から長い年月をかけて移動して来たグループと言われているが、タイヤル族のことについては、後ほど触れる「烏来老街」に「烏来泰雅民族博物館(烏来タイヤル民族博物館)」があるので、是非そこを訪れて理解を深めていただきたい。
そして、タイヤル族と言えば、私はまずこの歌を思い出す。『泰雅族歡樂歌(Rimuy Sula Rimuy Yun)』だ。この曲を最初に知ったのは15年以上前になるだろうか、烏来温泉を初めて訪れた時だった時と記憶している。烏来温泉の入口にある「巨龍荘温泉飯店」のオーナーさんが、タイヤル族なら誰でも知っている歌だと言って教えてくれたのだった。その後、縁あって、台湾の全国児童合唱コンクールでたびたび優勝している新竹県五峰郷の桃山小学校の児童たちと音楽交流に私が出向いた時に、子どもたちが私の来訪を歓迎し最初に歌ってくれたのもこの歌だった。この学校の先生も児童たちもほぼ全員タイヤル族だった。この歌の中で繰り返し現れる「リンムイ・ソラ・リンムイ・ヨ」のフレーズは、タイヤル族の言葉で「皆んなと一緒にいられてとても楽しい」という意味。もともとは収穫を終えて、一族や集落の人々との大団円の喜びを歌ったものだと聞いた。
新竹県尖石郷のタイヤル族の姉弟・葉微真(ジェン・イェ)さん、葉孝賢(アントン・イェ)さん、葉孝恩(ショーン・イェ)さんを中心に2004年に結成されたアカペラユニット歐開合唱團(O-Kai Singers)の歌で『泰雅族歡樂歌(Rimuy Sula Rimuy Yun)』をOA。2012年末にリリースしたファーストアルバム『O-Kai A Cappella』が2013年第24回金曲獎の6部門にノミートされ、最優秀歌唱グループ賞、最優秀原住民語アルバム賞、最優秀審査員賞の3部門を受賞したことが鮮烈に印象に残っている。セカンドアルバム『南方靈魂 Some People Say』でも2019年第30回金曲獎の最優秀歌唱グループ賞を受賞。その後メンバーの入れ替わりもあったが、結成20年目を迎えた今も、オリジナルメンバーの葉微真(ジェン・イェ)さんと葉孝恩(ショーン・イェ)さん姉弟に、漢族の嘿嘿こと馮瀚亭(フォン・ハンティン)さんのパイワン族の芭塔(パタ)さんが加わり、4名で活動を続けている。
<第2セクション【「烏来瀑布」「トロッコ」「老街」と見どころは尽きない】>
烏来は温泉もさることながら、自然環境や観光資源にも恵まれた場所だ。まずは何と言っても、落差80メートルの「烏来瀑布(ウーライ大滝)」の存在だ。日本統治時代には既に「台湾八景」の一つ「雲来の滝」として名声を馳せていた。春には景観台に咲く山桜とともに、水量の多い夏には滝の水飛沫を浴びながら、秋には色付いた山々を愛ながら、冬には清冽な空気の中で、この地の象徴ともなっている大滝の四季折々の変化を楽しんでいただきたい。この滝の滝壺の水は、烏来の温泉街を通り抜ける翡翠色の南勢渓へと注ぎ込んでいる。
烏来からさらに数キロ先に進むと南勢渓の支流・内洞渓沿いに「内洞国家森林遊楽園区(内洞国立森林リゾート)」と呼ばれる場所がある。マイナスイオン濃度が台湾で最も高いとも言われる内洞の滝までの比較的平坦な内洞渓沿いの遊歩道、山越えの森林トレッキングコースが整備されていて、子どもたちやお年寄り、ハイカーまで、それぞれの体力や好みに応じて歩くコースを選択できるのも嬉しい。時間があれば、是非ここまで足を伸ばしてみ手はいかがだろう。
烏来温泉に戻ろう。ここの温泉街の中心には「烏来老街」と呼ばれるおよそ300メートルほどの道が伸びていて、両脇には温泉旅館やレストラン、土産物屋が所狭しと並んでいる。原住民料理を謳い、ふんだんな山菜や川エビ、「苦花魚」「渓哥」と呼ばれる小魚の唐揚げ、「竹筒飯(竹筒に入った餅米を味付けして蒸したもの)」、猪肉のソーセージ、「小米酒(粟を原料とする醸造酒)」と呼ばれに入ったなどを堪能することができる。食べ歩きもなかなか楽しい道である。先ほど述べた「烏来泰雅民族博物館(烏来タイヤル民族博物館)」もこの「烏来老街」の中ほどにある。手頃な日帰り温泉の宿も何軒かあるので、ここで旅の疲れを癒すのも良いかもしれない。
そして、ここには日本統治時代に伐採された材木の運搬用のトロッコが、1963年に観光用トロッコ「烏来台車」に改造され、「烏来老街」の端っ子の攬勝橋のたもとから「烏来瀑布(ウーライ大滝)」までの1.5キロを走っている。開放式の窓から吹き抜ける風も心地良く、南勢渓や対岸の壮大な山々、春には道路脇の山桜の花を見渡すことができる。烏来瀑布(ウーライ大滝)」駅からは、さらにロープウェイに乗って「烏来瀑布(ウーライ大滝)」の上にある遊園地の「雲仙楽園」にも足を伸ばすことも可能。ここには遊戯施設や貸しボートのほか、カフェやレストラン、宿泊施設もあり、また滝の上からの風景を一望することもできる。
では、烏来の魅力をたっぷりとお聴きいただいたところで、私が作詞・作曲した烏来温泉のオリジナルテーマソング『烏来旅情』を、今回は私のギターの弾き語りでお聴きいただきたい。滝や翡翠の川面、旅人、熱い泉、湯けむり、古い街並み、桜の花等、本日の話でも触れた烏来にまつわるキーワードがいくつも出てくるので、それもお楽しみいただきたい。(3:45)
<第3セクション【不浪・尤幹を知っているか?】>
先ほどから烏来の桜に触れて来たが、烏来は台湾の中でも有数の桜の名所でもある。1月末から2月の初めにかけて、山桜の一種であるタイワンヒカンザクラがまず、見頃を迎える。このほかにも烏来ではソメイヨシノ、ヤエザクラ、ムシャザクラなと合わせると2万本ほどの桜が計画的に植えられてきた。旧正月前後には温泉桜まつりも毎年開催されているので、旧正月の後くらいの時期は温泉と桜を両方楽しむには狙い目かもしれない。
もう一つ烏来で忘れてはならないことがある。烏来の「泰雅山地文化村」には「台湾高砂義勇隊戦没英霊記念碑」だ。日本統治時代に山地の台湾原住民は「高砂族」と呼ばれ、身体能力が高く、ジャングルでの戦いも厭わなかった彼らは高砂族義勇隊の名の下、パプアニューギニアなどの南方戦線に日本兵として送られた。この碑は太平洋戦争で戦死した台湾原住民の兵士たちを慰霊するため、有志によって1992年に建てられたものだ。李登輝元総統の揮毫による「霊安故郷」の文字が刻まれている。この日の前に立つと胸が締め付けられる思いになる。
さて、本日の締めくくりにご紹介したい烏来出身のタイヤル族のミュージシャンがいる。不浪・尤幹(Bulang Yukan)さん、漢名を黄建福と言った。自ら歌手でもあり、音楽プロデューサーでもある彼は、張恵妹(A-Mei)さん、任賢齊(リッチー・レン)さん、王力宏(ワン・リーホン)さんといった大物アーティストの音楽制作も手掛けたことがある。また、2002年に公開された台湾映画『夢幻部落(英題:Somewhere Over The Dreamland)』(鄭文堂監督)の映画音楽を制作し、第39回金馬奨国際映画祭で最優秀オリジナル映画楽曲賞を受賞した。この映画は同じ年の金馬奨で最優秀台湾映画作品賞も受賞したのだが、作品の中で主人公の瓦旦を演じたのは、不浪・尤幹(Bulang Yukan)の実の兄で、シンガーソングライターの尤勞・尤幹(Yulao Yukan)さんだった。
才能溢れる音楽人だった不浪・尤幹(Bulang Yukan)さんだったが、2005年の大晦日に36歳の若さでこの世を去った。この番組でもたびたび取り上げている齊秦さんの北京首都体育館で行われたコンサートに客演した彼は、公演中に誤って3メートルの高さの舞台から転落し、救急搬送先で2006年の元日の未明に帰らぬ人となってしまったのだった。あれから18年。本日は不遇の死を遂げた烏来出身の不浪・尤幹(Bulang Yukan)さんを記念して、彼が台湾の歌姫・張恵妹(A-Mei)さんに提供(作・編曲、プロデュース)した楽曲『好想見你(会いたい)』をOAしてお別れしたい。この曲は張恵妹(A-Mei)さんの5番目のアルバムで、台湾国内でもミリオンセラー、全世界では800万枚のセールスを記録した『我可以擁抱你嗎?愛人(あなたを抱きしめてもいいの?愛しい人よ)』に収録されている切ないバラード。華語(中国語)版(タイトルは『不在乎他(アイツなんて気にしない)』と日本語の二つのバージョンがあるが、本日は日本語版の『好想見你(会いたい)』をお届け。
By 蘇 南芬, 本村 大資, 豊田 楓蓮, 許 芳瑋, 中野 理絵, 王 淑卿, 駒田 英, 岩口 敬子, 馬場 克樹, Rti<第1セクション【タイヤル族の郷の出湯「烏来」】>
11月も今日が最後の日曜日。年末に向けての商戦もだんだんと熱を帯びてたが、冬になると恋しくなるものの代表と言えば、やはり温泉だ。本日は台北からMRT(電車)とバスを乗り継いで1時間ちょっと、日帰りでも行ける温泉地の一つ「烏来(ウーライ)温泉」の魅力についてご紹介したい。烏来温泉は、現在の行政区分では新北市烏来区に位置する。台北の中心地からは30キロほど離れた標高500メートルほどの自然豊かな山あいにあり、翡翠色の川面の南勢渓沿いに広がった温泉地だ。お手軽に日帰り入浴もできる旅館から高級リゾートホテルまで立ち並ぶ。かつては河原で湧き出るお湯でいわゆる「野渓温泉」も楽しむことができたが、この川は首都圏の飲料水の水源ともなっており、安全面と衛生面、また景観保護の観点から今は条例で禁止されている。泉質は無味無色透明の弱アルカリ性炭酸ナトリウム泉、いわゆる「美人のお湯」である。その利便性から、台北郊外の北投温泉と並んで観光客にも人気の温泉地である。
さて、烏来は台湾原住民族で3番目に多いタイヤル族が多く居住する地域である。2021年の統計では、タイヤル族の人口は9万3千人余り。「タイヤル(またはアタイヤルともいう)」とは、タイヤル語で「人」のこと。そして「烏来(ウーライ)」という地名は、同じくタイヤル語で「熱い泉」、すなわち温泉を指す言葉なのだ。これはこの地の温泉が、タイヤル族の間では古くから広く知られていたことを意味する。烏来のタイヤル族は、南投県信義郷から長い年月をかけて移動して来たグループと言われているが、タイヤル族のことについては、後ほど触れる「烏来老街」に「烏来泰雅民族博物館(烏来タイヤル民族博物館)」があるので、是非そこを訪れて理解を深めていただきたい。
そして、タイヤル族と言えば、私はまずこの歌を思い出す。『泰雅族歡樂歌(Rimuy Sula Rimuy Yun)』だ。この曲を最初に知ったのは15年以上前になるだろうか、烏来温泉を初めて訪れた時だった時と記憶している。烏来温泉の入口にある「巨龍荘温泉飯店」のオーナーさんが、タイヤル族なら誰でも知っている歌だと言って教えてくれたのだった。その後、縁あって、台湾の全国児童合唱コンクールでたびたび優勝している新竹県五峰郷の桃山小学校の児童たちと音楽交流に私が出向いた時に、子どもたちが私の来訪を歓迎し最初に歌ってくれたのもこの歌だった。この学校の先生も児童たちもほぼ全員タイヤル族だった。この歌の中で繰り返し現れる「リンムイ・ソラ・リンムイ・ヨ」のフレーズは、タイヤル族の言葉で「皆んなと一緒にいられてとても楽しい」という意味。もともとは収穫を終えて、一族や集落の人々との大団円の喜びを歌ったものだと聞いた。
新竹県尖石郷のタイヤル族の姉弟・葉微真(ジェン・イェ)さん、葉孝賢(アントン・イェ)さん、葉孝恩(ショーン・イェ)さんを中心に2004年に結成されたアカペラユニット歐開合唱團(O-Kai Singers)の歌で『泰雅族歡樂歌(Rimuy Sula Rimuy Yun)』をOA。2012年末にリリースしたファーストアルバム『O-Kai A Cappella』が2013年第24回金曲獎の6部門にノミートされ、最優秀歌唱グループ賞、最優秀原住民語アルバム賞、最優秀審査員賞の3部門を受賞したことが鮮烈に印象に残っている。セカンドアルバム『南方靈魂 Some People Say』でも2019年第30回金曲獎の最優秀歌唱グループ賞を受賞。その後メンバーの入れ替わりもあったが、結成20年目を迎えた今も、オリジナルメンバーの葉微真(ジェン・イェ)さんと葉孝恩(ショーン・イェ)さん姉弟に、漢族の嘿嘿こと馮瀚亭(フォン・ハンティン)さんのパイワン族の芭塔(パタ)さんが加わり、4名で活動を続けている。
<第2セクション【「烏来瀑布」「トロッコ」「老街」と見どころは尽きない】>
烏来は温泉もさることながら、自然環境や観光資源にも恵まれた場所だ。まずは何と言っても、落差80メートルの「烏来瀑布(ウーライ大滝)」の存在だ。日本統治時代には既に「台湾八景」の一つ「雲来の滝」として名声を馳せていた。春には景観台に咲く山桜とともに、水量の多い夏には滝の水飛沫を浴びながら、秋には色付いた山々を愛ながら、冬には清冽な空気の中で、この地の象徴ともなっている大滝の四季折々の変化を楽しんでいただきたい。この滝の滝壺の水は、烏来の温泉街を通り抜ける翡翠色の南勢渓へと注ぎ込んでいる。
烏来からさらに数キロ先に進むと南勢渓の支流・内洞渓沿いに「内洞国家森林遊楽園区(内洞国立森林リゾート)」と呼ばれる場所がある。マイナスイオン濃度が台湾で最も高いとも言われる内洞の滝までの比較的平坦な内洞渓沿いの遊歩道、山越えの森林トレッキングコースが整備されていて、子どもたちやお年寄り、ハイカーまで、それぞれの体力や好みに応じて歩くコースを選択できるのも嬉しい。時間があれば、是非ここまで足を伸ばしてみ手はいかがだろう。
烏来温泉に戻ろう。ここの温泉街の中心には「烏来老街」と呼ばれるおよそ300メートルほどの道が伸びていて、両脇には温泉旅館やレストラン、土産物屋が所狭しと並んでいる。原住民料理を謳い、ふんだんな山菜や川エビ、「苦花魚」「渓哥」と呼ばれる小魚の唐揚げ、「竹筒飯(竹筒に入った餅米を味付けして蒸したもの)」、猪肉のソーセージ、「小米酒(粟を原料とする醸造酒)」と呼ばれに入ったなどを堪能することができる。食べ歩きもなかなか楽しい道である。先ほど述べた「烏来泰雅民族博物館(烏来タイヤル民族博物館)」もこの「烏来老街」の中ほどにある。手頃な日帰り温泉の宿も何軒かあるので、ここで旅の疲れを癒すのも良いかもしれない。
そして、ここには日本統治時代に伐採された材木の運搬用のトロッコが、1963年に観光用トロッコ「烏来台車」に改造され、「烏来老街」の端っ子の攬勝橋のたもとから「烏来瀑布(ウーライ大滝)」までの1.5キロを走っている。開放式の窓から吹き抜ける風も心地良く、南勢渓や対岸の壮大な山々、春には道路脇の山桜の花を見渡すことができる。烏来瀑布(ウーライ大滝)」駅からは、さらにロープウェイに乗って「烏来瀑布(ウーライ大滝)」の上にある遊園地の「雲仙楽園」にも足を伸ばすことも可能。ここには遊戯施設や貸しボートのほか、カフェやレストラン、宿泊施設もあり、また滝の上からの風景を一望することもできる。
では、烏来の魅力をたっぷりとお聴きいただいたところで、私が作詞・作曲した烏来温泉のオリジナルテーマソング『烏来旅情』を、今回は私のギターの弾き語りでお聴きいただきたい。滝や翡翠の川面、旅人、熱い泉、湯けむり、古い街並み、桜の花等、本日の話でも触れた烏来にまつわるキーワードがいくつも出てくるので、それもお楽しみいただきたい。(3:45)
<第3セクション【不浪・尤幹を知っているか?】>
先ほどから烏来の桜に触れて来たが、烏来は台湾の中でも有数の桜の名所でもある。1月末から2月の初めにかけて、山桜の一種であるタイワンヒカンザクラがまず、見頃を迎える。このほかにも烏来ではソメイヨシノ、ヤエザクラ、ムシャザクラなと合わせると2万本ほどの桜が計画的に植えられてきた。旧正月前後には温泉桜まつりも毎年開催されているので、旧正月の後くらいの時期は温泉と桜を両方楽しむには狙い目かもしれない。
もう一つ烏来で忘れてはならないことがある。烏来の「泰雅山地文化村」には「台湾高砂義勇隊戦没英霊記念碑」だ。日本統治時代に山地の台湾原住民は「高砂族」と呼ばれ、身体能力が高く、ジャングルでの戦いも厭わなかった彼らは高砂族義勇隊の名の下、パプアニューギニアなどの南方戦線に日本兵として送られた。この碑は太平洋戦争で戦死した台湾原住民の兵士たちを慰霊するため、有志によって1992年に建てられたものだ。李登輝元総統の揮毫による「霊安故郷」の文字が刻まれている。この日の前に立つと胸が締め付けられる思いになる。
さて、本日の締めくくりにご紹介したい烏来出身のタイヤル族のミュージシャンがいる。不浪・尤幹(Bulang Yukan)さん、漢名を黄建福と言った。自ら歌手でもあり、音楽プロデューサーでもある彼は、張恵妹(A-Mei)さん、任賢齊(リッチー・レン)さん、王力宏(ワン・リーホン)さんといった大物アーティストの音楽制作も手掛けたことがある。また、2002年に公開された台湾映画『夢幻部落(英題:Somewhere Over The Dreamland)』(鄭文堂監督)の映画音楽を制作し、第39回金馬奨国際映画祭で最優秀オリジナル映画楽曲賞を受賞した。この映画は同じ年の金馬奨で最優秀台湾映画作品賞も受賞したのだが、作品の中で主人公の瓦旦を演じたのは、不浪・尤幹(Bulang Yukan)の実の兄で、シンガーソングライターの尤勞・尤幹(Yulao Yukan)さんだった。
才能溢れる音楽人だった不浪・尤幹(Bulang Yukan)さんだったが、2005年の大晦日に36歳の若さでこの世を去った。この番組でもたびたび取り上げている齊秦さんの北京首都体育館で行われたコンサートに客演した彼は、公演中に誤って3メートルの高さの舞台から転落し、救急搬送先で2006年の元日の未明に帰らぬ人となってしまったのだった。あれから18年。本日は不遇の死を遂げた烏来出身の不浪・尤幹(Bulang Yukan)さんを記念して、彼が台湾の歌姫・張恵妹(A-Mei)さんに提供(作・編曲、プロデュース)した楽曲『好想見你(会いたい)』をOAしてお別れしたい。この曲は張恵妹(A-Mei)さんの5番目のアルバムで、台湾国内でもミリオンセラー、全世界では800万枚のセールスを記録した『我可以擁抱你嗎?愛人(あなたを抱きしめてもいいの?愛しい人よ)』に収録されている切ないバラード。華語(中国語)版(タイトルは『不在乎他(アイツなんて気にしない)』と日本語の二つのバージョンがあるが、本日は日本語版の『好想見你(会いたい)』をお届け。