お聴きいただきありがとうございます。手品・マジック・大道芸やサーカスなど、広く見世物をテーマに作りました。構想を重ねるにつれ上記テーマの本質に迷走してしまいましたが、まずはこれらに共通するものを「想定の逸脱」と置くことにしました。古代ローマの「パンとサーカス」という語からもわかるように見世物的興行は大昔から世界中で行われており、小さな子どもでも楽しめるものとされてきました。これは工夫によるものというよりも見世物の性質に起因するようで、現象に基づく感覚的な提示がなされる点に学や知識の不要性が見てとれます。また、広義の見世物について、人の直感的想定をジャグリングよろしく手玉にとるものであると見るなら、より翻弄されやすい小さな子どもが楽しめるのは当然と言えるでしょう。そう考えると、見世物とは心のお手玉だと言っても過言ではありません。「心のお手玉」と「想定の逸脱」を組み合わせると内情があらわとなります。人は常日頃から無意識に想定というある種の予測システムを設けています。この予測システムをお手玉することが見世物の本質であると考えられるのです。想定というシステムから逸脱した現象と遭遇したときに驚きが生まれ、驚きという自己世界からの裏切りにさまざまな感情が発生します。あらかじめ裏切りがあることを前置きするという約束ごとにより、感情から恐怖が取り除かれ、残った複合的なものが「おもしろい」へ集約されます。こうした内情を音楽に当てはめるのは至難の業であると思います。どうしたものかと考え、約束ごととして前置きされる派手な空気感衣装やサーカステント、ピエロや怪しいタキシード、そして演者の立ちふるまいなど、それら全部をひっくるめた独特な雰囲気にしてしまおうと考え、ここに奇術らしい逸脱を設けながらおもしろい曲をめざしました。