田舎坊主の読み聞かせ法話

田舎坊主の愛別離苦<5年と1ヶ月と1週間>ー看病の果てー


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次女の七回忌の法事をすませた夜、妻が腹痛を訴えた。

エコーで診てもらったところ、肝臓に小さな影があるということで、念のため、成人病センターで診察を受けることになった。

精密検査を済ませたあと、別室に呼ばれた私に先生は、

「肝臓ガンです。手術をしてもよくて余命は5年以内」と告げられた。私は、先生に「本人にはガンのことは告知しません」と伝え、最後までガンであることは話さないと決意した。

私は病室に帰ってできるだけ表情を変えず「手術でとれるから正確な診断はそれからやと」といい、2日後、手術と決まった。

最初は数時間の手術時間と聞いていたが、六時間ほど経過したころ、先生が手術室から出てきて、

「膵臓にもガンがあることがわかり、膵液が漏れないよう、切っては縫い切っては縫いを繰り返す必要があるため何時間かかるか分からない」

というのだ。結局、13時間という大手術だった。

 *

自宅での療養後、症状は悪化し、近くの病院へ入院。

MSコンチン(モルヒネ鎮痛薬)だけの治療が続いた。

手術して一年半後の春、私は主治医に家で看ることを告げ、館長をつとめている公民館の文化祭が終わったあと、自宅に連れ帰った。

約3ヶ月後のある日、「トイレへ行きたい」というので、まだ和式だったわが家のトイレにやせた彼女を子どものように抱いて用をすませた。

大きな便を一つしたあと、布団に横たえて五分も経たないうちに呼吸の間隔が長くなり、穏やかに息をひきとった。

愛娘に寄り添って看病した5年と1ヶ月と1週間は心労とストレスと疲労を滞積し、母親の体をもむしばみ、先立った娘のもとへと40歳での旅立ちを急いでしまった。 

娘の死後、妻は得度し、その子の名前の一文字「英」をとった僧名「妙英」を戒名に記した。

 舞徳院蓮容妙英大姉

享年四十歳


合掌

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7月からのシーズン3の読み聞かせ法話の本は

2009年に出版した「田舎坊主の愛別離苦」です。

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田舎坊主シリーズ

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒