田舎坊主の読み聞かせ法話

田舎坊主の愛別離苦<父が逝き、母も逝き>ー心疲れたY子さんー


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Y子さんは会社員のご主人と、もう立派に就職した一男一女の四人暮らしだ。とても料理が得意で、いつも手作りの品々を届けてくれた。

「これ食べてくれる?」

ぬくぬくの作りたてこんにゃくを持ってきてくれたこともあるし、めずらしくないといいながら、よもぎ餅のつきたてを届けてくれた。

ある時には、ついさっき私の寺の前を通り抜けたかと思うと、玄関のピンポンを押して、

「そこで飼ってるニワトリが卵を産んだんやけど、食べてくれる?」

と、これもぬくぬくの玉子を届けてくださる。

いつも気にかけてくれて、優しく控えめに接してくれる人だ。

ある春の日、夜遅く、というより深夜、玄関のピンポンが鳴って開けてみると、Y子さんが立っていた。

「こんな時間に、どうしたん?」と聞いてみると、

「院家さん、ちょっと話聞いてもらえる?」と、かなり昂揚した様子で話すのだ。

座敷に上がってもらい、話しを聞くことにした。正座で向き合い、話し出したたくさんの言葉を聞いているうち、Y子さんには数え切れないいろんな悩みが渦巻いているうえにこころが疲れていると感じた。

約二時間ほど聞いたあと、私はY子さんに、

「般若心経を唱えようか」とすすめた。

二人で般若心経とお不動さんの真言と南無大師遍照金剛をいっしょに唱えると、それが功を奏したのか、または話すだけ話して気がすんだのか、どちらともわからなかったが、だいぶ落ち着き、その夜は帰ってもらうことにした。

家が近づくと、いつもの控えめな感じで、

「ありがとう、すいません」といって、家へと入っていった。

翌日の昼ごろ、「きのうは、わざわざ送ってくれてすいませんでした」とYさんが酒の粕を持ってきてくれた。

私が、「いつでも、話しがしたなったら来たらええで」というと、「おおきに」といって帰っていった。

私はその様子から、昨日の深夜の訪問は特別なことなのだと思っていた。

しかし、次の日も午前1時過ぎにピンポンが鳴った。開けるとY子さんだった。

春とはいえこの時間帯には気温も下がり寒いため、すぐ座敷に上がってもらって話しを聞くことにした。

話の内容は、前の日と同じでやはり長い時間話してくれた。ひとしきり聞いたあと、また般若心経とお不動さんの真言と南無大師遍照金剛を唱え、帰ってもらった。

帰り際に、「不安になったら、般若心経唱えてみたらどうかな」というと、「はい」と小さな声でいって帰っていった。

こんな日が何日か続いた。

合掌

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7月からのシーズン3の読み聞かせ法話の本は

2009年に出版した「田舎坊主の愛別離苦」です。

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒