田舎坊主の読み聞かせ法話

田舎坊主の愛別離苦<栄枯盛衰は世のならい>ー欄間職人としてー


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大正のはじめ五人兄弟の長男として生まれたSさんは、幼くして欄間職人に付き、人一倍の努力を重ね、若くして自分の欄間製造工場を持つようになった。

もともと欄間に適した良質の杉や桐がとれる土地で、周辺には材木屋や建具屋が軒を連ね、Sさんは周辺の山を買い、製材部門とともに欄間工場を成長させていった。

しかも職人上がりのSさんが作る欄間彫刻は、その繊細さにおいて右に出るものはいないともいわれ、ある時には現代の名工として地元のテレビで紹介されたこともあるほど評判も良く、Sさんを慕って弟子入りする職人も数少なくなかった。

大工の信頼も篤く、高度経済成長の中、重厚な和風建築には欠かすことのできない欄間は飛ぶように売れ、事業が順調に推移すると、拡大した建具とともに製品は県内外へ出荷するようにもなり、いつの間にか県内屈指の欄間建具製造専門店へと発展していったのである。

Sさんは3子をもうけ、多くの従業員とともに子どもたちも家業を手伝い、工場に現場に事務にと力を合わせていた。

しかし時代の流れとともに大工が請負で日本家屋を建てるのではなく、大企業系の建築会社が大量にしかも安価で工務店に発注し、工務店に雇われた大工が工場でプレカットされた建材を現場で組み立てるといったような作業が急増してきた。

それにつれて建築家屋自体が洋風化すると、畳はフローリングに変わり、押し入れはクローゼットになり、土壁はクロス貼りとなって和室は激減し、みるみる欄間や従来の建具の売り上げは落ちていった。

好調期に投資した大規模な工場は物置状態となり、従業員は一人減り二人減りしながら、ついには居宅だけ残し、工場を売却しなければならない状況に追いやられてしまった。

栄枯盛衰は世の習いとはいえ、Sさんの一生は修行、努力、忍耐、成長、拡大、成功、減衰、縮小、廃業と、いわば扇の開きを絵に描いたような弧を描いて欄間建具製造業を閉じることとなったのである。

しかもその後、ただ一つ残った居宅で長年連れ添いSさんを支え続けた妻は病のため寝たきりの状態となり、妻が84歳でなくなるまで看病する日々が続いた。

この間、Sさん自身も脳梗塞を患い、ヘルパーさんや家政婦さんの力を借りながらの老老介護が続いた。

世間では、老いてから妻を亡くした男の余命はあまり長くないとよく言われるが、Sさんも妻が逝った一年後、その後を追うように89歳で旅立ったのだ。

 合掌

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7月からのシーズン3の読み聞かせ法話の本は

2009年に出版した「田舎坊主の愛別離苦」です。

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒