田舎坊主の読み聞かせ法話

田舎坊主の愛別離苦<突然の別れ>ーA君のことー


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夜は急患で呼び起こされることがなく、土日はきっちり休んで家庭奉仕に時間を費やすことができ、収入はしっかり稼げる。

そんな医師希望者が多くなっているなか、志高く医療最前線で働く若者がいる。

A君は小学生のころ私の家の前が通学路だった。

日行などで朝出会って「おはよう」とあいさつしても、恥ずかしがってだまっているような、シャイでそれほど目立たない普通の男の子だった。

中学生になると紀ノ川に新しく架かった橋を渡って通学するようになり、それ以来、私は彼を見かけることが少なくなっていったのである。

久しぶりにA君のことで電話があった。

しかし電話の内容は、A君が大学を卒業し、大阪の病院でレントゲン技師をしていたが、仕事に出て来ず連絡が取れないと病院から実家に電話があり、お父さんがアパートへ行ったところ、布団に寝たままですでに息絶えていたというのだ。

それはA君、満26歳での死亡の知らせだった。

自分がどんどん老人に向かっているのを忘れ、よその子ばかりがどんどん大きくなっていると錯覚することはよくあることだ。

家の前を歩く小学生のA君しか思い浮かんでこない私は、

「もうそんな大きくなっていたのか」と思うと同時に、

「そんな若さで、なんで?」と、相反する二つの驚きがおそってきた。

しかし、やはり脳裏に浮かぶのは小学生の時、私の家の前をはにかみながら学校に行くシャイな笑顔のA君であった。

ご遺体は実家に帰り、枕飾りされたA君の永遠の寝顔は穏やかそのものだった。

そして私の知っているA君のあのシャイな笑顔は、大人びてしっかりと足を踏みしめて、医療の現場で磨かれている若者の顔となっていた。

ふるさとの偉人華岡青洲の弟子たちに送られた漢詩を心に、自ら厳しい救急現場のレントゲン技師の道を歩み、過ちの許されない日々のなかで、シャイではにかみやだったA君の心は、多くのストレスと責任感で自分の体を突然死へと追いやったのかも知れない。

世の中にはA君のご両親のように、息子の突然の死を経験をする人が多くいることを知識として知ってはいても、やはり一人の僧侶としてその当事者を前にすると、その辛さと悲しみは尋常ではないことを思い知らされる。

しかも看病する暇(いとま)もなく、最期の言葉を交わす暇もなく、父と母はただただ愛しいわが子の葬儀の段取りを考えねばならない残酷。

 それにしても、二十六歳の息子を突然送る両親の悲しみは察するに余りあるものがある。

私自身涙をこらえ、枕経の読経をしているとき、突然、枕元に置かれたA君の携帯電話が鳴った。

電話の友達は彼が亡くなったことをまだ知らないのだ。

そのことがいっそう悲しみを深めていったのである。

合掌

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7月からのシーズン3の読み聞かせ法話の本は

2009年に出版した「田舎坊主の愛別離苦」です。

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒