田舎坊主の読み聞かせ法話

田舎坊主の愛別離苦<突然の別れ>ー華岡青洲と仁術ー


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「医は仁術」といわれた時代は、はるか過去に追いやられてしまったのか。

アメリカ人モートンのエーテル麻酔の成功からさかのぼること42年の1804年、世界ではじめて「通仙散」による全身麻酔の乳ガン摘出手術を成功させた、華岡青洲の生誕地が私の家の近くにある。

世界に誇る「全身麻酔術」という偉業は、和歌山県出身の有吉佐和子さんの小説「華岡青洲の妻」で世に知られることになるのだが、この小説は華岡青洲の妻加恵と母お継の嫁姑関係にスポットライトが当てられた作品でもある。

今、当地には青洲が診療所と住居を兼ねた「春林軒」が当時の部材を利用して再建され、手術の様子などが人形で再現されている。さらに「フラワーヒルミュージアム」という博物館も完成し、現在では「道の駅 青洲の里」となって多くの人が訪れるようになった。

華岡青洲は、20年間、漢方麻酔薬の開発に没頭し、数多くの動物実験に成功したあと、ついに人体実験に踏みきることになる。

まずは青洲の母、お継が申し出る。

「私は老い先も長くはない。お前の研究のためになるんやったら、万が一、薬が効きすぎて、もしものことになっても何も惜しいことはない。どうぞ私を実験台に使うていたあかいて(使って下さい)」

 妻の加恵もすかさず、

「お母はんはやめといておくれ、私は青洲先生の妻だす。人の命を救う尊い研究のためなら、私が実験台になります。どうぞ私を使うていたあかいて」

と、自ら母にあらがうように申し出たのである。

青洲は二人の気持ちをくんで母にも妻にも人体実験を行うが、母に施した麻酔剤の薬量は動物実験に使用した程度のもので、それほど危険なものではなかった。しかし、妻加恵には、母とは比べものにならないほどの薬量を使用した、真剣な人体実験をおこなった。

綿密な準備と資料収集のための実験体制を整えた上の、命がけの実験だったのだ。実験は繰り返され、麻酔薬はその都度、量や割合を変え、ある時には死んだのではないかと思えるほど、何日も目を醒ますことがなかったこともある。

そして度重なる麻酔実験は、ついに加恵から視力を奪ってしまうことになるのだが、この献身的な協力があったからこそ、全身麻酔薬「通仙散」が完成するのである。

その後、華岡青洲のもとには全国から最新医学を学びたいと多くの医学生が集まり、学業と実験に励んだ。

そしてやがて修学を終え、春林軒を卒業して故郷に帰る弟子たちに、免状とともに自筆の漢詩をしたためた一幅の掛け軸を贈った。

その一編の詩こそ、まさに「医は仁術」を説いたものであった。

 それには次のように書かれていた。

  竹屋簫然烏雀喧(ちくおくしようぜんうじやくかまびすし)

 風光自適臥寒村(ふうこうおのずからかんそんにがすにてきす)

 唯思起死回生術(ただおもうきしかいせいのじゆつ)

 何望軽裘肥馬門(なんぞのぞまんけいきゆうひばのもん)

(大意)

住まいの家はそんなに立派ではないが、

鳥のさえずりが聞こえ、さわやかな風が吹く、

豊かな自然に恵まれた田舎に住んでいる。

私は、富も地位も栄誉も望まない。

ひたすら思うことは、病人を回生させる医術の奥義を極め、

難病患者を救いたいのだ。

お金を儲けて絹の着物を着たいとか、立派な馬に乗りたいとか、

決して思わない。

合掌

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7月からのシーズン3の読み聞かせ法話の本は

2009年に出版した「田舎坊主の愛別離苦」です。

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒