田舎坊主の読み聞かせ法話

田舎坊主の求不得苦<おわりに>


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人は必ず、あっちへ行く。

あっちはとは、だれひとり帰ってきて現地報告したことのないところだ。

そんなことは分かっていても、自分はまだあっちへは行かないと多くの人は思っている。

どちらかというとあのお年寄りが先で、自分はまだ。

あの病院通いばかりしている人が先で自分はまだ。

そう思っている。 


「浜までは 海女も蓑着る 時雨かな」という句がある。


この句には二つの意味を含んでいる。

ひとつは、

「海水の中で水に濡れなければ仕事にならない海女でさえ、時雨に濡れて体調を崩すことのないように、死を説き、死を厭わない僧である私でもほんとうの悟りを得て仏さまのところにいくまでは体調に配慮して薬も飲むんだよ。」という意味だ。


ふたつは、

「海女さんは海にもぐって貝などを採ってそれを生業にしている。例外なく海にもぐればそのからだを濡らすことは分かっていても、その海に入るところまでの浜で時雨が降ってくれば、それには濡れないように蓑を着るものだ。人も例外なく死がやってくることはみんな知っているが、いよいよそのときが来るまで自分の死を考えないものだ。」という意味だ。


このふたつの意味はどちらかというと対照的だが、後者の意味の方が深いような気がする。

お釈迦さまは「匙の 汁に浸って その味を知らず」と説いた。


香り高いコーヒーにシュガーやミルクを入れ、スプーンでひと混ぜしてもそのスプーンはコーヒーの味も香りも分からないように、私たちは生きてるあいだに自分の周囲で、突然の事故や災害、病気などで亡くなる人を常に目や耳にして知っているのに、そのスプーンのようにいつまでも自分のこととして考えないというのだ。

 

あっちへ行くのは「あすかも知れない」と思い生きることで、どれだけ大切に生きることができるのだろうか。


 いま険悪中の友人と仲直りしとかないと・・・・

 借りた義理は心を込めて返しておかないと・・・・

あやまる機会を逸している人は早めにあやまっとかないと・・・・

 何かの役に立ちたいと思っているならすぐ実行しないと・・・・

 いまあなたが必要とされているならそのために尽くさないと・・・・

 さあ、すぐ実践してみてはどうだろう。

合掌

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒