田舎坊主の読み聞かせ法話

田舎坊主の求不得苦<人生坂道を下るがごとし>


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私、田舎坊主の誕生日は卯(うさぎ)年の2月22日。

平成22年2月22日と並びのいい59歳も過ぎ、今は還暦も過ぎてしまった。

還暦は文字どおり暦が還ると書く。いわば「もう一度、再スタート」ということなのか。

子どものころ、40歳を過ぎた大人を見て、

「ええ年のおっさんやなあ」と思ったものだ。

そのころは、自分が40歳になるのは、はるかはるか遠い将来のことのように思っていた。

たしかに年月の経過も、今よりずっと遅かったように思うのだが、ところが日々の経過は「加速」されることに気がつきだした。

つまり同じ速さで経過しないのだ。

実際にはそんなことはあり得ないのだが、確かに加速されて日々は過ぎ去っていく。

そのことが分かったのは「ええ年のおっさんやなあ」と思った40歳を過ぎたころからだ。つまり厄年ころからということになる。

人間の生理活動というか生命活動はそのころが頂点なのかも分からない。だからあとは下り坂を転げ落ちるのみ。

おのずと地球上では下りは加速されるので、当然日々の経過は速くなるのだ。

そうあきらめかけたころに還暦がやってくる。


昔は赤いじんべ(チャンチャンコ)と帽子のようなものを贈られて身につけたようだが、私にはまったくそのようなものは届かなかった。

というより、人間というのは幸せな動物で自分が還暦を迎えてみても、どうもそんなに年寄りのような気がしないのだ。

いまだに似たような年の人の方が「自分よりおっさん」と思っている。


還暦とはこの「下りの加速」にブレーキをかけ、一旦止まって「もう一度、再スタート」ということを考えさせてくれる先人の知恵なのかも知れない。

ただ再スタートするにはくたびれすぎていて、うさぎ年といいながらすでに飛び跳ねられず、歩いていてもよくつまずく。それもあまり段差がないにもかかわらずだ。

兎にも角にも、還暦を過ぎてしまった。

ちなみに「兎に角(とにかく)」という言葉は「兎角亀毛」という中国の古い言葉から来ているようで、「うさぎに角、亀の甲に毛がはえる」という、「あり得ないこと」を言ったものだそうだ。

これから先、暦は折り返しても新しくなるものは何もなく、今までどおりどんどん古くなるばかりで、ましてや突飛ないいことは起こらないのである。

無常の風が吹いてくるころになっても「あれがほしいこれがほしい」、「俺のものだ」と、しがみついた生き方だけはしていたくないのだ。

とりあえず還暦は、地道に生きる愚直さを怠らないようにせよという、戒めと受け取ることにしている。


ところで、東京聖路加病院理事長の日野原重明さんは現在100歳(当時)だ。

いま取り組んでいることは自著の絵本から生まれたミュージカルを監督指揮し、子どもたちとともに世界の舞台で上演すること。

もう一つは憲法九条を守る運動だ。

もちろん「いのち」や「生きること、老いること」についての啓蒙は数えきれないほどあるが、この人にしか言えない言葉「100歳からの人生」にはただただ驚かされる。

日野原重明さんの声が聞こえそうだ。

「還暦? 若い!若い!」


合掌

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒