田舎坊主の読み聞かせ法話

「田舎の法事 ー本尊はタヌキー」田舎坊主のぶつぶつ説法


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田舎での法事はほとんど自宅で行われる。先祖の親類縁者が寄り集まり、故人の冥福を祈るとともに、久しぶりの再会に元気なようすを確かめ合い、そして思い出話に花を咲かせるのである。

法事のメニューは、坊主が経をあげ、説法をし、墓参りをするのであるが、どちらかと言えば、その後の宴席が当家にとっては一番大儀でもある。

さて、当地では法事の際、ほとんどの家が仏壇から位牌を取り出し、床の間にあらたに壇をしつらえる。

位牌を正面に置き、前に花瓶、線香立て、花立て、ロウソク立てを並べる。果物やお菓子、季節の花や故人の好物だった品々がたくさん供えられる。

招待された親戚は、お金を包んだ封筒と品物を一セットにしてお供えする。

本来、法事は、亡くなって自らお経をあげることができなくなったご先祖に対し、檀那寺から坊主を招き、遺族とともに故人に代わって、本尊にお経をあげることなのである。だから、仏壇の中の本尊やまたは本尊に代わる掛け軸を、あらたにしつらえた壇の正面後ろ側に安置しなければならないのであるが、ほとんどの家は位牌を中心正面に置き、本尊までは気がまわらず、床の間の置物がそのまま本尊代わりになっていることが多いのだ。

その置物は、あるときは鷹の剥製であったり、あるときは徳利をもったタヌキがヘソを出して立っていたりする。

私は同じタヌキでも、楊子(ようじ)をくわえた紋次郎タヌキにもお経をあげたことがある。

坊主になりたてのころのことである。たぶん若い坊主の私には、あまり「ありがたみ」がなかったのだろう、お経をあげている間、招待客が静かにしていることが少なかった。もちろん、久しぶりにあったもの同士、積もる話があったのだろう。とは言っても、田舎のこともあって、話の内容はほとんどが農作物のでき具合や農作業の進み具合を話しているのだ。

「お前んとこ、柿の消毒は済んだのか?」

「ミカンの摘果は、どうだい?」

と、話は尽きることがないが、私のお経が終わると静かになる。

こんなことが何回かあったあと、「おしゃべり封じ」のため勤行次第を作り、それを配っていっしょに唱えてもらうことにしたのだ。

以来、だんだん農作業の話はなくなっていった。

ところが、家でお経をあげようと思っても、勤行次第だけでは唱え方が分からないと、お経を吹き込んだ録音テープがほしいというのだ。

私はかなりの数をダビングして檀家に配ったが、一向に上手くならなかった。

それもそのはず、仏壇の前でテープをかけたまま農作業に出て行ってるんだから、上手くなるはずがないのだ。

合掌


4月からのシーズン2の読み聞かせ法話の本は

私の初版本で、2002年に出版した「田舎坊主のぶつぶつ説法」です。

後に「田舎坊主シリーズ」とつながる第1弾です。

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒