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<われらの法学入門 8(民法債権法改正で何がどう変わったのか?)>
ラジオ収録20200616
1 民法債権法改正
1896(明治29)年に制定以来、およそ120年ぶりの改正
2017(平成29)年制定、2020(令和2)年4月1日施行
・経済社会の変化への対応
・判例および取引実務におけるルールを明文化
改正のポイント
(1) 意思・意思表示
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったとき→その法律行為は無効(民3条の2)
心裡留保(民93条1項ただし書)
相手方の認識の対象→「真意でないこと」
第三者の保護要件→善意(無過失は不要)
錯誤(民95条)
表示の錯誤(意思表示に対応する意思を欠く錯誤)
動機の錯誤(表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤)→法律行為の基礎とされていることが表示されていたことも要件
効果→取消し(民95条1項)
錯誤が表意者の重大な過失によるもの→取消し不可(民95条3項)
詐欺(民96条)
第三者が詐欺を行った場合、相手方がその事実を知り、または知ることができたときも取消し可(民96条2項)
意思表示の効力発生時期(民97条)
到達主義(民97条1項)
相手方が正当な理由なく意思表示の通知の到達を妨げたとき→その通知は通常到達すべきであった時に到達したものとみなす(民97条2項)
(2) 保証人保護の強化
極度額の定めのない個人の根保証契約→無効(民465条の2)
事業のための借金については、公証人による保証意思確認の手続を経ないでした保証契約→無効(民465条の6~9)
※根保証契約(たとえば、住宅の賃貸借契約の保証人となる契約など)
→一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約→個人が根保証契約を締結する場合、保証人が支払いの責任を負う金額の上限である極度額を定めなければ保証契約は無効
※保証意思宣明公正証書→これは代理人に依頼できず、保証人となろうとする者が公証人の面前で保証意思を述べる必要あり。
(3) 定型約款
約款→不特定多数の顧客を相手方として取引を行う事業者があらかじめ定めた詳細な契約条項→顧客はそれをよく確認しないまま契約を締結することが通例
民法には約款を用いた取引に関する基本ルールがなかった。
1 当事者間で定型約款を契約の内容とする旨の合意
2 定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ顧客に表示して取引を行った場合、個別の条項についても合意したものとみなす(合意擬制)。
3 信義則に反して顧客の利益を一方的に害する不当な条項は合意しなかったものとみなす(不当条項の排除)。
4 定型約款の事前事後の表示←パンフレット、インターネット
5 定型約款の変更←変更が顧客の一般の利益に適合する場合、変更が契約の目的に反せず、かつ変更にかかる諸事情に照らして合理的な場合に限って認められる。※変更が合理的であるかの判断基準→変更の必要性、変更内容の相当性等。
(4) 法定利率
法定利率→貸金等の利率や遅延損害金に関する合意がない場合に適用される利率。
当初原則年3%、その後、市場の変動に応じて3年ごとに見直す変動金利制へ
(5) 消滅時効制度の見直し
債権の消滅時効→債権者が一定期間権利を行使しない場合、権利が消滅する制度。
債権の消滅時効は一律知った時から5年
ただし、権利を行使することができることを知らないような債権(借金返済金の過払い等)→権利を行使することができるときから10年。
短期消滅時効(医師診療報酬3年、弁護士報酬2年、飲食代1年、動産レンタル代1年、商事債権5年)の廃止
人の生命身体による損害賠償請求権は一般不法行為の特則(民724条の2)に合わせて、知った時から5年、権利を行使することができる時から20年。
※一般不法行為の消滅時効→知った時から3年、不法行為時から20年(民724条)
時効の中断(リセット)→時効の更新
時効の停止→時効の完成猶予(時効が完成する際に、権利者が時効の中断をすることに障害がある場合に、その障害が消滅した後一定期間経過するまでの間時効の完成を猶予するもの。)
(6) 詐害行為取消権
詐害行為→債務者が自己の財産を減少させる行為
債権者は債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができるが、その受益者(その行為によって利益を受けた者)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときはこの限りでない(民424条1項)。
詐害行為の類型
財産減少行為(財産の贈与など)
相当価格処分行為(財産を売却し、隠しやすい金銭に換価すること)
偏頗行為(債務者が一部の債権者にのみ弁済し、債権者平等を損ねる行為)
(7) 債権譲渡・債務引受
譲渡債権→一般債権か預貯金債権か
一般債権→譲渡制限特約に反する債権譲渡であっても有効(民466条2項)
譲受人が悪意・重過失の場合、債務者は譲受人の履行を拒むことができ、譲渡人に対する履行を譲受人に対抗できる(民466条3項)
預貯金債権→譲渡制限特約がある場合、悪意・重過失の譲受人に対する債権譲渡は無効(民466条の5第1項)。
債務引受
併存的債務引受→引受人は債務者と連帯して債務者が負担する債務と同一の債務を負担する(民470条1項)
免責的債務引受→引受人は債務者の債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる(民472条)。
(8) 売買
瑕疵から契約不適合へ
債務不履行責任としてこれまで不明確であった買主の一部の権利が明記。
売主の、物の種類または品質に関する契約内容不適合責任←契約責任説
買主の売主に対する
履行の追完請求(修補・代替物・不足分の引渡し)(民562条)
代金減額請求(民453条)
買主の権利の期間制限
契約内容不適合を知った時から1年以内に通知(民566条)
危険負担
売買の目的物の引渡し後、その目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失・損傷したときは、買主は履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求および契約解除をすることができず、また、買主は代金の支払を拒むことができない(民567)。買主の受領遅滞、受領不能の場合でも同様(民567条2項)。
(9) 請負
請負→仕事の結果に対して報酬が支払われる契約→仕事が完成するまでは請負人が常にまったく報酬を請求できないのは不合理であることから→注文者の責めに帰すことができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき等の場合、既履行部分が可分であり、かつ可分な部分の給付によって注文者が利益を受ける場合には、既履行部分について報酬請求権が発生(民634条)。
(10) 要物契約から諾成契約へ
消費貸借契約(書面によらない場合にのみ要物契約)
使用貸借
寄託契約
(11)賃貸借
敷金の原則的返還
原則として賃貸借契約が終了し、その目的物の引渡しを受けたら、必要な部分を除いて返還すべき。
賃貸借の終了に際しては、借主が現状回復をする義務(民621)があるが、賃借物の通常の損耗・経年劣化についてはその義務はない。
<われらの法学入門 8(民法債権法改正で何がどう変わったのか?)>
ラジオ収録20200616
1 民法債権法改正
1896(明治29)年に制定以来、およそ120年ぶりの改正
2017(平成29)年制定、2020(令和2)年4月1日施行
・経済社会の変化への対応
・判例および取引実務におけるルールを明文化
改正のポイント
(1) 意思・意思表示
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったとき→その法律行為は無効(民3条の2)
心裡留保(民93条1項ただし書)
相手方の認識の対象→「真意でないこと」
第三者の保護要件→善意(無過失は不要)
錯誤(民95条)
表示の錯誤(意思表示に対応する意思を欠く錯誤)
動機の錯誤(表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤)→法律行為の基礎とされていることが表示されていたことも要件
効果→取消し(民95条1項)
錯誤が表意者の重大な過失によるもの→取消し不可(民95条3項)
詐欺(民96条)
第三者が詐欺を行った場合、相手方がその事実を知り、または知ることができたときも取消し可(民96条2項)
意思表示の効力発生時期(民97条)
到達主義(民97条1項)
相手方が正当な理由なく意思表示の通知の到達を妨げたとき→その通知は通常到達すべきであった時に到達したものとみなす(民97条2項)
(2) 保証人保護の強化
極度額の定めのない個人の根保証契約→無効(民465条の2)
事業のための借金については、公証人による保証意思確認の手続を経ないでした保証契約→無効(民465条の6~9)
※根保証契約(たとえば、住宅の賃貸借契約の保証人となる契約など)
→一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約→個人が根保証契約を締結する場合、保証人が支払いの責任を負う金額の上限である極度額を定めなければ保証契約は無効
※保証意思宣明公正証書→これは代理人に依頼できず、保証人となろうとする者が公証人の面前で保証意思を述べる必要あり。
(3) 定型約款
約款→不特定多数の顧客を相手方として取引を行う事業者があらかじめ定めた詳細な契約条項→顧客はそれをよく確認しないまま契約を締結することが通例
民法には約款を用いた取引に関する基本ルールがなかった。
1 当事者間で定型約款を契約の内容とする旨の合意
2 定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ顧客に表示して取引を行った場合、個別の条項についても合意したものとみなす(合意擬制)。
3 信義則に反して顧客の利益を一方的に害する不当な条項は合意しなかったものとみなす(不当条項の排除)。
4 定型約款の事前事後の表示←パンフレット、インターネット
5 定型約款の変更←変更が顧客の一般の利益に適合する場合、変更が契約の目的に反せず、かつ変更にかかる諸事情に照らして合理的な場合に限って認められる。※変更が合理的であるかの判断基準→変更の必要性、変更内容の相当性等。
(4) 法定利率
法定利率→貸金等の利率や遅延損害金に関する合意がない場合に適用される利率。
当初原則年3%、その後、市場の変動に応じて3年ごとに見直す変動金利制へ
(5) 消滅時効制度の見直し
債権の消滅時効→債権者が一定期間権利を行使しない場合、権利が消滅する制度。
債権の消滅時効は一律知った時から5年
ただし、権利を行使することができることを知らないような債権(借金返済金の過払い等)→権利を行使することができるときから10年。
短期消滅時効(医師診療報酬3年、弁護士報酬2年、飲食代1年、動産レンタル代1年、商事債権5年)の廃止
人の生命身体による損害賠償請求権は一般不法行為の特則(民724条の2)に合わせて、知った時から5年、権利を行使することができる時から20年。
※一般不法行為の消滅時効→知った時から3年、不法行為時から20年(民724条)
時効の中断(リセット)→時効の更新
時効の停止→時効の完成猶予(時効が完成する際に、権利者が時効の中断をすることに障害がある場合に、その障害が消滅した後一定期間経過するまでの間時効の完成を猶予するもの。)
(6) 詐害行為取消権
詐害行為→債務者が自己の財産を減少させる行為
債権者は債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができるが、その受益者(その行為によって利益を受けた者)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときはこの限りでない(民424条1項)。
詐害行為の類型
財産減少行為(財産の贈与など)
相当価格処分行為(財産を売却し、隠しやすい金銭に換価すること)
偏頗行為(債務者が一部の債権者にのみ弁済し、債権者平等を損ねる行為)
(7) 債権譲渡・債務引受
譲渡債権→一般債権か預貯金債権か
一般債権→譲渡制限特約に反する債権譲渡であっても有効(民466条2項)
譲受人が悪意・重過失の場合、債務者は譲受人の履行を拒むことができ、譲渡人に対する履行を譲受人に対抗できる(民466条3項)
預貯金債権→譲渡制限特約がある場合、悪意・重過失の譲受人に対する債権譲渡は無効(民466条の5第1項)。
債務引受
併存的債務引受→引受人は債務者と連帯して債務者が負担する債務と同一の債務を負担する(民470条1項)
免責的債務引受→引受人は債務者の債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる(民472条)。
(8) 売買
瑕疵から契約不適合へ
債務不履行責任としてこれまで不明確であった買主の一部の権利が明記。
売主の、物の種類または品質に関する契約内容不適合責任←契約責任説
買主の売主に対する
履行の追完請求(修補・代替物・不足分の引渡し)(民562条)
代金減額請求(民453条)
買主の権利の期間制限
契約内容不適合を知った時から1年以内に通知(民566条)
危険負担
売買の目的物の引渡し後、その目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失・損傷したときは、買主は履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求および契約解除をすることができず、また、買主は代金の支払を拒むことができない(民567)。買主の受領遅滞、受領不能の場合でも同様(民567条2項)。
(9) 請負
請負→仕事の結果に対して報酬が支払われる契約→仕事が完成するまでは請負人が常にまったく報酬を請求できないのは不合理であることから→注文者の責めに帰すことができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき等の場合、既履行部分が可分であり、かつ可分な部分の給付によって注文者が利益を受ける場合には、既履行部分について報酬請求権が発生(民634条)。
(10) 要物契約から諾成契約へ
消費貸借契約(書面によらない場合にのみ要物契約)
使用貸借
寄託契約
(11)賃貸借
敷金の原則的返還
原則として賃貸借契約が終了し、その目的物の引渡しを受けたら、必要な部分を除いて返還すべき。
賃貸借の終了に際しては、借主が現状回復をする義務(民621)があるが、賃借物の通常の損耗・経年劣化についてはその義務はない。