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オープニングソング「水魚の交わり(魚水情)」
エンディングソング「バイオバイオバイオ(遺伝子の舟)」
作詞作曲 楠元純一郎
編曲 山之内馨
<われらの会社法20(取締役の義務)>
ラジオ収録20201114
講師 楠元純一郎(法学者)
録音師 レオー(美術家)
ゲスト 松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)
<取締役の義務>
1 取締役の一般的義務
(1) 取締役と会社の関係
会社法330条→委任に関する規定に従う
(2) 取締役の善管注意義務
受任者(取締役)→善管注意義務(民644条)
善管注意義務の水準
→同様な地位・状況にある者に対して一般に期待される水準と解される。
→業種によって異なるのか?
金融機関の取締役
→破綻した銀行の取締役が行なった融資判断について善管注意義務違反・忠実義務違反を認めた判例→「銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らし、著しく不合理」(最判平20・1・28判時1997・148)
→「融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は一般の株式会社取締役の場合に比べ高い水準のものであると解され、…経営判断の原則が適用される余地は…限定的なものにとどまる」(最決平21・11・9刑集63・9・1117)
(3) 取締役の忠実義務
会社法355条→取締役は法令および定款ならびに株主総会の決議を遵守し、
株式会社のため忠実にその職務を行なわなければならない。
※ここで「法令」とは→会社・株主の利益保護規定だけでなく、会社が事業を行なう際に
遵守すべきすべての法令が含まれる(最判平12・7・7民集54・6・1767)
(4) 善管注意義務と忠実義務との関係
異質説→忠実義務は取締役が会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図っ てはならない義務
同質説→忠実義務は善管注意義務を敷衍し、一層明確にしたものにとどまり、善管注意義務とは別個の高度な義務を規定したものと解することはできない(最判昭45・6・24民集24・6・625)
(5) 経営判断の原則→取締役に一定の場合に幅広い裁量を認める原則
ビジネスにリスクはつきもの→よかれと思って経営しても失敗することもあり→結果的に失敗したからといって、常に善管注意義務違反に基づき損害賠償を請求されれば経営は萎縮する。→経営者としての人材が集まらなくなる。
日本版経営判断の原則(東京地判平14・7・18判時1794・131)
①経営判断の前提となった事実の認識(情報の収集・分析・検討)に不合理な誤りがないこと
②その事実に基づく意思決定の過程・内容が明らかに不合理でないこと
→裁量権の範囲を逸脱した違法はない→裁判所は取締役の経営判断に事後的に介入しない
判例→「決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである」(最判平22・7・15判時2091・90)
経営判断原則の適用要件
①取締役に自己または第三者の利益を図るような忠実義務違反がないこと
②法令定款違反が存在しないこと
③取締役が経営判断に際して、十分な情報を得て、熟慮検討していること
2 取締役の具体的な義務
(1) 監視義務
判例上の義務→「取締役は善管注意義務の一内容として、代表権の有無にかかわらず、他の取締役の行為が法令・定款を遵守し、適法かつ適正になされていることを監視する義務(監視義務)を負う」「(最判昭48・5・22民集27・5・655)
他の取締役の違法行為の可能性のある事実を知った場合にどこまで行動する義務があるか?
取締役会で報告
株主総会で報告
弁護士への相談
信頼の原則→特に疑うべき事情がない限り、他の取締役・使用人等からの情報についてそれを信頼することが認められる→内部統制システムが機能していることを条件に免責?
(2) 内部統制システム構築義務
内部統制システム→善管注意義務の一内容として、ある程度以上の規模の代表取締役には、会社の損害を防止するために、その事業規模・特性に応じた内部統制システムを整備する義務が存在すると解されてきた(大阪地判平12・9・20判時1721・3)。
平成26年会社法改正
すべての大会社→その機関構成に応じて、会社の業務の適正を確保するために必要な体制について決定しなければならない(会社348条4項、362条5項、416条2項)
大会社の取締役会設置会社→「取締役会の専決事項→取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務ならびに当該株式会社およびその子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」「(会社362条4項6号)→グループ内内部統制システムの整備義務
法務省令(業務の適正を確保するための体制)
取締役の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制(会規100条1項1号)
損失の危険の管理に関する規程その他の体制(同項2号)
取締役の職務の執行が効率的に行なわれることを確保するための体制(同項3号)
使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制(同項4号)
当該会社・親会社・子会社からなる企業集団における業務の適正を確保するための体制(同項5号)
監査役による監査が実効的に行なわれることを確保するための体制(同条3項)
(3) 内部統制システムの開示
内部統制システムに関する決定の概要
当該体制の運用状況
→事業報告に記載することによって開示(会社435条2項、会規117条1号、118条2号)
→それらの相当性→監査役による監査対象(会規則129条1項5号)
※内部統制システム構築には終わりがない
不正行為の手口は巧妙化の一途→それに応じて進化させるべき
過去に認められた体制がいつまでも妥当するとは限らない
オープニングソング「水魚の交わり(魚水情)」
エンディングソング「バイオバイオバイオ(遺伝子の舟)」
作詞作曲 楠元純一郎
編曲 山之内馨
<われらの会社法20(取締役の義務)>
ラジオ収録20201114
講師 楠元純一郎(法学者)
録音師 レオー(美術家)
ゲスト 松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)
<取締役の義務>
1 取締役の一般的義務
(1) 取締役と会社の関係
会社法330条→委任に関する規定に従う
(2) 取締役の善管注意義務
受任者(取締役)→善管注意義務(民644条)
善管注意義務の水準
→同様な地位・状況にある者に対して一般に期待される水準と解される。
→業種によって異なるのか?
金融機関の取締役
→破綻した銀行の取締役が行なった融資判断について善管注意義務違反・忠実義務違反を認めた判例→「銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らし、著しく不合理」(最判平20・1・28判時1997・148)
→「融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は一般の株式会社取締役の場合に比べ高い水準のものであると解され、…経営判断の原則が適用される余地は…限定的なものにとどまる」(最決平21・11・9刑集63・9・1117)
(3) 取締役の忠実義務
会社法355条→取締役は法令および定款ならびに株主総会の決議を遵守し、
株式会社のため忠実にその職務を行なわなければならない。
※ここで「法令」とは→会社・株主の利益保護規定だけでなく、会社が事業を行なう際に
遵守すべきすべての法令が含まれる(最判平12・7・7民集54・6・1767)
(4) 善管注意義務と忠実義務との関係
異質説→忠実義務は取締役が会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図っ てはならない義務
同質説→忠実義務は善管注意義務を敷衍し、一層明確にしたものにとどまり、善管注意義務とは別個の高度な義務を規定したものと解することはできない(最判昭45・6・24民集24・6・625)
(5) 経営判断の原則→取締役に一定の場合に幅広い裁量を認める原則
ビジネスにリスクはつきもの→よかれと思って経営しても失敗することもあり→結果的に失敗したからといって、常に善管注意義務違反に基づき損害賠償を請求されれば経営は萎縮する。→経営者としての人材が集まらなくなる。
日本版経営判断の原則(東京地判平14・7・18判時1794・131)
①経営判断の前提となった事実の認識(情報の収集・分析・検討)に不合理な誤りがないこと
②その事実に基づく意思決定の過程・内容が明らかに不合理でないこと
→裁量権の範囲を逸脱した違法はない→裁判所は取締役の経営判断に事後的に介入しない
判例→「決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである」(最判平22・7・15判時2091・90)
経営判断原則の適用要件
①取締役に自己または第三者の利益を図るような忠実義務違反がないこと
②法令定款違反が存在しないこと
③取締役が経営判断に際して、十分な情報を得て、熟慮検討していること
2 取締役の具体的な義務
(1) 監視義務
判例上の義務→「取締役は善管注意義務の一内容として、代表権の有無にかかわらず、他の取締役の行為が法令・定款を遵守し、適法かつ適正になされていることを監視する義務(監視義務)を負う」「(最判昭48・5・22民集27・5・655)
他の取締役の違法行為の可能性のある事実を知った場合にどこまで行動する義務があるか?
取締役会で報告
株主総会で報告
弁護士への相談
信頼の原則→特に疑うべき事情がない限り、他の取締役・使用人等からの情報についてそれを信頼することが認められる→内部統制システムが機能していることを条件に免責?
(2) 内部統制システム構築義務
内部統制システム→善管注意義務の一内容として、ある程度以上の規模の代表取締役には、会社の損害を防止するために、その事業規模・特性に応じた内部統制システムを整備する義務が存在すると解されてきた(大阪地判平12・9・20判時1721・3)。
平成26年会社法改正
すべての大会社→その機関構成に応じて、会社の業務の適正を確保するために必要な体制について決定しなければならない(会社348条4項、362条5項、416条2項)
大会社の取締役会設置会社→「取締役会の専決事項→取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務ならびに当該株式会社およびその子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」「(会社362条4項6号)→グループ内内部統制システムの整備義務
法務省令(業務の適正を確保するための体制)
取締役の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制(会規100条1項1号)
損失の危険の管理に関する規程その他の体制(同項2号)
取締役の職務の執行が効率的に行なわれることを確保するための体制(同項3号)
使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制(同項4号)
当該会社・親会社・子会社からなる企業集団における業務の適正を確保するための体制(同項5号)
監査役による監査が実効的に行なわれることを確保するための体制(同条3項)
(3) 内部統制システムの開示
内部統制システムに関する決定の概要
当該体制の運用状況
→事業報告に記載することによって開示(会社435条2項、会規117条1号、118条2号)
→それらの相当性→監査役による監査対象(会規則129条1項5号)
※内部統制システム構築には終わりがない
不正行為の手口は巧妙化の一途→それに応じて進化させるべき
過去に認められた体制がいつまでも妥当するとは限らない