われらの法学 レオンラジオ 楠元純一郎

われらの商行为法06 流質契約、商事留置権、寄託を受けた商人の責任


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オープニングソング「水魚の交わり(魚水情)」

エンディングソング「バイオバイオバイオ(遺伝子の舟)」

作詞作曲 楠元純一郎

編曲 山之内馨




<LeoNRadio日の出 われらの商行為法06(流質契約、商事留置権、寄託を受けた商人の責任)>

ラジオ収録 20201031


講師 楠元純一郎(法学者)

録音師 レオー(美術家)

ゲスト 松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)

    Jialin(大学院博士課程)

 

流質契約

 

質権→その債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利(民342条)


たとえば、お金を借りたいときに、自分の100万円の時計を貸主に預け、弁済時にその時計を返してもらう。

  →借主は債務者(借金の返済義務)、貸主は債権者(貸金返還請求権)

   貸主はその債権の回収をより確実にするために担保をとる。

   この場合の担保は契約による担保であり、約定担保。

   債務者が自己の腕時計に質権を設定

   債務者は債権者に対してその質権を譲渡する。→以後、債権者はその質物を占有。

   弁済期が到来→弁済がなされない

    →債権者(この場合、質権者でもある)は他の債権者に先立って、自己の債権の弁済を受ける。

      →質権の実行


   質物→動産、不動産、債権


   質権と抵当権の違いは?

    → 質権は債務者が債権者に物の占有を移転し、以後、債権者がそれを占有する。

      抵当権は、債務者は債権者に物の占有を移転せず、債務者がそれを占有し続ける。

       →住宅ローンの場合、債権者である銀行は、債務者が購入した不動産を占有せず、債務者がそこに住み続けることができる。

 

<質権の実行は競売によらねばならない>

民執87条1項4号→売却代金の配当を受けるべき債権者→質権の売却により消滅するものを有する債権者

民執133条→質権を有するものはその権利を証する文書を提出して、配当要求をすることができる。


不動産質の場合→民執180条→不動産(登記できない土地の定着物を除く不動産)の担保権(質権)の実行方法→①担保不動産競売の方法、②担保不動産収益執行(民執189条)

 

動産質の場合→動産競売(民執190条〜194条)

      →簡易な方法→裁判所に請求して、鑑定人の評価によって質物を直ちに弁済に充当する換価方法(民354条)

 

債権質の場合→質入債権の利息や債権そのものの取立てによる弁済充当(民366条)

 

 流質契約→設定行為または債務の弁済期前の契約において、弁済期が到来したにもかかわらず弁済がなされない場合、質物の所有権を債権者に取得させ、その他、法律に定める方法(競売・鑑定人による評価等)によらないで、質物を処分させることを約すること。

 

 民法349条→ 流質契約の禁止 →当該契約は無効

  なぜか?→債務者の窮状につけ込んで、債権者が暴利を貪る(価値の丸取り)ことを防止するため。

 

 商法515条→ 民法349条の規定は商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については適用しない→流質契約の許容

  なぜか?→商人は冷静に利害計算をする能力があり、また、金融の道が閉ざされないようにするため。→ただし、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権について→当事者の属性については何も規定がないが、債務者にとって商行為のときだけについて、商法515条を適用すべきでは?→なぜなら、貸金業者(商人)が非商人(債務者)にお金を貸す際に、流質契約を結ばされたら、債務者にとってあまりにも不利であるから。

 

質権は約定担保(当事者の契約で質権を設定し、それを債権者に移転)

留置権は法定担保(法律上当然に発生する権利)

 

商事留置権

 →広義の商事留置権、狭義の商事留置権


 民事留置権

民法 第七章 留置権

(留置権の内容)→時計の修理の場合に条文を置き換えてみる。


民295条 他人の物(債務者の所有物でなくてもよい=第三者の物でよい)の占有者は、その物に関して生じた債権(その修理した時計に関して生じた修理代請求権)を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。


  →たとえば、時計を修理してもらうとする。→修理の依頼人(債務者)が時計を修理人に渡す。→修理代10000円とする。→弁済期は修理完了時→修理人(修理代請求債権者)は弁済期到来後に修理代を払ってもらえない。→債務者が修理代を支払うまでは、債権者(他人の物の占有者)はこの修理した時計を返さなくてよい(留置権=留め置く権利)。


  修理した時計と修理代請求権(被担保債権)には個別的牽連関係(その物に関して生じた債権)が必要

     →時計修理の依頼人が修理人に別途預けていた自転車を留置できるか?→No→時計の修理と自転車はなんらの関係もないから


    ※牽連(けんれん)とは、連なり続くこと、ある関係で繋がっていること

 

<民事留置権のポイント>

①    個別的牽連関係が必要←範囲を縮小

  たとえば、時計の修理代請求権と個別的牽連関係のある留置物→その修理した時計→この場合、修理した時計しか留置できない。

②    留置物は他人(第三者)の所有物でもよく、債務者の所有物に限らない←範囲を拡大


 

商人間の留置権(狭義の商事留置権)

 →その双方のために商行為となる行為によって生じた債権(被担保債権)が弁済期にあるとき→当事者の別段の意思表示があるときを除き、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有(民事留置権のように第三者の所有でもいいわけではない)する物または有価証券(たとえば、株券)を留置することができる(商521条)。

 

<商人間の留置権(狭義の商事留置権)のポイント>

①  被担保債権は当事者双方のために商行為である行為によって生じたこと。

②    個別的牽連関係が不要←留置物の範囲を拡大→商人間において個別に担保権を設定・変更することは煩雑であり、商取引の迅速性にそぐわないから。

   ※被担保債権と留置物との関係→商行為によって自己の占有に属した物または有価証券

③    留置物→債務者の所有する物または有価証券(債務者に所有権があることが必要)←留置物の範囲を縮小


 

<広義の商事留置権>

 商法上、代理商(商31条)、問屋(商557条)、運送取扱人(商562条)、運送人(商589条)等の特別の留置権がある。

→これらは、商人間の留置権(狭義の商事留置権)と合わせて、広義の商事留置権という。

 

代理商の留置権(商31条)

 代理商は、取引の代理または媒介をしたことによって生じた債権の弁済期が到来しているときは、その弁済を受けるまでは、商人のために当該代理商が占有する物または有価証券を留置することができる。

 

 被担保債権と留置物との個別的牽連関係が不要

 被担保債権は本人のために取引の代理または媒介によって生じたことが必要

 留置物については、特に要件なし。

 

問屋の留置権(代理商の留置権に関する商31条を準用、商557条)

 

運送取扱人の留置権(商562条)

   運送取扱人は、運送品に関して受け取るべき報酬、付随の費用および運送賃その他の立替金についてのみ、その弁済を受けるまで、その運送品を留置できる。

 

運送人の留置権(商574条、741条2項)

   運送人は、運送品に関して受け取るべき運送賃、付随の費用および立替金について運送品を留置することができる。

 

 

留置権の効果

 民法上の留置権→留置権者は債権の弁済を受けるまで目的物を留置し(民295条1項)、これにより生ずる果実を取得し、優先的に弁済に充てることはできるが(民297条)、目的物を売却して、その代金から優先的に弁済を受けることはできない。

 

 商事留置権→破産法(破66条1項)、会社更生法(会更2条10項)で特別に効力が強化

  →破産手続開始決定後

     民事留置権→効力を失う(破66条3項)

商事留置権→破産手続の開始決定により、特別の先取特権とみなされる(破66条1項)。留置的効力も喪失せず、債権の弁済を受けるまで管財人からの返還請求を拒絶できる(最判平10・7・14民集52・5・1261)

別除権(破産手続によることなく債権の弁済を受ける権利)として(破65条2項)、破産手続によらずに先取特権を行使できる(同条1項)。

会社更生手続においては、更生担保権とされる(会更2条10項)

 

寄託を受けた商人の責任

民事寄託→寄託契約における無報酬の受寄者→寄託物の保管について →「自己の財産に対するのと同一の注意」を払うべき義務を負う(民659条)


では、民事寄託でも、有償の場合は?

→民法の一般規定による


民400条 債権の目的が特定物(寄託契約により保管中の物も特定物)の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。善管注意義務

 

商事寄託→商人がその営業の範囲内において寄託を受けた場合

→たとえ無報酬であっても→寄託物の保管について

→善管注意義務を負う(商595条)←商人の信用を高める趣旨


第十一節 寄託

(民事寄託)

第六百五十七条 寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

(寄託物受取り前の寄託者による寄託の解除等)

第六百五十七条の二 寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、受寄者は、その契約の解除によって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。

2 無報酬の受寄者は、寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による寄託については、この限りでない。

3 受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては、書面による寄託の受寄者に限る。)は、寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず、寄託者が寄託物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは、契約の解除をすることができる。

(寄託物の使用及び第三者による保管)

第六百五十八条 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用することができない。

2 受寄者は、寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、寄託物を第三者に保管させることができない。

3 再受寄者は、寄託者に対して、その権限の範囲内において、受寄者と同一の権利を有し、義務を負う。

(無報酬の受寄者の注意義務)

第六百五十九条 無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

(受寄者の通知義務等)

第六百六十条 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

2 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。ただし、受寄者が前項の通知をした場合又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合において、その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったときであって、その第三者にその寄託物を引き渡したときは、この限りでない。

3 受寄者は、前項の規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には、寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。

(寄託者による損害賠償)

第六百六十一条 寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない。

(寄託者による返還請求等)

第六百六十二条 当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。

2 前項に規定する場合において、受寄者は、寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。

(寄託物の返還の時期)

第六百六十三条 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。

2 返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない。

(寄託物の返還の場所)

第六百六十四条 寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならない。ただし、受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還をすることができる。

(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)

第六百六十四条の二 寄託物の一部滅失又は損傷によって生じた損害の賠償及び受寄者が支出した費用の償還は、寄託者が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。

2 前項の損害賠償の請求権については、寄託者が返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

(委任の規定の準用)

第六百六十五条 第六百四十六条から第六百四十八条まで、第六百四十九条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、寄託について準用する。

(混合寄託)

第六百六十五条の二 複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には、受寄者は、各寄託者の承諾を得たときに限り、これらを混合して保管することができる。

2 前項の規定に基づき受寄者が複数の寄託者からの寄託物を混合して保管したときは、寄託者は、その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができる。

3 前項に規定する場合において、寄託物の一部が滅失したときは、寄託者は、混合して保管されている総寄託物に対するその寄託した物の割合に応じた数量の物の返還を請求することができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

(消費寄託)

第六百六十六条 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。

2 第五百九十条及び第五百九十二条の規定は、前項に規定する場合について準用する。

3 第五百九十一条第二項及び第三項の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。




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