田舎坊主の読み聞かせ法話

「靴のかかとを踏む少女」田舎坊主の合掌


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-靴のかかとを踏む少女-

これはかつて講演で何度もお話していることです。

私はこの少女に「大切にすること」を教えられました。

私は次女を亡くしたあと、ある種の虚無感にとらわれていたそんな折、

ある養護施設の先生から、ショートホームステイ事業のステイホームとして子どもを預かってほしいという話があり、承諾しました。

 わが家に来たA子ちゃんは中学校卒業後、施設を出なければなりません。

その巣立ちの前に私の家にやってきました。

玄関でピョコンと頭を下げて「よろしくお願いします。A子です」と、可愛く挨拶しました。同行の先生は帰られました。

A子ちゃんは黒色の靴をそろえて部屋に上がりました。

 私はそろえられた靴を見て、かかとの部分が踏まれていたのが気になりました。

というのも、私は靴のかかとを踏むのは嫌いなのです。かかとを踏むくらいならサンダルか草履でいいと思ってしまうのです。

 大げさに聞こえるかもしれませんが、靴を作った人のことを考えたとき、

大変失礼なことだと思うのです。

というのはかかとの部分は製造過程でも一番心を込めて丹念に作らなければならないとも聞いたことがあるからです。

靴のかかとの部分を踏んで粗末に扱っては申し訳ないような気がするのです。

 私はこのことだけは言ってあげようと、私は彼女の踏まれた靴のかかとを静かにめくりあげて・・・・、私は思わず「あっ!」と息をのみました。

 なんと、めくりあげた靴底はすり減り、ヒール部分を強化するための格子状のものだけを残して、家の玄関のタイルが見えているのです。

 私はめくりあげたかかとを押し倒し、元の踏まれた状態に戻しました。

このとき私は胸が熱くなり、なぜか涙がこみ上げてきました。

「この子にはこの靴しかないのだ。はじめて行く他人の家で二週間ほど泊まるのに履いてくる靴がこれしかないのだ。身寄りがないかもしれないし小遣いをくれる家族もいないのだ」と思うと、この子が無性にいとおしくなりました。

 これだけは言っておかなければ、という思いはすでに消えていました。

この子はもう十五歳、花も恥じらう乙女です。

靴のかかとを踏んでいるのは、「穴のあいた靴を見られたくない」という恥じらいがあったでしょう。それに「こうすれば、もう少し長く履ける」という思いもあったかも知れません。


 この経験を、後日ある講演会でこの話をしたとき、偶然その施設の先生が聞いてくださり園でお話をしたそうです。そしてそのあとあのときの少女から手紙がとどきました。そこには、その靴は離ればなれになったお姉ちゃんからもらった「宝物」だったと書かれていました。。

 宝物の靴を大切に大切にしている姿でもあったのに、坊主という立場で偉そうに説教しようとした己を心から恥じました。

 しかも、手紙には「宝物だったのに、かかとを踏んでごめんね」と、お姉ちゃんにあやまったとも書かれていました。

 ちなみに夜になるとスカートを寝押し(布団の下に敷いてアイロン代わりにすること)するのです。そのスカートも長く穿(は)きすぎているのかテカテカに光っているのです。

 今、これほどものを大切にする子どもがいるでしょうか。

 大切にするということは、そのものの向こう側にいる人の心を思う深い愛情があるのだと、この子に教えられたのです。

合掌


和歌山県紀の川市 瑞宝山不動寺

不動坊 良恒

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田舎坊主の読み聞かせ法話By 田舎坊主 森田良恒