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もときた道を帰る。それだけでいつもの二倍以上に体は重く、空気も冷たく感じた。飲みかけの缶コーヒー、あいつの分は空なのになんで俺はこんなに大事に持ってんだ。とっととさ、捨てちまえよ。
見たがってた横浜の景色は、夜が更けると水蒸気で膜が貼る。刺すように冷たい空気が覆う、こんな寒い夜だけは一点の曇りなく海の向こうまで僕らの目は泳いでいけた。不器用なお前は、バイクの後ろでゆらゆら揺れて、逆に危ないからと何度言っても、ゆらゆら揺れた。そもそもこんなゆっくり走るために作られていないその乗り物は、僕らのためにまたゆらゆら揺れて、僕らの冬を悪戯に近づけた。
マフラーなんてしないのに、寒いからって巻きつけて満足そうに少し先を歩く。明日のことを、どう思ってるだろう。その先のことをどう考えてるだろう。おれは、優しくできたかな。君を大切にできたかな。
じゃあね、なんて普通に言うなよ。いつもと変わらぬ後ろ姿をがらんどうな大通りの整列した青信号が照らす。迷っている。それこそがなによりも残酷なんだ。気付いてるのに、わかっているのに時間だけが何倍速で駆け巡る。遠のく君は「お前」よりもずっと遠くて、こんな時にくっきり背中を映しやがる。俯くとそのはずみで、お前のマフラーが薫る。どこにも行けず、どこにも向けず。「じゃあね」だけがまだ夜に漂い、言えない「じゃあね」が胸で焼けた。
もときた道を帰る。それだけでいつもの二倍以上に体は重く、空気も冷たく感じた。飲みかけの缶コーヒー、あいつの分は空なのになんで俺はこんなに大事に持ってんだ。とっととさ、捨てちまえよ。
見たがってた横浜の景色は、夜が更けると水蒸気で膜が貼る。刺すように冷たい空気が覆う、こんな寒い夜だけは一点の曇りなく海の向こうまで僕らの目は泳いでいけた。不器用なお前は、バイクの後ろでゆらゆら揺れて、逆に危ないからと何度言っても、ゆらゆら揺れた。そもそもこんなゆっくり走るために作られていないその乗り物は、僕らのためにまたゆらゆら揺れて、僕らの冬を悪戯に近づけた。
マフラーなんてしないのに、寒いからって巻きつけて満足そうに少し先を歩く。明日のことを、どう思ってるだろう。その先のことをどう考えてるだろう。おれは、優しくできたかな。君を大切にできたかな。
じゃあね、なんて普通に言うなよ。いつもと変わらぬ後ろ姿をがらんどうな大通りの整列した青信号が照らす。迷っている。それこそがなによりも残酷なんだ。気付いてるのに、わかっているのに時間だけが何倍速で駆け巡る。遠のく君は「お前」よりもずっと遠くて、こんな時にくっきり背中を映しやがる。俯くとそのはずみで、お前のマフラーが薫る。どこにも行けず、どこにも向けず。「じゃあね」だけがまだ夜に漂い、言えない「じゃあね」が胸で焼けた。