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華岡青洲が完成させた全身麻酔薬「通仙散」の主薬であるマンダラ華(ゲ)は、別名チョウセンアサガオとも呼ばれ、初夏には大きな白い花を咲かせる。
広辞苑には、
「人をよろこばせる花で、天国に咲く白い花」と、説明されている。
科学的には根や茎や種子などに脳の働きを抑制するスコポラミンやアトロピンと呼ばれる成分が含まれていて、華岡青洲の通仙散麻酔はこの脳の抑制作用によるものであることが解明されている。
私はマンダラ華の花名の由来を考えてみた。
マンダラ華は、
第一に、華岡青洲が研究を重ねたことによって完全な麻酔薬という「薬」として完成された。しかし、
第二に、妻加恵を盲目にいたらしめたのが、その成分の一つアコニチンによって動眼神経が冒されてしまったという「毒」の部分をもっていたのだ。
第三には種子を保護し、種の保存継続のために強烈な「トゲ」をもっていることだ。
第四は、花そのものの「美しさ」を備えていて、人の心を和ませてくれている。
この花が「薬」「毒」「トゲ」「美しさ」という、四つの違った価値を有していることを知っていた先人は、そこに宇宙(マンダラ)を観じたにほかならないと思うのだ。このことが花名の由来になったと、私は考えている。
ところで、寺院などにかけられた、私たちになじみの深い曼荼羅図は、無数の仏さまを配置し、宇宙観を現しているという。
描かれた仏さますべてが完全仏ではなく、時には悪さをし、意地悪をする仏さまがいる。きれいな仏さまもいれば、みすぼらしく醜い仏さまもいるのだ。いろいろな人がいて、いろいろなものがあり、そして、いろんな違いがあり、しかもすべてに価値があるのが宇宙なのだと教えているのだ。
マンダラを語源とする「まだら模様」のように、いろいろなものが寄り集まっている私たちの社会も、実はマンダラなのだ。
薬のように癒される人もいれば、毒々しい人もいる。トゲトゲしい人がいるかと思えば、美しい人もいる。
私は、患者会活動をしていることもあって、周囲にはどちらかといえば病人が多い。でも、その人たちは、すばらしい生き方をしている。
・バージャー病という難病で、20年間に27回入院し、21回、手足の部分切断手術をした人が、義足で宅配便の仕事をしてがんばっている。
・市議会議員でパーキンソン病になりながらも、おぼつかない足で自ら全県下をまわり、患者さんに声をかけ、患者会を結成した人がいる。
・インスリン欠損症(小児糖尿病)の子どもが、毎日インスリンを自己注射しながらがんばり、東京大学に進学し、医学を学んでいる若者がいる。
・人工股関節を入れ、手足のこわばりや痛みにも耐えながら、駅前で、医療や福祉をよくするための署名をお願いしている、悪性関節リウマチの女性がいる。
・40年前、田畑を売り、治療費を捻出し、人工透析にふみきった腎不全患者が、自ら腎透析臨床医としてがんばっているのだ。
私たちのこの社会は、決して健康な人、お金のある人、賢い人、美しい人、元気な人だけが動かしているのではないだろう。そして、それが人間として何の価値判断基準にもならないのに、なぜ多くの人がその方がいいと思うのだろうか。
華岡青洲は、最新医学を学び春林軒を卒業して故郷に帰る弟子たちに、免状とともに自筆の漢詩をしたためた掛け軸を贈った。
その一編の詩に今も心打たれる。
竹屋簫然烏雀喧 風光自適臥寒村(ちくおくしょうぜん うじゃくかまびすし)
唯思起死回生術 何望軽裘肥馬門(ただにおもう きしかいせいのじゅつ なんぞけいきゅうひばのもんをのぞまん)
(大意)
住まいの家はそんなに立派ではないが、鳥のさえずりが聞こえ、さわやかな風が吹く、豊かな自然に恵まれた田舎に住んでいる。
私は、富も地位も栄誉も望まない。ひたすら思うことは、病人を回生させる医術の奥義を極め、難病患者を救いたいのだ。
お金を儲けて絹の着物を着たいとか、立派な馬に乗りたいとか、決して思わない。
難病患者を救うため、宇宙マンダラの如き多種多様な価値を有するマンダラゲを、全身麻酔薬として完成させた華岡青洲。さらに青洲の困窮者を思う心は医学だけにとどまらず、土木事業では、干ばつに苦しむ貧しい農民を救うため灌がい用の垣内池を築いた。
常に弱者のためにその人生を献げた華岡青洲の生き方こそ、仏教の「マンダラ」の教えそのものだと思うのだ。
合掌
4月からのシーズン2の読み聞かせ法話の本は
後に「田舎坊主シリーズ」とつながる第1弾です。
田舎坊主シリーズ
「田舎坊主の合掌」https://amzn.to/3BTVafF
各ネット書店、全国の主要書店で発売中です。
「田舎坊主の七転八倒」https://amzn.to/3RrFjMN
「田舎坊主の闘病日記」https://amzn.to/3k65Oek
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「田舎坊主の求不得苦」 https://amzn.to/3ZepPyh
電子書籍版は
・アマゾン(Amazon Kindleストア)
・ラクテン(楽天Kobo電子書籍ストア)
にて販売されています。
華岡青洲が完成させた全身麻酔薬「通仙散」の主薬であるマンダラ華(ゲ)は、別名チョウセンアサガオとも呼ばれ、初夏には大きな白い花を咲かせる。
広辞苑には、
「人をよろこばせる花で、天国に咲く白い花」と、説明されている。
科学的には根や茎や種子などに脳の働きを抑制するスコポラミンやアトロピンと呼ばれる成分が含まれていて、華岡青洲の通仙散麻酔はこの脳の抑制作用によるものであることが解明されている。
私はマンダラ華の花名の由来を考えてみた。
マンダラ華は、
第一に、華岡青洲が研究を重ねたことによって完全な麻酔薬という「薬」として完成された。しかし、
第二に、妻加恵を盲目にいたらしめたのが、その成分の一つアコニチンによって動眼神経が冒されてしまったという「毒」の部分をもっていたのだ。
第三には種子を保護し、種の保存継続のために強烈な「トゲ」をもっていることだ。
第四は、花そのものの「美しさ」を備えていて、人の心を和ませてくれている。
この花が「薬」「毒」「トゲ」「美しさ」という、四つの違った価値を有していることを知っていた先人は、そこに宇宙(マンダラ)を観じたにほかならないと思うのだ。このことが花名の由来になったと、私は考えている。
ところで、寺院などにかけられた、私たちになじみの深い曼荼羅図は、無数の仏さまを配置し、宇宙観を現しているという。
描かれた仏さますべてが完全仏ではなく、時には悪さをし、意地悪をする仏さまがいる。きれいな仏さまもいれば、みすぼらしく醜い仏さまもいるのだ。いろいろな人がいて、いろいろなものがあり、そして、いろんな違いがあり、しかもすべてに価値があるのが宇宙なのだと教えているのだ。
マンダラを語源とする「まだら模様」のように、いろいろなものが寄り集まっている私たちの社会も、実はマンダラなのだ。
薬のように癒される人もいれば、毒々しい人もいる。トゲトゲしい人がいるかと思えば、美しい人もいる。
私は、患者会活動をしていることもあって、周囲にはどちらかといえば病人が多い。でも、その人たちは、すばらしい生き方をしている。
・バージャー病という難病で、20年間に27回入院し、21回、手足の部分切断手術をした人が、義足で宅配便の仕事をしてがんばっている。
・市議会議員でパーキンソン病になりながらも、おぼつかない足で自ら全県下をまわり、患者さんに声をかけ、患者会を結成した人がいる。
・インスリン欠損症(小児糖尿病)の子どもが、毎日インスリンを自己注射しながらがんばり、東京大学に進学し、医学を学んでいる若者がいる。
・人工股関節を入れ、手足のこわばりや痛みにも耐えながら、駅前で、医療や福祉をよくするための署名をお願いしている、悪性関節リウマチの女性がいる。
・40年前、田畑を売り、治療費を捻出し、人工透析にふみきった腎不全患者が、自ら腎透析臨床医としてがんばっているのだ。
私たちのこの社会は、決して健康な人、お金のある人、賢い人、美しい人、元気な人だけが動かしているのではないだろう。そして、それが人間として何の価値判断基準にもならないのに、なぜ多くの人がその方がいいと思うのだろうか。
華岡青洲は、最新医学を学び春林軒を卒業して故郷に帰る弟子たちに、免状とともに自筆の漢詩をしたためた掛け軸を贈った。
その一編の詩に今も心打たれる。
竹屋簫然烏雀喧 風光自適臥寒村(ちくおくしょうぜん うじゃくかまびすし)
唯思起死回生術 何望軽裘肥馬門(ただにおもう きしかいせいのじゅつ なんぞけいきゅうひばのもんをのぞまん)
(大意)
住まいの家はそんなに立派ではないが、鳥のさえずりが聞こえ、さわやかな風が吹く、豊かな自然に恵まれた田舎に住んでいる。
私は、富も地位も栄誉も望まない。ひたすら思うことは、病人を回生させる医術の奥義を極め、難病患者を救いたいのだ。
お金を儲けて絹の着物を着たいとか、立派な馬に乗りたいとか、決して思わない。
難病患者を救うため、宇宙マンダラの如き多種多様な価値を有するマンダラゲを、全身麻酔薬として完成させた華岡青洲。さらに青洲の困窮者を思う心は医学だけにとどまらず、土木事業では、干ばつに苦しむ貧しい農民を救うため灌がい用の垣内池を築いた。
常に弱者のためにその人生を献げた華岡青洲の生き方こそ、仏教の「マンダラ」の教えそのものだと思うのだ。
合掌
4月からのシーズン2の読み聞かせ法話の本は
後に「田舎坊主シリーズ」とつながる第1弾です。
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