モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。
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オフショアリングの動きが数十年続いた後、米国の製造業の国内生産に回帰する動きが起こっています。マルチインダストリー・アナリストのクリス・スナイダー(Chris Snyder)が、このトレンドの背景にあるものを解説します。
このエピソードを英語で聴く。
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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
今回は、弊社の米国マルチインダストリー・チームのクリス・スナイダーが、工業の生産拠点の米国回帰によって予想される幅広い影響を検討します。
このエピソードは10月25日 にニューヨークにて収録されたものです。
To hear this episode in English, click the link in the episode description.
英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。
世界の製造業に劇的な変化が起こっています。その中心となっているのが米国です。過去数十年間、オフショアリングと国際的なサプライチェーンへの依存が続いた後、国内生産に回帰する動きが起こっています。リショアリングと呼ばれるこの動きは単なる一過性のトレンドではなく、戦略的な生産能力の調整であり、全世界で進行中のテーマである「多極化」を示唆しています。
実際、米国は再工業化の初期段階を迎えようとしていると弊社は考えています。これは数十年にわたる機会で、弊社はその規模を10兆ドルと試算しています。さらに、過去20年以上、停滞が続いた米国の工業が再び成長し始める可能性があると見ています。
米国内における生産を有効かつ黒字にする複数の要因があいまって、製造業の米国回帰に拍車をかけています。最初に火を点けたのは、関税や貿易協定など政策の変更でしたが、コロナ禍によってサプライチェーンの長期化や海外生産への過度の依存によるリスクが明らかになりました。
その一方で、オートメーション、人工知能、高度なロボット工学など、最先端技術の普及によって、低賃金諸国のコスト優位性は後退しています。盤石なテクノロジー・セクターとイノベーションのエコシステムを持つ米国は、技術を活用して製造業の基盤を活性化できる類のないポジションにあります。
直接その恩恵を受けるのは誰でしょうか?半導体、医薬品、そして高度な製造システムといったハイテク・セクターが、最大の勝ち組になると見られます。自動車や航空宇宙など、在来の工業セクターも復活しつつあります。さらに、より持続可能な製造工程に投資する企業も、政策によるインセンティブや市場の需要拡大の両方から恩恵を受ける位置にあります。結局のところ、こうした企業はサプライチェーンを短縮し、訴訟や関税のコストを低減し、事業運営構造の復元力を高めることになるでしょう。
米国経済全般にとってはどうでしょうか?その影響はかなり広範囲に及ぶと弊社は予想しています。米国の工業の全容が変化するに当たって、リショアリングはGDP成長を押し上げると見込まれるだけでなく、長年、米国経済の頭痛の種となって来た貿易赤字の拡大に歯止めをかけ、さらには縮小させる可能性もあります。
最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
人間の脳と外部ディバイスの直接接続を可能にする技術の医療分野における可能性と市場機会について、この方面に詳しいモルガン・スタンレー医療テクノロジー・チームがお話しします。
このエピソードを英語で聴く。
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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
今回のエピソードでは、モルガン・スタンレー米国医療テクノロジー・チームのカラム・ティッチマーシュが、SFさながらのテーマ、ブレイン・コンピューター・インターフェイス、略してBCIについてお話します。
このエピソードは10月22日 にニューヨークにて収録されたものです。
英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。
アイアンマンとして知られる主人公のトニー・スタークが作中で装着する最新版アーマースーツは、ブレイン・コンピューター・インターフェイスの良い例だと思います。大富豪のビジネスマンで発明家でもある主人公が重傷を負った際に開発したこのアーマースーツにより、主人公は頭の中でそう考えるだけで、空を飛んだり、リパルサーブラストなる武器で障害物を吹っ飛ばしたり、誘導ミサイルで敵を撃退したりと、超人的な能力を発揮できるようになるのです。
もちろん、これはSFの世界の出来事です。現実世界のブレイン・コンピューター・インターフェイス、略してBCIは、それほど奇想天外な技術ではありません。しかし、頭の中でそう考えるだけで、例えば、スクリーンに文章を表示させたり、ロボット義肢を動かしたりすることができるなど、魅力的な技術であることに変わりはないと思います。
BCIは100年以上前から開発が進められてきた技術ですが、最近の技術進歩のおかげで実用化のタイミングが急速に近づいています。私たちの予想では、BCIの商業ベースでの医療利用はあと5年ほどで始まり、ALSなどの筋萎縮性側索硬化症からうつ病まで、幅広い健康障害の治療に役立つようになるでしょう。
私たちがBCIに見込む市場機会は膨大で、理論上の最大市場規模、言い換えるならTAMは米国だけで4,000億ドルに達すると見ています。BCI技術には、スクリーン上のカーソルを動かすなど、頭の中で考えたことを実行するエネーブルBCIと、うつ状態やてんかん発作などの有害事象を予防するプリベンティブBCIの二つのタイプがあり、この数字はこれら二つのBCI技術それぞれに見込むTAMを合わせたものです。
BCIの医療分野における市場機会を分析するに当たり、私たちはTAMを初期TAMと中間TAMの二つのセグメントに分けました。初期TAMは、重度の上肢障害を持つ個人や、てんかん発作やうつ状態など、特定の神経系疾患を患う個人を対象とするBCIに見込むTAMから成ります。最初にBCIを利用した治療を受けられるのは、こうした障害や疾患を持つ個人になるとの考えからです。一方、中間TAMは、軽度の上肢障害や重度の下肢障害を持つ個人を対象とするBCIに見込むTAMから成ります。BCI技術が発達すると共に、こうした障害を持つ個人もBCIを利用した治療を受けられるようになるとの考えからです。
米国では現在、初期TAMを形成するBCI対象の個人や患者が少なくとも280万人、中間TAMを形成するBCI対象の個人や患者が680万人存在します。そして先に説明した一度きりのインプラント処置に基づく推計通り、この二つを併せた潜在売上高は4,000億ドルに達すると考えます。
一方、更新サイクルやソフトウエア更新に伴って繰り返し得られる経常収益を勘案すると、BCIに見込む市場機会は著しく拡大する可能性があります。しかし、推計TAMの規模が膨大なことは確かなのですが、実用化から最初の20年間の普及には限りがあると私たちは考えています。私たちの予想に基づくなら、BCIのインプラント処置による2035年までの売上高は15億ドル弱、その後、年間ランレートは2036年から5億ドルを超え、2041年には10億ドルに達します。
BCIの医療分野利用が向こう数年間のうちに始まることは、考えるだけでわくわくします。しかし、BCIの医療分野利用が広く普及し、さらに発展するには、規制が設けるいくつものハードルを乗り越える必要があると私たちは予想します。BCIは将来的に、ニューロゲーミング、戦争、果ては人体の生物化学的最適化などといった分野でも利用されるようになるのでしょうか?
その可能性は確実にあります。しかし、だからこそ、この最先端テクノロジーの安全かつ責任ある利用を全うする責務が私たちにはあるのです。
最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
選挙結果の不透明感がクレジット投資家に不利益をもたらし得る理由について、弊社のコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のAndrew Sheetsが解説します。
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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
本日は弊社のコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のAndrew Sheetsが米国選挙とクレジットへの影響について解説します。
このエピソードは10月18日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。
モルガン・スタンレーの今年のクレジットに対する前向きな姿勢は単純な理論を拠り所としています。クレジットは極端を嫌う資産クラスであり、企業が破綻すれば損失が発生しますが、企業の利益が2倍、3倍に増えたからと言って特に利益が増えるわけではありません。クレジットは適度を並外れて好む資産クラスだと言えます。
そして、モルガン・スタンレーでは、大いに適度を予想しています。米国と欧州の適度な成長。適度なインフレ、これは来年にかけて低下し続けます。中央銀行の利下げは適度で、景気後退期によく見られるような急激な利下げではなく、フェデラルファンド金利は来年の中頃には3.5%を若干下回る水準に落ち着くと弊社は見ています。適度な経済と企業の積極性が適度な水準であることは投資家の耳に心地よく響き、平均より高いバリュエーションを支えると弊社は見ています。
では、来たる11月5日の米国選挙はこの無難な状況にどう影響するでしょうか。
政府の扱う問題を誰が指揮するのか、しかも、世界最大かつ最強の経済を誇る国の政府です。この選挙は2人の候補者の違いという点でも注目に値し、この2人の経済、国内政策、対外政策に対する考え方は非常に対照的です。これらを背景に、クレジット投資家が念頭に置くべきことを提案します。
第一に、大きな視点から「クレジットは適度を好む」という概念は弊社にとってぶれない軸です。経済政策を大きく変えるような選挙結果、あるいは政策全般の不透明感が増すような選挙結果はクレジットにとって大きなリスクとなる確率が高いでしょう。
第二に、議論の対象となっている様々な政策の中でも、関税は特に重要だと感じます。なぜなら関税は一般的に議会の承認なく導入でき、したがって実施の確認が非常に容易なためです。関税案によりクレジットの個別銘柄レベルで大きなばらつきが生じる可能性があり、最終商品のかなりの部分を輸入している小売などのセクターにとっては重大なリスクとなります。時間に制約のある投資家に対しては、関税は弊社が大半の時間を充てる政策分野であり、弊社の選挙がらみのクレジットリサーチの多くが重点的に取り上げています。
第三に、注目すべきこととして、株式相場が史上最高値近辺にあり、クレジット・スプレッドが歴史的な低水準にあっても、選挙を控えて株式もクレジットも予想ボラティリティが拡大しています。そこで疑問が生じます。これらのオプション市場は他の市場が知らないことを知っているのではないか?弊社は懐疑的です。歴史的に、市場でボラティリティの拡大と史上最高値が同時に起きている場合、そういうことは滅多にありませんが、短期的には悪くなく、むしろ良い兆候である傾向があります。この説明として考えられるのは、投資家はまだ少し臆病になっており、本来あるべき姿ほど前向きでないのかもしれません。
米国選挙が近づいていますが、結果は読みにくく、将来の政策が選挙にかかっています。現在見られる高いインプライドボラティリティは、弊社の見るところ、何か隠れた要素を反映しているのではなく、既知の未知を織り込んでいるものと思われます。関税政策は議会の承認が不要で実施が容易なため、クレジットの個別銘柄に最も強く関係してくるでしょう。そして大きな視点から、クレジットは適度を好むため、それを達成する可能性がより高い選挙結果がクレジットにとってはベストとなるでしょう。
最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
弊社の韓国・台湾担当チーフエコノミストが、韓国の人口動態に迫る危機を克服するために必要な改革についてお話します。
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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
今回は、モルガン・スタンレーの韓国・台湾担当チーフエコノミストのキャサリン・オー(Kathleen Oh)が、韓国の高齢化危機を克服するために何が必要かをお話します。
このエピソードは10月15日 に香港にて収録されたものです。
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韓国は人口動態に関して最も大きな問題を抱える国々の1つです。公式データによれば、来年は65歳以上の国民が人口の20%を超える超高齢化社会となる見通しです。その意味するものは極めて大きく、韓国政府は最近、人口緊急事態を宣言しました。これは誇張ではないと弊社は考えています。
最大の原因は韓国の低い出生率にあります。2023年には世界で最も低い水準に落ち込み、現在は0.72となっています。参考までに、一般に、人口を一定に維持するために必要な合計特殊出生率は2.1と言われています。来年までに韓国の人口は減少し始め、向こう40年間で生産年齢人口が2分の1に減少し、総人口は現在より3分の1少なくなると予想されています。韓国中央銀行は、このペースで人口が減少すると、潜在成長率が2024年~2025年の2%から減少し、2040年までにマイナスになる可能性があると予想しています。
それでは、なぜ韓国の出生率はこうした記録的な低水準になったのでしょうか?短期的には主として2つの原因があります。第一はコロナ禍の時期に、結婚する人が減少し、出生数が急速に減少しました。韓国では婚外子はタブーとされています。2022年に結婚が再開し、出生数が若干回復しましたが、不十分な水準です。
第2に、過去10年間に住宅価格が80%上昇し、若いカップルが家族を持つ意欲に水を差しています。子供が1人いる家庭は、第2子を持つには金銭的な負担が大きいと感じています。短期的な要因以外に構造要因もあります。韓国は短期間に急速な経済成長を遂げた結果、雇用情勢と住宅市場の見通しが不透明になっています。
韓国の政策担当者は過去20年間、低い出生率の問題に取り組んできました。政府はこれまでに3,200億ドル以上を人口動態の課題解決に投じています。こうした努力によって、たしかに問題の認知度は高まりましたが、危機を克服するには至っていません。 なぜでしょうか。それは、所得の不確実性や、育児と教育にかかる高いコストという根本的な原因に対処して来なかったからです。
構造改革が必要であることは明らかです。確かに韓国は現在、問題の克服に向けて根本的な問題について重要な施策を講じています。政策担当者は15年ぶりに年金制度改革に取り組んでいます。仕事と生活のバランス改善、男女の賃金格差縮小、働く親たちへの支援拡大などの措置が焦点となっています。また、移民に対する規制緩和も検討されており、人材不足の緩和につながるとみられます。さらに民間教育にかかるコストを低減する努力もなされています。そして、政府は資本市場のインフラ改善も重視しています。韓国政府は海外からの投資を惹きつけることを目指すとともに、家計の資産蓄積手段の確保や、国内企業の借入れコスト低減を助けようとしています。
もちろん、減少傾向を急に反転することはできませんし、ポジティブな変化には数年を要するでしょう。むしろ数十年かかる可能性もあります。韓国政府は、出生率を2030年までに1.0に回復させることを中期目標に設定しており、達成すれば生産年齢人口の減少が5年先送りされると見られます。さらに、出生率が2.1に到達した場合は、生産年齢人口の減少を20年遅らせることができます。反対に、出生率が現在の0.72にとどまった場合、2065年までに人口は半減し、2040年から経済が縮小し始めます。これは、政府が回避すると決意した最悪ケースのシナリオです。
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モルガン・スタンレー欧州サスティナビリティ・リサーチ責任者のマイク・キャンフィールドが、安全かつ責任ある人工知能を担保することがAI革命にとって不可欠な理由についてお話しします。
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「市場の風を読む 」Thoughts on the Marketへようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回のエピソードでは、モルガン・スタンレー欧州サスティナビリティ・リサーチ責任者のマイク・キャンフィールドが、今、注目されている「AIはどのくらい安全なのか?」というテーマについてお話します。このエピソードは10月10日にロンドンにて収録されたものです。
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AIは、私たちの暮らし方、働き方、人と人との関わり方を大きく変えています。個人の判断から世界の安全保障まで、社会のあらゆるレベルと側面を変革する可能性がAIにはあります。だからこそ、医療や交通、金融、ひいては防衛まで、私たちの社会を維持するために不可欠なシステムにAIが深く組み込まれるほど、私たちは技術進歩のスピードに合わせた安全なAIシステムを開発、展開する必要があると考えます。
安全もしくは責任あるAIがどのようなものであるべきかを成文化しようとする試みは、AI市場をリードする企業、学術機関、シンクタンク、非政府組織(NGO)、業界団体、政府間組織によって進められており、これまでに発表されたガイドラインや基準は、どれも最も基本的な部分でいくつか明確な共通点があります。一般的なガイドラインや基準を見ると、どれも実用的な観点からのイノベーション育成と経済的繁栄を支えることに重点を置きながらも、AIシステムが人間の基本的な権利や価値を尊重し、人間にとって信頼できる存在であることを証明すべきと断言しています。
世界各国/地域のAI規制は現在どのようになっているのでしょうか?
世界で最も進んだAI規制は、詳細なリスク・ベース・アプローチに基づき策定されたEUのAI規制法で、AI利用の透明性を重視し、AIが人間や人間の基本的権利におよぼし得るリスクに着目した内容になっています。米国の場合、AI利用に関する包括的な連邦規制や連邦法はまだありませんが、特定業種を対象にしたAI利用指針を定めた連邦法はいくつかあり、例えば、2019年の「国防権限法」や2020年の「国家AIイニシアチブ法」などがこれに該当します。また、これらの連邦法とは別に、安全で責任あるイノベーションを促進しながらも、プライバシーなど、米国人および米国人の権利の保護を目的に、バイデン大統領がAIに関する大統領令を発令しています。ほかにも、アジア太平洋地域の国々では、消費者保護、プライバシー、透明性、説明責任などに関する独自のAIガイドラインの策定に取り組んでいます。
こうした中、我々が「ソシオテクニカル」と呼ぶ、人間と技術のインタラクションを重視するアプローチを、AIシステム・デベロッパーが採用することに、政策立案当局や規制当局が期待するようになるのは明らかと考えます。世界中にすでに存在するAI規制やAIの基礎的基準を精査すると、世界の国/地域の政策立案当局が成功するAI政策を策定するには、4つのコンセプトを柱とするアプローチを採る必要があると考えます。
私たちは政策策定の柱となるこれら4つのコンセプトを「STEP(ステップ)」と呼んでいます。安全性を意味するSafety(セーフティー)の「エス」、透明性を意味するTransparency(トランスペアレンシー)の「ティー」、倫理性を意味するEthics(エシックス)の「イー」、そしてプライバシーの「ピー」それぞれの頭文字を組み合わせた造語で、これら4つのコンセプトを満たせばAIは正しい『ステップ』を踏むことができると考え、そう呼ぶことにしました。安全性は、システムの信頼性に注目し、AI利用が人や社会に危害を加えることのないよう、AIの悪用や濫用の防止に主眼を置いたコンセプトです。透明性は、説明可能性や説明責任に関するコンセプトで、将来のフィードバックや結果の監査が可能なシステム作りの促進を目的としています。倫理性は、AIバイアスの回避を念頭に置き、主として差別/偏見の防止、包括性の促進、法の支配の尊重を組み合わせたコンセプトです。そして最後のプライバシーは、データ保護、AI利用による情報漏洩の防衛/予防手段、学習データの要配慮個人情報の本人同意などに配慮したコンセプトです。
もちろん、政策立案者は、偏見、差別、イノベーションを損なわない指針の導入、急激な進化スピード、法的責任、その他問題に着目しながら、AI規制の策定を巡る多様な困難に挑んできました。しかし、AIによるアウトプットは論理的根拠が不明なものもしばしばあり、これがAI規制の根底にある最も難しい問題となっています。なぜなら、AIシステムは本質的に学習するよう設計されているからで、AIモデルを作った開発者ですら思いもしなかったアウトプットを示すことがあるからです。
教育の向上、スマート電力グリッド管理の拡大、医療診断の向上、精密農業の拡大、生物多様性のモニタリングおよび保護の促進など、AIが社会に対しておよぼすプラスの影響は様々ですが、AIが社会にこうした影響を与える前に、安全かつ責任あるAIの利用を担保することは、我々にとって不可欠なステップと考えます。医薬品開発を加速したり、材料科学研究を進める、生産効率を押し上げる、気象予測の精度を向上さる、場合によっては精度の高い自然災害予想を可能にするなど、AIが社会に貢献する可能性は膨大であることは明らかです。
このように様々な観点から、AIの可能性を最大限引き出したいと思うのであれば、私たちはAIの正しい利用を促す指針を策定する必要があると考えます。
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FRBが9月に利下げを実施した後は、雇用統計の方が追加利下げより市場に与える影響が大きい可能性があります。コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツ(Andrew Sheets)がその理由をお話しします。
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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回のエピソードは、モルガン・スタンレーのコーポレート・クレジット・リサーチ責任者を務めるアンドリュー・シーツが、FRBの次の動きがそれ程重要ではない可能性がある理由についてお話します。このエピソードは10月4日 にロンドンにて収録されたものです。
英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。
過去数ヵ月間、FRBは世界の市場に関する議論の中心に位置してきました。7月末に政策金利を据え置く判断で、当初市場を元気づけた後、8月初めの一連の低調な経済指標発表を受け、FRBの政策は遅きに失したのではないかという懸念が浮上しました。これに対応してFRBは9月に予想より大幅な0.5パーセントの利下げを実施します。こうした紆余曲折を考慮すると、投資家共通の疑問が、「FRBは次にどうするのか?」であるのも無理のないことです。
しかし、FRBの次の一手がそれほど重要ではないとしたらどうでしょうか?
金融政策は強力であると同時に非力でもあります。強力である理由は、金利は、住宅の購入から設備投資資金の調達や競合企業の買収まで、経済全体の数多くの判断に影響を及ぼすことです。また、非力でもあるのは、金利がこうした判断に影響を及ぼすまでには時間がかかり、影響が表われるまでの時間も様々だからです。利下げが経済に与える影響が完全に表われるには、6ヵ月から12ヵ月かかると見られます。したがって、先月FRBが実施した0.5パーセントの利下げの影響が完全に表われるのは、2025年6月になるかもしれません。
この時間差が、FRBの次の動きがそれ程重要ではないと見られる理由の1つです。2つめの理由は、弊社が考える市場の懸念の対象です。過去2ヵ月の市場のボラティリティの多くを引き起こしたと考えられる、労働市場を中心とする米国経済に対する懸念が、現在は弱まっていると弊社は考えています。
もしも金利が高過ぎて、労働市場が軟化しているなら、向こう数ヵ月間、利下げのペースを速めても効果がない可能性があります。効果が現れるまでの時間を考慮すると、利下げによる支援は間に合わないと見られます。
一方で、景気が実際に急速に減速している場合は、必要とされる程度の影響を与えるためには、金利がかなり大幅に低下しなければならない可能性があるとの
見解もあります。FRBの経済見通し(SEP)によれば、9月に0.5パーセントの利下げを行なった現在も、経済成長の追風にも妨げにもならない政策金利は、現行水準をおおよそ2パーセント下回ると見られます。金利は中立と見られる水準を優に上回っています。
簡単に言えば、今後数ヵ月間で経済指標が大きく悪化すると、FRBの追加利下げでは間に合わない可能性があります。また、経済指標が堅調を維持した場合、FRBには政策を調整するための十分な時間的余裕が生じるでしょう。現時点で最も重要なのは、データであってFRBの次の動きではありません。
過去にもこうした考え方を裏付ける事例があります。米国の最も積極的な利下げサイクルに含まれる2001年、2008年、2020年2月が、株式市場とクレジット市場の低迷と重なる点は特筆に値します。1995-96年、1998年、2019年といったより小幅な利下げサイクルは、市場がはるかに良好だった時期と重なります。市場にとって最も重要なのは、データであってFRBの利下げ幅ではないと想定すれば、納得できます。
これらは全て、今の時期に当てはまるように感じます。今回の米国雇用統計の上振れは、FRBの政策が予定通りで、より大幅な調整が必要ないとの見方を裏付けています。これは良い知らせです。
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クレジットは中庸を好み、利下げの実施は、景気がソフトランディングに向かっているとのFRBの信念を示唆しています。弊社のチーフ債券ストラテジストは、市場はまだ経済指標の発表を注視する必要があると警告しています。
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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
今回は、FRBが最近行なった50ベーシスポイントの利下げが、コーポレート・クレジット市場に及ぼすと見られる影響について、モルガン・スタンレーのチーフ債券ストラテジストのヴィッシー・ ティルパトゥール(Vishy Tirupattur)がお話します。
このエピソードは9月27日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。
クレジット市場にとって、FRBがなぜ利下げを行なっているか理解することが、実は極めて重要です。通常の利下げサイクルと異なり、今回の利下げは、経済成長がまだ減速しているが、落ち込んではいない局面で行われています。通常、利下げは景気が既にリセッション入りしているか、リセッションに差し掛かっている時期に実施されます。今回はそのいずれでもありません。米国の第2四半期のGDPは3%のプラス成長となり、第3四半期は2%を優に超える軌道上にあります。
したがって、今回の利下げは景気を刺激する目的ではなく、インフレが沈静に向かって大きく前進したことを認め、政策を大幅に正常化するためのものです。ある意味でこれは、インフレの道筋に対するFRBの自信の表われでもあります。すなわち、現時点で利下げを行なわなければ、高水準の実質金利を通じて景気をさらに抑制することになります。今回の利下げが真に意味するものは、ソフトランディングの達成に対するFRBの確信の強まりです。また、利下げ幅を25ベーシスポイントではなく、50ベーシスポイントとしたことは、労働市場を初めとする経済指標が悪化した場合に、FRBには思い切った措置をとる意思があることを示しています。
年初から弊社は、バリュエーションがタイト化する中でも、コーポレート・クレジットおよび証券化クレジットを中心とするスプレッド商品全般に対して、かなり前向きなスタンスで臨んで来ました。弊社のスタンスは、たとえ景気が減速しても、大きく落ち込まない限り、クレジットはそれなりに順調なファンダメンタルズを維持するとの見解に基づいています。さらに、利下げによってクレジットのファンダメンタルズは改善すると弊社は考えています。これは、主として金利費用の上昇が企業と家計両方の重石となって、今回のサイクルにおける主なストレスになっているためです。これはクレジット市場がストレスを受けた最近の他の時期と対照的です。例えば、2008年~2009年には金融危機があり、2015年~2016年はエネルギー・セクターが逆風を受けました。そして、2020年は言うまでもなくコロナ禍に見舞われました。
これを最も良く説明できるのは、変動金利商品のレバレッジドローンでしょう。2022年にFRBが金融引き締めを開始すると、レバレッジドローンの借り手のインタレストカバレッジレシオに対する圧力が強まりました。これが、格下げやローンのデフォルトの増加につながりました。利上げが終了すると、インタレストカバレッジレシオは下げ止まり、格下げやデフォルトのペースが減速しました。そして現在は、この先、利下げが行われ、ドット予測は年内と来年に150ベーシスポイントの利下げが行われると示唆していることから、インタレストカバレッジレシオへの圧力は、今後緩和すると見られ、景気がソフトランディングの軌道を維持すれば、さらに緩むでしょう。
これは、現在のスプレッドはタイトですが、利下げによってファンダメンタルズがさらに改善する可能性があることを示唆しています。このため、スプレッドは現在の水準前後にとどまるか、さらに若干タイト化する可能性があると見られます。結局、前回FRBがソフトランディングを実現した1990年代半ばを思い起こすと、投資適格社債のスプレッドは、現在より30ベーシスポイント前後タイトな水準でした。
あくまでも「仮定」ですが、重要な点があります。弊社が予想するソフトランディングが実現しなかった場合、弊社が確信しているスプレッド商品の評価が誤っていたことになります。景気の着陸における課題は常に、実際に着陸するまで見通しに確信を持てない点にあります。それまでは、発表される経済指標を注視し、ソフトランディングとハードランディングのどちらに向かっているのか仮説を立て続けるのです。
こうした背景から、これから発表される経済指標は、今後のクレジットスプレッドの軌道に対する両面のリスクとなります。今後発表されるデータが低調な場合、なかでも雇用統計が弱い場合は特に、ソフトランディングの見込みが後退し、スプレッドが拡大すると見られます。しかし、経済指標が堅調なら、スプレッドは現在のタイトな水準からさらに縮小する可能性があります。
最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
FRBの利下げに対する反応は株価の変動からデフレ懸念までさまざまです。しかし、引き続き雇用データを注視する必要があることを弊社のCIO兼米国株式チーフストラテジストのマイク・ウィルソン(Mike Wilson)が解説します。
このエピソードを英語で聴く。
----- トランスクリプト -----
「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回はFRBによる50ベーシスポイントの利下げと市場への影響について、モルガン・スタンレーのCIO兼米国株式チーフストラテジストのマイク・ウィルソン(Mike Wilson)が解説します。このエピソードは9月24日にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。
先週述べたように、私の考える株式の短期的なベストシナリオは、成長懸念を誘発することなくFRBが50ベーシスポイントの利下げを実施することでした。パウエル議長はこの難業を成し遂げ、株式は最終的に好反応を示しました。
しかし、向こう3-6カ月の株価動向を最も大きく左右するのは雇用データだとも考えています。
雇用については、来週末に新たな統計が発表されます。私の見立てでは、現在の高い株式バリュエーションが続くためには、雇用統計に上方サプライズが必要でしょう。具体的には、失業率が低下し、就業者数の増加数が14万人を超え、前月までの数値が下方修正されないことが必要だと考えます。
同時に、私は今後の成長軌道を判断するために、いくつかの変数を注意深く観察しています。まず、会社ガイダンスに代わる指標として最適なリビジョンインデックスですが、これはS&P 500指数全体では引き続き横ばい基調、小型株のラッセル2000指数では悪化傾向が続いています。例年の季節的なパターンに従うと、この変数は今後1カ月間逆風を受ける可能性が高いと思われます。
2番目に、米サプライマネジメント協会の購買担当者景気指数は2年近く軟調が続いており、再加速はまだ見られません。最後に、全米産業審議会(コンファレンスボード)の景気先行指数と雇用トレンド指数は低下基調が続いており、サイクル終盤の典型といえます。
これらを踏まえると、予想より大幅なFRBの利下げは、高クオリティ株にとっては割高水準を維持する時間稼ぎとなり、低クオリティの景気敏感株にもある程度の支えとなる可能性があります。ただし、このような状況を正当化するためには、雇用などのデータが年末にかけて改善する必要があります。
もうひとつ重要な点を指摘すると、8月の米国の財政赤字は予想をおおよそ900億ドル上回り、年初来の財政赤字は1兆8,000億ドルを超えました。この財政政策は成長の助けとなった半面、民間経済と金融市場のクラウディングアウトの原因にもなっていると思われます。
これは景気後退が最悪のシナリオであると考えられるもう一つの理由です。8-9割の米国人にとっては物価高騰やインフレよりも景気後退の方がましだという意見がありますが、景気が後退すれば負債デフレに対する懸念が表面化することは確実で、一度そうなれば元に戻すことは難しいでしょう。FRBはそのことを誰よりもよく理解しており、ベン・バーナンキ元議長が2002年の「‘デフレ―アメリカでこれが起きないようにするためにー」という有名なスピーチで最初に示しました。バーナンキ氏はこのスピーチの中で、デフレ回避のためにFRBが活用できる措置として、金融・財政政策の協調などを挙げました。
金がクオリティの高いS&P 500を含めた大半の株式をアウトパフォームし続けている事を指摘したいと思います。具体的に示すと、バーナンキ氏の2002年のスピーチ時にはわずか300ドルだったのが今では2,600ドルまで上昇しています。米ドルの購買力は従来のインフレ測定尺度が示すよりもはるかに低下しています。
その結果、金、高クオリティの不動産、株式、その他のインフレヘッジは非常にうまく機能しました。実際、最新の法定通貨ヘッジである暗号資産はこの10年間で最高のパフォーマンスを上げました。一方で、コモディティ、小型株、商業用不動産といった低クオリティの景気敏感資産は絶対リターンと相対リターンの両方で冴えない結果となり、購買力調整後では価値の低下が深刻です。
結論として、このような状況は目先、これらの政策の持続性に対する投資家の見方が変わるような出来事が起こるまで続くでしょう。現在の基調が反転するためには、民間経済のオーガニックな成長率が再加速して投資資金が低クオリティの景気敏感資産にシフトするか、あるいは景気後退入りし、サイクルが終了してすべての資産価格がリセットされ、その水準から本来の幅広い資産の価格上昇が始まるかのどちらかでしょう。
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先週、FRBが大きく動いたにもかかわらず、世界の市場を取り巻く強い不透明感と、各国中央銀行の今後の対応に関する疑問が残る理由を、弊社グローバル・チーフエコノミストのセス・カーペンター(Seth Carpenter)が解説します。
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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
本日のエピソードは、弊社グローバル・チーフエコノミストのセス・カーペンターがお届けします。今回のサイクルで初めての利下げを決定したFRBの会合について検討し、世界経済にとって何を意味するかを考えます。
このエピソードは9月23日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。
FRBは50ベーシスポイントの利下げを実施しました。しかし、金融政策の反応関数に大きな変化はありませんでした。むしろ、FRBのパウエル議長の言葉を借りるなら、この50べーシスポイントは、政策措置で後手に回らないとの決意表明でした。今後は25ベーシスポイントの利下げが続く公算が大きいと私は見ています。今回もパウエル議長は、リスクの認識次第で、FRBが段階的にも迅速にも行動できることを示しました。
ただし、今のところパウエル議長や他の政策担当者のコメントから、FRBは依然、米国の景気は順調で、労働市場は堅調と見ていることが分かります。しかし、再び月間の新規雇用者数が10万人となるか、個人消費が軟化することがあれば、状況は変わるでしょう。したがって、引き続き利下げのペースと最終的な着地点が、市場の議論の焦点になると見られます。
弊社の基本シナリオは、FRBのドットチャートが示唆するよりも若干前倒しになっており、フェデラルファンド(FF)金利はドットチャートにおける来年末ではなく、来年央に3.5%を若干下回ると予想しています。FRBの予測では2026年にかけて、またそれ以降にも誘導目標が低下していますが、ドットのばらつきは、連邦公開市場委員会(FOMC)の中でまだコンセンサスが形成されていないことの表れと言わざるを得ません。そうした背景から、データ次第という表現も、当面忘れるわけにはいかないと考えています。
変化の程度は異なりますが、今回としばしば比較されるのが1990年代です。当時は経済が安定し、成長が持続するに伴い、FRBは最終的に利下げサイクルを休止しました。したがって、次にどうするか、選択肢はたくさんあります。
世界各国の中央銀行は、今回のFRBによる利下げのような世界の金融環境と、国内の見通しの両方に適応し、反応していきます。新興国市場では、ブラジルとインドネシアの事例が良い参考になります。ブラジルの中央銀行は、利下げサイクルと長い休止期間の後、政策に対する信認の維持と、市場の期待に注意しながら、今週、政策金利を10.75%に引き上げました。外部要因として自国通貨安がある一方で、国内経済の力強い成長が考慮すべき内部要因として存在し、この2つの要因はいずれもインフレのリスクを示唆しています。
インドネシアの中央銀行は、自国通貨の大幅な上昇後、利下げを行いました。これにより、インフレのリスクは低減され、金融政策の方向性を変えることが可能になりました。
次に先進国の中央銀行に関して言えば、FRBによる50ベーシスポイントの利下げは、弊社予想を大きく変えるものではありません。弊社の予想通り、最終的に一連の25ベーシスポイントの利下げが実施された場合、他の先進国の中央銀行が現行政策を実質的に調整する必要はないと言って良いでしょう。欧州では、既に賃金上昇率が軟化しており、インフレの減速を確認する経済指標の発表を待っています。したがって、弊社は9月の利下げに強い確信を持っており、12月にも追加利下げを予想しています。
今後、FRBの追加利下げがユーロ高を招き、こうした物価傾向が強まる可能性はありますが、それによって欧州中央銀行(ECB)が軌道を実質的に変え、より積極的に利下げを行うには至らないと考えています。英国では、インフレに関して依然として疑問符が多く残る点を考慮し、中央銀行のイングランド銀行は9月に政策金利を据え置いた後、11月に利下げを再開すると弊社は考えています。
直近の会合で判断が分かれたことから、イングランド銀行の金融政策委員会(MPC)は発表される経済指標の微調整に基づいて計画を頻繁に調整していないことが分かります。そして日銀ですが、来年1月まで現状を維持すると弊社は予想しています。日銀の直近の金融政策決定会合は基本的にコミュニケーションを目的としており、実際、植田総裁のコメントは7月の会合が引き起こした類いの反応にはつながりませんでした。したがって、弊社予想が正しく、FRBの道筋がほぼ予想通りになれば、他の先進国の中央銀行が大きな変更を行なう必要はありません。
FRBはその見通しに本格的な調整を加えることはしませんでした。その代わりに、大きな変更を行うことへの意欲を表明しましたが、それはあくまで意欲に過ぎず、基本的な戦略が変わったことをはっきり示すものはありません。
市場へのインプリケーションは、明快かもしれません。引き続き底堅い経済状況が続く中でFRBが利下げに踏み切ったのは、リスク資産にとってポジティブなはずです。しかし、FRBはまた、油断が生じないようにしています。したがって、不確実性は十分にあると言わねばなりません。それでなくとも米国大統領選挙を控えているため、2025年に何が起こるか、予測は極めて難しくなっているのです。
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弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツ(Andrew Sheets)が、利下げに対するFRBのアプローチ、季節的なトレンドおよび米大統領選挙に着目し、クレジットの将来にとって来月が極めて重要な機会である理由をご説明いたします。
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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
このエピソードは9月12日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。
今年、弊社は資産クラスとしてのコーポレート・クレジットに注目しており、今後6-12ヵ月の見通しは引き続き有望と考えています。より広い視野で見ると、クレジットには緩和が適合すると言う点で、緩やかな経済成長、穏やかなインフレ、米国および欧州の金融政策の緩和は、引き続き弊社エコノミストの予想通りになっています。その一方で、ミクロのレベルでは企業のバランスシートは健全で、債券に対する旺盛な需要が持続しており、こうした動向は急激には変わらないと弊社は考えています。
しかし、こうしたクレジットの良好なストーリーは、極めて重要な時期に直面しています。最近このポッドキャストで検討したように、FRBは、金利を引き下げるべきであると示唆する要因が増えているにもかかわらず、高い水準に金利を据え置き、金融政策でリスクを取っています。米国のインフレ率は急速に沈静し、市場は現在、向こう2年間のインフレ率がFRBの目標を下回ると考えています。労働市場は減速しており、国債市場は現在、FRBがはるかに大幅に政策を調整する必要があると想定しています。
したがって、これは競争になっています。経済指標が今後数ヵ月間持ち堪えられれば、FRBが段階的な利下げの最初の一歩を踏み出す一方で、金融政策は妥当かつ経済の基調に沿っていると再確認する助けになるでしょう。しかし、今後、経済指標がさらに悪化すると、市場は下振れしやすくなっています。金融政策の作用は遅れて表われるので、利下げが直ちに助けになる訳ではありません。このため市場にとっては、経済成長が過度に減速しており、利下げしても手遅れだろうと心配する方が容易になります。
第2の喫緊の課題は、いわゆる季節要因です。ほぼ1世紀近い間、9月は他の月よりも大幅に低調なパフォーマンスになっています。季節要因には常に神秘主義的な要素がありますが、例年9月前後に市場が苦戦しがちな具体的な理由として、2つの要因を指摘したいと思います。第1は、夏場に小休止した後、社債発行を含む新規発行が増える傾向がある点です。そして株式に関しては、会社側が通期予想を実績に合わせようとするため、9月に業績予想の下方修正が増えるケースは少なくありません。大量の供給と企業業績の下方修正は、しばしば厳しい組み合わせになります。
この極めて重要な機会のもう一つの要素は、米国大統領選挙が近付いていることです。今回は政策の優先事項が全く異なる候補者の間で、極端な接戦になっている模様です。投資家が金融政策の調整に誤算があったとして神経を尖らせるか、季節要因が足を引っ張るなら、来たる大統領選挙も投資家を尻込みさせる要因になります。
これらすべてが、来月がクレジットにとって極めて重要な機会と弊社が考える理由であり、今年に入ってからこれまでよりも若干、慎重姿勢を強める理由でもあります。ただし同時に、
弱含む局面があっても、一時的なものと考えています。11月初頭までに米国大統領選挙は完了する予定で、経済成長は持ち堪え、インフレ沈静が続き、利下げはかなり進行していると弊社は予想しています。そして、9月は過去の例から見て株式とクレジットにとって良くない月ですが、10月下旬以降は、そうではなく、ストーリーは大きく改善します。目先は軟調になっても、年末にかけて強含むと見られます。
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