オープニングソング「水魚の交わり（魚水情）」

エンディングソング「バイオバイオバイオ（遺伝子の舟）」

作詞作曲　楠元純一郎

編曲　山之内馨

ラジオ収録20220208

中国語翻訳・朗読　レオー（中国語講師・中国の小学校教諭）

読解者・朗読　　松尾欣治（哲学者・大学外部総合評価者）

読解者　　　福留邦浩（国際関係学者）楠元純一郎（法学者）

中国語朗読　　刘耀鸿

聴講 　　张晓良 張智航

三十五

　幾日か後には学校の門まで送り迎へしてもらへばあとは自分ひとりでゐられるやうになつた。伯母さんは私の好きな駄菓子を蛤の貝殻へいれ赤い紙で封じておいて学校から帰つて鞄をはふりだすとお仏壇の抽匣から出してくれる。それをあれかこれかとまよひながらよりどるのが楽しみであつた。そのうち私は甲の組へうつされることになつた。みんなは乙の組から昇進してきた新参者をとりまいてひそひそ評しあつてたがやがてひとりの奴が兄の書いてくれた鞄の独逸字をみて

「やあ、英語が書いてあら」

といつてよつてきた。

＜蛤（はまぐり）→二枚貝の一種、アサリより大きい。浜の栗。蛤のお吸い物。封じる→閉じて塞ぐ。お仏壇（おぶつだん）。よりどる→選んで取り出す。選り取り見取り→好き勝手に選び放題。甲乙（こうおつ）。新参者（しんざんしゃ）→a new commer, a new face。独逸（ドイツ）＞

几天后，只要有人送我到学校大门或者把我接回来，我就可以自己一个人（待着了）。阿姨把我喜欢的小零食装在蛤蜊壳里，用红纸封上，等我放学回来放下书包，他就从佛坛的抽屉拿出来给我。我很喜欢从好几个里面犹犹豫豫然后选一个出来的那种感觉。那时候我被转到了甲班。大家对我这个从乙班刚升上来的菜鸟小声议论的时候，一个家伙看到哥哥在我的书包上写的德文，说：“呀，这里写着英文呢！”

ほかの奴らも　やあ　やあ　といつて顔をつきだす。そして　なんと書いてあるのだ　といふから家で教はつたとほり　自分の名だ　といつたら羨しさうに見てたがひとりが

「えくしよ。日本人のくせに毛唐人の名なんか書いてやがら」

といつた。

＜羨ましそうに→うらやましそうに。毛唐人（けとうじん）→昔の外国人を指す用語。紅毛人・南蛮人→昔の西洋人を指す用語。＞

其他的家伙也都“呀，呀”地把脸凑了过来，问我，这写的是什么呀？我就按照家里教的说，写的是我自己的名字，于是他们都羡慕地看着。这里却有一个人说：“可恶，明明是日本人却写个毛鬼子的名字。”

またひとりの奴が守袋と鈴を見つけて穢い手でいぢくりはじめた。私はいやでしやうがなかつたけれど怖いのでするがままにさせておいた。守袋は水色と白の南京玉で弁慶にして、鈴には鈴虫の模様があり、紫の緒の他の端には小さな硝子の瓢箪をつけてゐた。そ奴いつが　鈴なんぞさげてどうするのだ　ときいたから私は、迷子になつたとき音をきいて伯母さんが捜しにくるためだ　といつたら彼らはさも軽蔑したらしく顔を見合せた。そのうち彼らがあんまり守袋をいぢくつたもので弱いかたん糸がきれて南京玉がばらばらと落ちてしまつた。私はぐすぐすべそをかきだした。彼らは　とんだことをした　といふ顔つきでてんでにすばやく身をひいて

「おいらのせゐぢやなーいと　三年烏のせーゐだ」

といひいひ遠方から心配さうに様子をみてゐる。

＜穢い（きたない）。いじくる→弄る→指先でもてあそぶ。弁慶（べんけい）にして→弁慶にする？→弁慶縞→太い縦横の縞（チェック）模様、柄。ギンガムチェック、ブロックチェック。その他、魚の串などを刺す、わらを束ねたもの。座持ちをしてお酒を注ぐ男。弁慶→鎌倉時代の将軍源頼朝の弟である源義経の家来。義経の身を庇おうとして立ち往生。強い男。内弁慶→家の中では威張っていて、外では弱々しい人。弁慶の泣きどころ→向こう脛（すね）、弱点。べそをかきだした→べそをかく→泣くこと→泣きべそ（泣き虫）。とんだことをした→たいへんなことをした、とんでもないことをした。てんでに→それぞれ、各々。三年烏（カラス）→脱線ばなし→三年鳥→三年鳴かず飛ばずの鳥は、いざとなったら鳴いて飛んで驚かすたとえ。長い雌伏の後の雄飛。中国の古い諺から「三年不飞，一飞冲天」、石の上にも三年、面壁九年＞

还有个家伙看到我的护身符的小袋子和铃铛，用他那脏手开始玩起来。我虽然讨厌到不行，但是很怕他，所以就由他把玩。小袋子是由水蓝色和白色的小珠子编的，铃铛是金钟儿的图案，紫色的流苏，另一端绑着小小的玻璃的葫芦。那家伙问我为什么要挂着个铃铛，我说，要是迷路了，铃铛就会响起来，阿姨就能找到我。他们互相看了看，脸上挂着很轻蔑的表情。然后护身符的口袋被他们拉来扯去，线都断了，小珠子哗啦啦地散落了一地。我抽抽噎噎地哭起来。他们一脸“怎么了 ”的表情，抽身走了，还在远方说着“不是我们的错哦，是这个爱哭鬼”好像一副挺关心的样子。