6中勘助『銀の匙』134(後編9⑥)>
ラジオ収録20250423
「レオンラジオ日の出」テーマ曲 作詞作曲 楠元純一郎 OP「水魚の交わり」、ED 「遺伝子の舟」司会 楠元純一郎(法学者) 中国語翻訳・朗読 レオー(中国語講師・中国大慶の小学校美術教諭)朗読 松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)読解者 福留邦浩(国際関係学博士) 连卉喆(東洋大学法学部3年生)
私はまた唱歌が大好きだつた。これも兄のゐる時には歌ふことを許されなかつたのでその留守のまをぬすんでは、ことに晴れた夜など澄みわたる月の面をじつと見つめながら静な静な歌をうたふといつか涙が瞼にたまつて月からちかちかと後光がさしはじめる。
<唱歌(しょうか)→近代日本の初等教育において音楽の教材として作られた歌曲、またはこれと関連して民間で作られた歌曲。「日の出の唄」、「欣紅日出」も唱歌みたいなもの。留守の間を盗む→誰かがいない間にこっそりと。>
我还很喜欢唱歌。哥哥在家的时候同样不许我唱,于是我趁他出门时盯着晴朗
的夜空中澄澈的月亮,静静地唱。不知不觉泪盈于睫,月亮仿佛罩上一轮忽明忽暗
的光晕。
をりをり姉のところへ遊びにくる声のいいお友達に教へてもらふことがあつた。私は学校ではいちばん上手だつたけれどその人のまろまろした声のまへにはただもう気おくれがして小さな声であとについた。それはお蕙ちやんといつも遊んだ肱かけ窓のところであつた。青桐の葉が風にさわぎ、虫がないて、五位鷺の群ががつがつと鳴きわたる夜が多くあつた。……
<をりをり→時々、その時その時。まろまろとした→まるまると太った→まろやかな→ゆったりとした。気後(きおくれ)がして→自信を失って怯(ひる)むこと、圧倒されて緊張すること。青桐(あおぎり)→亜熱帯原産の木。五位鷺(ごいさぎ)→貴族になった鳥。>
姐姐的朋友有时来找她玩,我会请她们当中声音好听的教我唱歌。在学
校,我是最会唱歌的,可姐姐那位朋友的歌声醇美,我每次只敢怯生生地跟着她小
声唱。我们就在以前我和阿蕙一起倚靠过的那扇窗前唱。有许多个夜晚,梧桐叶在
风中沙沙作响,虫儿啾鸣,一群夜鹭飞过,叫声响彻长空……