われらの文学 レオンラジオ 楠元純一郎

112 中勘助 银汤匙 39(前編39①)


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ラジオ収録20220510

中国語翻訳・朗読 レオー(中国語講師・中国の小学校教諭)

読解者・朗読  松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)

読解者   福留邦浩(国際関係学者)楠元純一郎(法学者)

中国語朗読  刘耀鸿

聴講   张晓良 張智航 劉凱戈 孟徳偉


三十九

 お医者様のすすめにしたがつてとかく弱りがちであつた母と私の健康のために父は二人をつれてある海岸へゆくことになつた。

<とかく→ややもすれば、ともすれば、いろいろ、なにはさておき、なんにせよ→夏目漱石『草枕』の冒頭の有名な句→「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくにこの世は住みにくい」、弱りがち→よく弱くなる、弱くなりやすい。ゆく→いく(行く)→よい・いい、ゆう・いう>

遵从医生的建议,父亲为了体弱多病的我和母亲的身体着想,将我们带到一处海岸。


行く路すがらそれまで歌がるたの絵や粉本などでみて子供心にあこがれてた自然がそのまま目のまへにあらはれてくるのをみて私はむしやうに喜んだ。

<路すがら→道すがら→道を行く途中。歌がるた→小倉百人一首(和歌)の読み札(ふだ)には一首の全句が、取り札には下の句だけが書かれてある札で遊び用具としてのカード。ポルトガル語由来のcarta。粉本(ふんぽん)→絵の下書き、画稿。むしょうに→無性に→ある感情が激しく起こる様、むやみ、やたらに。無性に腹が立つ、無性に腹が減る。>

沿途,从前只在和歌纸牌画或者画帖上出现过的,令年幼的我深深着迷的自然风景出现在眼前,我高兴的不得了。


小さな想像の甕かめには汲みつくすことのできない不思議な海もみた。

<甕(かめ)→甕壺(かめつぼ)→「頸部の径が口径あるいは腹径の2/3以上のものを甕(かめ)と呼び、2/3未満のものを壺(つぼ)とする」(東大人類学者の東大長谷部言人(はせべことんど)による定義)。ちなみに縄文土器は「深鉢(ふかばち)」。汲み(くみ)尽くす>

我们还看到了神秘的大海,那浪涛是小小的我无法想象的。


それは藍色にすんで、そのうへを帆かけ舟の帆が銀のやうに耀いてゆく。

<藍色(あいいろ)→青は藍より出でて藍よりも青し→弟子が師よりも優れていること→出藍の誉れ。青出于蓝而青于蓝→青出于蓝而胜于蓝。 すんで→澄んで→混ざりけがなく清らかである。帆掛け船→帆船、帆→風を受け、船を進ませる幕。耀いて(かがやいて)→まぶしく光って→耀光(ようこう)→輝(かがや)かしい光>

海面是一片澄净的蓝色,船只扬起的风帆闪耀着银色的光辉。


まつすぐにきつたつた崖のあひだをとほるときは堪へがたい淋しさをおぼえて、そこにかつかつに生えてる草たちをかはいさうに思ふ。

<きつたつた→きったった→切っ立った→垂直にそそり立った。崖(がけ)→山腹、河岸、海岸などの険しく切り立ったところ、cliff。かつかつ→どうにか、こうにか、ぎりぎり、ある状態をかろうじて保っていて、余裕のない様→バイトで食いつなぐ、かつかつの生活> 

穿过山崖的时候,我感到难以忍受的荒凉和寂寞,觉得在悬崖上努力生长的草十分可怜。


龍宮みたいな南京人のお宮では南京のお婆さんが甃しきいしのうへへ石ころを落してはなにか祈つてゐた。

<龍宮(りゅうぐう)→海神の宮(御殿)、南京人(なんきんじん)、甃→しき石、石畳(いしだたみ)、しき瓦(かわら)>

当地有一座南京人的宫殿,修的好像龙宫一般。一位南京的老夫人把石块扔到铺开的石板路上,不知道在祈求什么。


さうして髪を油で塗りわけた人形のやうな子が可愛い足をふらふらさせてあるくのを綺麗だとおもつた。

<ふらふら→不安定に揺れ動き回る様、体に力が入らない様>

有个小孩子长得像人偶一样,分缝的头发上抹了头油,扭动两只可爱的小脚摇摇晃晃地走路,那情景我觉得很美。


貝細工を売る店には海の底の宝ものがいつぱいに飾つてある。

<貝細工(かいざいく)>

出售贝壳饰品的店里摆放着无数从海底打捞来的 宝贝。


父は姉たちへのお土産に幾本かの簪と、私にひと包みの酢貝を買つてくれたが、私は こんな綺麗なものを父はなぜみんな買はないのかしら と思つた。

<簪(かんざし)→髪型を保持したり、髪飾りに使う装身具。酢貝(すがい)→小さなサザエみたいな貝。買わないのかしら→買わないのだろうか>

父亲给姐姐们买了几根簪子作为礼物,给我买了一包朝鲜珠螺。我却不明白这么漂亮的东西,父亲为什么不给大家一人买一些。


海岸の松原を俥にのつてゆくといくらいつても松がある。

<俥(くるま)→人力車>

人力车载着我们穿过海岸上无边无际的松林。


お正月かける高砂の掛物にも松があるし、つねづね伯母さんにも松は神木だときいてたゆゑ私は松の木が迷信的に好きであつた。

<高砂(たかさご)→能の演目、縁起物、『高砂や この浦舟に 帆を上げて この浦舟に帆を上げて 月もろともに 出潮(いでしお)の・・・』。掛物→掛軸(かけじく)。迷信→合理的根拠のない俗信>

正月里挂的高砂挂图上就有松树,阿姨也常告诉我松树是神木,所以我对松树有一种迷信的喜爱。


暫くして宿へついた。折角静な松原を楽しんでたのにそこには人ががやがやしてたので もう家へ帰る といつて泣きだしたら番頭や女中たちがとんできて旧いお馴染かなぞのやうに 坊ちやま 坊ちやま といつて騙した。で、安心してぢきに泣きやんだ。

<暫く(しばらく)。宿(やど)。折角(せっかく)→無理して苦労して。がやがや→大勢が勝手にうるさく、やかましく話をしている様。番頭(ばんとう)→商家の使用人の頭。女中(じょちゅう)→お手伝いさんの女性。旧い(ふるい)。ぢきに→すぐに、やがて。>

不一会我们到了住的地方。那里人声吵闹,沉浸在松林静谧气氛的我哭着要回家。旅店的领班和女侍连忙跑过来,像老相识一样“小少爷 小少爷”一样的哄我。我安心下来,立刻不哭了。


さうしていちんち潮風の香をかぎながら小松のむかふにどんどんと砕ける波になにもかも忘れて見とれてゐた。

<いちんち→一日中。香をかぎならが→鼻で匂い(臭い)を感じ取ること。見とれる→見惚れる→心を奪われて見入る>

我就这样闻着海风的味道,出神地望着松林对面一波波拍打在岸上的海浪,忘记了一切。





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