われらの文学 レオンラジオ 楠元純一郎

113 中勘助 银汤匙 40(前編39②)


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ラジオ収録20220517

中国語翻訳・朗読 レオー(中国語講師・中国の小学校教諭)

読解者・朗読  松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)

読解者   福留邦浩(国際関係学者)楠元純一郎(法学者)

中国語朗読  刘耀鸿

聴講   张晓良 張智航 劉凱戈 孟徳偉



 夜になつて明りがついた。そのかさは円筒状の竹籠に紙をはつたもので黒塗りの風雅な台にのつてゐた。そこへ火影をしたつてよこばひが飛んできてはとまる。美しい緑色をして目のあひだのひろいよこばひが可愛くてならない。指でおさへようとするとひよいと横へゐざつて隣の籠のめへ逃げる。鳩虫もきた。

<明かり→灯火、ともしび。火影(ほかげ)→火の光、それでできる影、したって→慕って→そのそばに近づきたい気持ち、恋しく思う、懐かしく思う、古賀メロディー�「影を慕いて」、よこばい→5ミリぐらいの小さな蝉のような昆虫、緑色のものを、「よろいよこばい」ツマグロよこばい、イナヅマよこばいは稲の害虫。いざって→ズレ動く。鳩虫ハトムシ→アオバハゴロモ>

到了晚上,旅店点起灯火。房间里的灯罩是竹子弯成圆筒再贴上纸做的,放在优雅的黑漆台子上。叶蝉循着火光飞来,停在灯上。周身是漂亮的绿色,两只眼睛隔得很宽,非常可爱。我想用手指按住它,他却轻巧地逃到灯罩的另一边。青蛾蜡蝉也飞了过来。


 ある晩縁側へ出て庭で煙火はなびをあげるのを見てたら綺麗な女の人が菓子を包んできて「あげませう」といつた。私はその人が「げいしや」だといふことを小耳にはさんでたが、「げいしや」といへばなんでも人を騙したりする怖いものらしい。

<縁側(えんがわ)→家の建物の縁(へり)に張り出して造られた廊下のような板敷。芸者(げいしゃ)→宴席に招かれ歌や踊りをしてお客をもてなすもの、芸妓(げいこ)さん。小耳に挟む→聞くともなしに聞く、意図せず何らかの情報を得ること。>

一天晚上,我到走廊上看人们在院子里放烟火。一个漂亮的女人递给我一块包好的点心:“给你吧。”我听说那个人是“yi ji”,还听说“yi ji”是很可怕的,总是把人骗得团团转。


その「げいしや」がそばへよつてきて 可愛いお子さんだの、年はいくつ だのといひながら肩へ手をかけて頬ずりしないばかりに顔をのぞく。私はいい匂のする袖のなかにつつまれて返事もし得ずに耳まで赤くなつて手すりにくひついてたが、ふと これは自分を騙しにきたのだ と気がついたら急に恐しくなりしやにむに袖の下をすりぬけて母のところへ逃げて帰つた。

<頬ずり→自分の頬を擦り付けること・しないばかりに→せんばかりに→しそうである、しても当然である。耳まで赤くなって→血流が高まる→どきどき、緊張。しゃにむに→あれこれ考えないでそれだけに集中すること。>

“yi ji”凑到我身边,说:“真是个可爱的孩子啊,几岁了?”,边说把手放在我的肩膀上,盯着我的脸,差一点就要贴到我的脸上来。我被拢在她香喷喷的袖子里,不知道怎么回答,脸红到了耳朵根,只好紧紧抓住栏杆。我忽然意识到她也许是过来骗我的,一下子害怕起来,拼命从她袖子下面钻出来,逃回母亲身边。


私が胸をどきつかせてそのことを話したときに母はすこし笑ひながら私の無作法をたしなめた。それからは煙火を見るたんびに こんだなにかきかれたら返事をしよう、菓子をくれたらお礼もいはう と思つてたが、その人は怒つたのかその後はそばへもよらなかつた。私は自分の後悔してることを知らせる機会がないのを心から残念に思つた。

<胸をどきつかせて→どきどきさせて。無作法→不躾(ぶしつけ)、礼儀作法に外れること。嗜(たしな)める→軽く注意したり叱ったりすること。こんだなにか聞かれたら→今度、なにか聞かれたら>

我的心怦怦跳着,将发生的事情告诉母亲。她听完轻轻笑着,批评我对人家没礼貌。后来每次看烟火,我都想着如果那人再来跟我说话,一定要好好回答;如果她给我点心,一定要道谢。可她也许是生气了吧,再也没到我身边来。我也再没机会让他知道我的后悔,我为此深深遗憾。


 ある日父といつしよに深い松林の奥へはひつていつたことがあつた。松の匂がして松ぼつくりが沢山落ちてゐた。父はそろそろ歩いてるのだがこちらは松ぼつくりを拾ふので始終小走りに追ひつかなければならない。拾ひためて袂にも懐にもいつぱいになつた松ぼつくりと心で仲よく話しながらちよこちよことあとについてゆくうちに東屋があつて眉毛のまつ白な爺さんが熊手で松葉をかいてゐた。それを私は高砂のお爺さんがゐたと埒もなく喜んで――ほんとにさう思つたのだ。――いつもに似ず自分からいろんなことを父に話しかけた。父は宿へ帰つてから母に「今日は章魚坊主がえらうものをいつたぞよ」といつて笑つた。

<松ぼっくり→松笠、松の球果。そろそろ→静かにゆっくりと。袂(たもと)→和服の袖の下の袋、懐(ふところ)→胸ポケット。東屋(あずまや)→庭園の中の建屋。熊手(くまで)→枯葉を集めるのに便利な竹でできた箒(ほうき)のようなもの、埒もなく→めちゃくちゃ、秩序がない。タコ坊主→毛がない主人公の子供。えらう→えらく→たいそう、とても、非常に>

一天,我和父亲一起走到茂密的松林深处。松香扑鼻,地上落着许多松果。父亲信步走着,我则是边捡松果边走,于是总要小跑才能追上他。捡的松果装满袖子和前襟,我一面在心里愉快地和他们说话,一面快步跟在父亲身后。不知不觉走到一个亭子前,一位眉毛花白的老爷爷在用竹耙扫松叶,我高兴得不知如何是好——传说中的高砂老翁真的出现啦!我一扫平时的拘谨,主动和父亲说了很多话。回到旅馆后,父亲告诉母亲:“今天光头章鱼的话可多啦!”





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