ラジオ収録20220524

中国語翻訳・朗読　レオー（中国語講師・中国の小学校教諭）

読解者・朗読　　松尾欣治（哲学者・大学外部総合評価者）

読解者　　　福留邦浩（国際関係学者）楠元純一郎（法学者）

中国語朗読　　刘耀鸿

聴講 　　张晓良 張智航 劉凱戈 孟徳偉

四十

　旅行から帰つたら留守のうちにお国さんの家はお役の都合で遠方へこしてたので私はなんだか拍子ぬけのした寂しさを感じた。

＜遠方へ越してた→遠くに引っ越していた。拍子抜け→緊張がなくなること、張り合いがなくなること、気抜け。＞

　　旅行结束回到家，我才知道，自己不在的这段时间里，阿国一家已经因为父亲的工作调动搬到了很远的地方。我感觉到了一份迟到的寂寞。

私はそれからは恐しい夢に魘はれることもなく体もめきめきと発育するやうになつたが、生得のぼんやりと学校をなまけることとは相変らずであつた。それは虚弱のためばかりでなく、うぶな子供にとつてあまり複雑で苦痛の多い学校生活が私をいやがらせたからである。

＜魘はれる→おそわれる。めきめきと→目に見えて成長、発展する様。生得の→生まれながらに備わっている、天性の。うぶな→幼い、純真な、世間ずれしていない。＞

我从那以后再也没有被可怕的梦魇缠住，身体也渐渐地强壮起来。可是那份与生俱来的迷糊仍然伴随着我，我也依然不爱去上课。不仅仅是身体虚弱，还因为学校生活对于懵懂的小孩子来说太过复杂和枯燥，让我讨厌。

ただ嬉しいことにはそのときの受持ちの中沢先生は大好きないい人で、おまけに私の席は先生の机のすぐ前にあつた。中沢先生は私がいくら欠席してもなんともいはず、どんなに出来なくてもくすくす笑つてばかりゐた。

〈受持ちの→担任の。おまけに→それに加えて。くすくす→こらえきれずに笑う様〉

唯一让我开心的是我很喜欢那时候的班主任中泽老师。他人很好，而且我的座位就在讲桌前面，中泽老师不管我缺席多少次都不会说我，就算我再做不好，他也笑嘻嘻的。

が、いつか並んでる安藤繁太といふ奴と喧嘩したときにたつたいつぺん叱られたことがあつた。どうしたことかそ奴とはお互に虫が好かないでしよつちゆう仲がわるかつたところ、ある日算術の時間に彼は石盤にめつかちの顔をかきそれにひとの名まへをつけて「やい　やい」といつて見せた。

＜そ奴→そやつ、そいつ→その人のことを罵ったり、乱暴に言ったりするのに用いる。虫が好かない→気が合わない、どうも好感が持てない。めっかち→片目＞

他唯一一次批评我，是因为我和一个叫做安藤繁太的同桌打架。我和那家伙不知道为什么总是看不顺眼，处不好关系。有一次，上数学课的时候，他在石板画了一个独眼龙，写了我的名字，一边给我看，一边嘿嘿笑着。

で、こつちでは大きな下駄に目鼻をつけてそのわきへ　すげため　と書いてやつた。さうしたら彼がいきなりひとの脛を蹴つたので私も負けずに横つ腹をついてやつた。

＜下駄(げた）→鼻緒があって底に歯のある日本の伝統的な履き物。すげため→繁太のこと？。脛（すね）→足の膝から下、くるぶしの上。横っ腹（よこっぱら）を突（つ）いて＞

于是我也画了一个大大的木屐，在上面画上鼻子和眼睛，旁边写上“死繁太”。他看了立刻踢了我一脚，我也不甘示弱，朝他肚子上来了一拳。

そんなにして内證で喧嘩をしてるうちにたうとう先生に見つかつて学校がひけてから二人だけあとへ残された。先生はいつになく怖い顔をして　なぜ喧嘩した　といふ。私は一部始終を話して自分の悪くないことを主張したが繁太は　私が先にからかつた　と嘘をついたもので先生は　喧嘩両成敗だ　といつて二人とも帰してくれない。ほかの者はみんな包みをかかへていそいそと帰つてゆく。なかにはもの好きに戸口から覗いて笑つてる奴もある。学校ぢゆうの生徒がみんな帰つてしまつていやにしんとしてきた。

＜内証で→内緒で→表立ってはせずに内内で。学校がひけて→学校の授業等行事が終わって。からかった→からかう→揶揄う→相手を困らせたり怒らせたりして面白がる、弄（いじ）ること。喧嘩両成敗（けんかりょうせいばい）→私闘をした者たち両方をその原因を問わず処罰すること。戸口（とぐち）→玄関以外の建物の入口。いやに→妙に、変に。しんとしてきた→静まりかえってきた＞

我们就这样子暗中搏斗，被老师发现了。放学了，我们被单独留下来，我之前从来没见过老师这么严肃的样子。他问我为什么打架。我把这件事从头到尾说了，我认为自己没有做错。而繁太却谎称我先嘲笑他的。老师说打架的人都不对，没有让我们任何一个回去。其他同学都已经收拾好书包走人了，还有几个人好奇地边笑边在教室门口偷看。全校学生都回家了，周围静的让人难受。