市場の風を読む

3兆ドルのAI投資資金需要に応えるのは誰か


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人工知能(AI)の競争に参加するときには、大規模な物理インフラの整備が欠かせません。そこでクレジット市場が重要な役割を担う可能性があるのはなぜなのか、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがご説明します。

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「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

本日は、3兆ドルと予想されるAI投資の原資がどのように調達される可能性があるかについて、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがお話しします。

このエピソードは7月25日 にロンドンにて収録されたものです。

英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。 

人々がすでに考慮に入れて行動しているか否かにかかわらず、AIは日常生活に急速に入り込みつつあります。たとえば、家の外に出る前に天気をチェックする。交通渋滞の情報もリアルタイムで反映させながら目的地までの道案内をスマートフォンに任せる。結婚式のスピーチをギリギリになってあわてて書く。薬を飲む時間や、スマホの電源を切る時間が来たと教えてくれるアプリを使う・・・といった具合です。

こうしたことができるようにするには、半導体チップからデータセンター、さらにはそれらを動かす電力関連の設備に至るまで、大掛かりな物理インフラが必要になります。ところが、これまでに登場したAIがどれほど大きなものに見えるとしても、私たちはまだその姿を本当の意味では目にしていません。弊社では、世界のデータセンターの処理能力が今後5年間で6倍になるとみています。それにかかる費用は莫大な額になるでしょう。データセンターとそのハードウェアだけで、その額は2028年末までに3兆ドルに達するとみられています。

この資金は、果たしてどのように調達されるのでしょうか。

実は、Morgan Stanley Researchリサーチの多くのチームがまさにこの問いに答えようと試み、深く掘り下げたリポートを先週発行しました。最初に注目したのは時価総額の大きなテクノロジー会社、いわゆるハイパースケーラーでした。ハイパースケーラーは巨大な企業であり、黒字も計上しています。そのため、データセンター整備に投資する資金の半分はキャッシュフローから捻出するだろうと弊社ではみています。

ですがその場合、残りの半分は外部から調達することになります。そのため弊社では、金額の大きさを踏まえればクレジット市場――すなわち社債、証券化商品、および資産担保融資の市場――が大きな役割を担うだろうとみています。

まず、私自身にとって最も思い入れがある資産クラスである社債については、この投資のために2000億ドルが追加発行されると弊社では推計しています。テクノロジー会社は現在、キャッシュフローとの比率で見るなら、他のセクターに比べて借り入れが少ない状況にあります。現在の債券市場に占めるシェアも小さいことから、借り入れを増やしたいのであれば比較的有利な局面から始められると言えるでしょう。テクノロジー・セクターはS&P500種株価指数では30%以上を占めていますが、投資適格社債指数に占める割合は10%にすぎません。

実際、重要な問いは、この比較的有利な出発点を踏まえれば、社債を発行して借り入れを増やさないのはなぜなのかということではないでしょうか。

弊社では、その理由の一部はキャパにあるとみています。今日、非金融法人の社債発行残高は、最も多額な企業で800億ドルから900億ドルです。これらの大手テクノロジー企業の残高もこれと同程度ですので、社債市場で最も大きなシェアを握る債券発行体に事実上一夜にして変身させてほしいと投資家に要請するのは、やはり難しいでしょう。

企業財務も関係していると思われます。AIの成長はまだ初期段階であり、リスクが最も大きなときです。したがってテクノロジー企業の多くは、こうしたリスクをすべて自社のバランスシートで取ることよりも、コストは若干上乗せされるが柔軟性が大幅に高まるパートナーシップのほうを好むのではないかと弊社はみています。これからたびたび耳にするだろうと思われるパートナーシップのひとつに、資産担保融資(ABF)があります。この分野は大きく成長しており、最終的には、必要な資金のうちざっと8000億ドルがABFで調達される可能性もあると弊社ではみています。

このAI展開への投資に伴う利害は極めて大きい。多くの大手テクノロジー企業がこのAI技術開発競争を「避けられないもの」とみていると言っても、過言ではありません。この競争に勝つことはおろか、参加するだけでも巨額の費用負担が発生する恐れがあります。一方で、AI事業をめぐるこうした話には明るい側面もあります。それは、生産的な設備投資が大きく伸びようとしている初期段階に私たちがいることであり、クレジット市場はそのような投資の資金調達を担い続けてきたということです。

多額の支出がなされるときにはよく起きうることですが、施設が必要以上に建設されてしまうリスクがあります。テクノジーが変化するとか、電力不足のような平凡な問題のために採算性が変わってしまうこともあり得ます。

AIは今後数年にわたって、投資の世界で何かと話題にされるテーマになるでしょう。クレジットはそうした議論の方向を左右する主たるベクトルではないかもしれませんが、重要な役割を担うことは間違いありません。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。 

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市場の風を読むBy Morgan Stanley