グローバル・チーフ・エコノミストのセス・カーペンターが、トランプ大統領の相互関税が、米国と世界の経済に与え得るドミノ効果について説明します。
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トランスクリプト
「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
グローバル・チーフ・エコノミストのセス・カーペンター.
今回はグローバル・チーフ・エコノミストのセス・カーペンターが、特に関税が米国経済にもたらす可能性があるダウンサイドリスクについてお話します。
このエピソードは2月20日 にニューヨークにて収録されたものです。
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再び関税が大きく報道されています。相互関税が実施される見通しが、弊社の2025年予想の基本シナリオに対するリスクに追加されました。これまで弊社が一貫して述べてきたように、関税がインフレを押し上げるリスクに市場は十分注意していますが、経済成長に悪影響を及ぼすリスクを市場は過小評価しています。
しかし、2023年と2024年の経済成長は、他の多くの予想と同様、弊社予想も上回りました。したがって、弊社が見落としているアップサイドリスクがあるのかを、問うべきかも知れません。
経済成長に対する明らかなアップサイドリスクは、生産性の伸びです。そして弊社のリサーチ刊行物を愛読されている皆様が御存知のように、弊社はAIに対して強気スタンスで臨んでいます。実際のところ、現在の生産性はコロナ禍以前の水準を上回っており、生産性の伸びの加速を示唆し得る暫定的な推定値もあります。
もちろん、おそらく景気要因により引き締まった労働市場が寄与しており、ある程度、測定の誤差も考えられます。しかし、AIによる生産性の伸びは、確かに従来のテクノロジー・サイクルよりも速いペースで実現している模様です。したがって、多くを否定することはできません。弊社の今後1年の見通しでは、AIによって生産性の伸びがさらに0.1パーセントポイント前後上昇すると想定しました。さらに、AI向け設備投資もGDPを若干押し上げます。
しかし、それ以外のアップサイドリスクについては、それほどはっきりしません。弊社のGDP予想には規制緩和による追い風は全く含まれていません。そして、そうした見方は市場の多くの見解に反するものです。規制緩和は一部の業種の利益を押し上げる見込みですが、恐らく経済全体の成長を押し上げる効果はほとんどないと見られます。言い換えると、売上高よりも利益への寄与がはるかに大きいということです。この点で顕著な例外は、天然ガスを筆頭とするエネルギーセクターと見られます。
関税について、これまでの弊社の基本シナリオの見解は、対中国の関税は、向こう1年間で大幅に引き上げられる一方、他の関税は、より幅広い交渉の一環として実際には課されないか、または短命に終わるというものです。これまでのニュースを見る限りではこの基本シナリオを否定することはできませんが、最近の広範な相互関税の議論は、明らかにリスクの増大を意味しています。
しかし、弊社の基本シナリオですら経済成長への影響を過小評価していると考えます。大まかに見て中国からの輸入の3分の2前後は、資本財または米国製造業の原材料が占めています。過去に中国からの輸入に関税を課した際は、鉱工業生産が急激に悪化しました。この落ち込みは2018年の下期も続き、2019年末までより広範な経済の足かせになりました。これと同様に重要なことに、その後も鉱工業生産は回復しませんでした。
大学の教科書を見ると、関税を支持する理由は、国内生産を増やすためとされています。この経路は2国モデルの中では作用します。しかし、現実の世界ではうまく行きません。
今後は、相互関税が実施される見通しによってこのダウンサイドリスクの範囲が広がります。自由貿易により、世界各国で生産機能が分担されてきました。しかし、同時に貿易の大幅な不均衡にもつながっており、この不均衡こそが、新政権による関税重視の核心にあります。中国、カナダ、メキシコの各国は対米貿易の不均衡という意味で確かに突出しています。しかし、基調にある決定要因は、実に様々です。より重要なことに、こうした不均衡は数十年かけて構築されたものであり、即座に解消しようとすれば、少なくとも短期的には混乱が起こります。
相互主義が世界的に実施される見通しを受け、より広範な影響を考慮する必要が生じています。リスクは米国だけではなく、全世界に対するものです。特に中南米やアジアの主要国から米国製品に向けた供給に対する関税は、逆の場合より高くなります。
したがって、報復関税が世界全体に及ぼし得る影響は無視できません。
しかし、最終的には弊社は、中国に対する関税だけが継続的に実施されるとの基本的な見解を維持しており、これまでに見られる実施の遅れはこうした見解と一致します。それでも、幅広くリスクが存在していることは明らかです。
最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。