米国の債務が予想を上回るペースで増える中、11月の中間選挙から読み取れるワシントンの動きについて、弊社米国公共政策リサーチ責任者、アリアナ・サルバトーレが考察します。
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トランスクリプト
「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
本日は、米国の財政政策が再び注目されている理由と、来る中間選挙から読み取れる債務の全般的な先行きについて、弊社の米国公共政策リサーチ責任者、アリアナ・サルバトーレが解説します。
このエピソードは8月28日にニューヨークにて収録されたものです。
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財務省が最近発表した国債買い戻しを受け、米国の財政政策が再び投資家の注目を集めています。買戻しが発表された週、債務総額は大方の予想より数ヵ月も早く大台を超え、初めて40兆ドルに達しました。
弊社のアンドリュー・シーツが指摘するように、債務総額はとても膨大です。ただ、より注目すべきは、金額そのものではなく、増大する債務が経済の足かせになり始めているかどうかという点です。
現時点において、米国債市場で信用問題が生じているとは言い切れません。しかし、そうだからこそ、財政が再び議論の俎上に載っています。その背景には、様々な理由があると私たちは考えます。
景気後退に陥っていないにもかかわらず、米国は大規模な財政赤字に陥っています。弊社エコノミストによれば、赤字は2027年までGDP比6%前後で推移する見込みで、有権者は高水準で推移する債務を明らかに懸念しています。
それでは、ワシントンではなぜ緊縮財政がもっと議論されないのでしょう。その答を簡単に言えば、政治的インセンティブが緊縮財政と相反するためだと私たちは考えます。
単純化し過ぎることを承知で言えば、財政健全化、つまり赤字削減には、歳出削減か増税のいずれかを実行する必要があります。しかし、そうした選択に伴う政治的代償は即座に表面化します。したがって、特に選挙を控えた時期には、タイムリミットを伴う重大な決定や既存制度に対するリスクが争点として浮上しない限り、与野党どちらにもそうした政策変更に前向きになるインセンティブがないと考えます。
では、選挙後はどうでしょう。中間選挙そのものが財政政策の軌道を修正するきっかけになると私たちは考えていません。ただし、その後の方向性を知る有効な手掛かりにはなると思います。私たちは特に2つの点に注目しています。
1つ目は社会保障です。11月の中間選挙で最大の争点になる可能性は低いものの、老齢・遺族保険信託基金問題のタイムリミットが徐々に迫っているため、債務を巡るより広範な議論の行方を占う試金石として役立つかもしれません。
最新の評議員報告書では、老齢・遺族保険信託基金が2032年第4四半期に支払能力を失うと予測されており、このまま法改正がなければ、予定給付額の約78%しか賄えなくなる可能性があるとのことです。ただし、この問題の争点としての重要性は、今年11月の中間選挙よりも2028年の大統領選挙でより高まりそうです。この年の選挙で勝利した人物が、基金が枯渇する時期に大統領の座に就いているからです。
それでも、11月の中間選挙からは、政治的な争点がどこに収斂しつつあるかを読み取ることはできると思います。最近の世論調査からすると、有権者にはかなり一貫した傾向が見られ、すなわち、有権者は政治家に行動を取るよう求めており、幅広い給付削減よりも、高所得者への増税を支持する様子が読み取れます。また、所得分布の最上位層を対象にするものに限れば、給付削減にも比較的前向きであるようです。
2026年中間選挙の候補者の多くが社会保障税の課税対象となる所得上限の引き上げに足並みを揃えたり、一部の共和党候補が受給開始年齢の引き上げといった主張を選挙運動で前面に出さなくなったりした動きには、こうした背景があると考えます。
候補者が打ち出すこうした政策のうち、実際にどれが勝利に繋がるかを見定めれば、財政政策の先行きを予想するのに役立つと私たちは考えます。特に有権者のかなりの割合がこうした給付に依存するニューハンプシャー州やメーン州の上院選では、どの政策変更が有権者の共感を呼び、最終的な制度修正に反映されるかを探る有効な手掛かりが得られる可能性があります。
2つ目は、選挙後のより幅広い財政環境です。例えば11月の選挙でねじれ議会となれば、政府予算や債務上限の成立期限が近づく度に、財政を巡る不透明感が強まり易くなります。ただし、この2つが市場におよぼす影響は大きく異なります。政府予算の場合、不成立に伴う政府機関閉鎖の主な影響は、間接的なものにとどまる傾向があると考えます。予算不成立によって政府機関による調査が滞ったり規模が小さくなり、その結果として統計の公表が遅れたり、サンプル数の制約で調査結果の質が低下したりする可能性を想像してみてください。
その場合、投資家や米連邦準備制度理事会は、時には数週間にわたって不完全な情報に基づく意思決定を迫られてしまいます。一方、債務上限の影響はより直接的なものです。そしてその影響は、米国短期国債市場で最も顕著に表れます。期限となり得る時期の前後に満期を迎える短期国債は、投資家がその限られた期間のデフォルト・リスクを織り込まなければならないため、ほかの短期指標と比べて価格が下がる傾向があるからです。この問題が最終的には解決するとの見方を基本シナリオが織り込んでいたとしても、このことに変わりはありません。
つまり、私たちの全体的な考え方はこうです。債務が40兆ドルを超えたからといって、財政がただちにワシントンの最優先課題になる可能性は低い。それでも中間選挙は、政治的なインセンティブが変わり始めているかどうかを見極める機会となる。具体的には、政治家の社会保障を巡る姿勢と、より広くは、予算期限を巡る政治的対立を受け入れる度合がどの程度かという点がより明らかになると考えています。
いずれにせよ、財政政策は今後数年にわたってニュースの見出しを飾る話題になると私たちは考えています。とりわけ2028年の大統領選挙シーズンが近づくに連れ、こうした傾向は強まりそうです。
最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。