市場の風を読む

株式市場がFRBの先を行く理由


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経済指標は過去を見つめ、株式市場は将来に目を向ける。そしてそのために、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利の上げ下げで後れを取る――どうしてそうなるのでしょうか。しかも、これは金融政策の特徴であって欠陥ではないとされるのはなぜなのでしょうか。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがご説明します。

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トランスクリプト 


「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

本日は、なぜ株式の売買のされ方と経済指標とが直感に反した動きになるのか、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがお話しします。

このエピソードは8月4日 にニューヨークにて収録されたものです。

英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

株式市場は4月の安値以降、押し目買いを入れられる局面すら見せずに一本調子で上昇しています。私自身は5月の初めから強気を貫いていますが、これは主に、EPS予想のリビジョン・インデックスが4月半ばからV字回復を遂げ始めたことによります。このリビジョン・インデックスの反転は、関税をめぐる弱気が最高潮に達したことの反動、人工知能(AI)関連設備投資の底入れ、そして米ドル安を受けて変動する関数になっています。先日成立した「1つの大きく美しい法案」による税負担の軽減も企業のキャッシュフローを改善する好材料であり、設備投資やM&A(企業の合併・買収)を増やす公算が大きいでしょう。

いつものことながら株式は、前向きな心理と、しばらく時間がたってから発表される経済指標を先取りしつつ売買されます。これが今日のお話の主なポイントです。

先週発表された雇用統計は芳しくない内容で、短期的には、不安を覚える投資家もいるかもしれません。しかし結局のところ、これもまた株価にとっての新たな好材料のひとつにすぎないと弊社ではみております。仮に雇用がさらに悪化するとしても、それはFRBの利下げを早め、その幅を大きくするだけでしょう。

これには債券市場も同意してくれているらしく、今ではFRBが9月に利下げに踏み切る可能性が90%あるとの見方が相場に織り込まれつつあります。また2年物米国債利回りも、今ではフェデラル・ファンド (FF)金利を80ベーシスポイント下回っています。このスプレッド自体は、去年 昨年夏に記録した200ベーシスポイントに比べればシビアなものではありません。しかし、来月発表の雇用統計が再び失望を誘う内容になれば、さらに拡大するでしょう。

芳しくない経済指標がさらなる株価下落につながる場合もありますが、雇用統計は弊社がフォローしている経済指標のなかで最も過去に重きを置いたデータだと言えます。そして、FRBの利下げが後手に回るケースが多い理由もここにあります。また、インフレ指標は2番目に過去に重きを置いたデータだと言えますが、こちらはFRBの利上げも後手に回ることが多い理由となります。私に言わせれば、これは金融政策の特徴です。欠陥ではありません。

最後に、これは私見ですが、トランプ大統領がパウエル議長に公の場で利下げを求めていることよりも、債券市場の影響力のほうが重要です。

株式市場もこの力を理解しています。そしてこのことは、株式市場も景気循環の様々な局面でFRBの先を行く理由となっています。弊社がMid-Year Outlook で指摘したように、4月の株式市場で見られた安値は、マイルドな景気後退を事実上織り込んだ非常に耐久性のある安値でした。この見方を完全に理解するには、株価が今年4月までの12ヵ月間調整していたこと、そして株価の下落率の平均が30%近かったことを認識しなければなりません。そしてそれ以上に重要なのは、株価が底を付けたのは、EPS予想のリビジョン・インデックスが大きな谷を描き出したまさにその時だったということです。

端的に言えば、「解放の日」は1年前に始まった重要な弱気相場の終わりを告げた日だったのです。

株式市場は悪いニュースで底を打ちます。そして「解放の日」は、数多く連なってきた悪いニュースの最後のピースでした。それによってEPS予想のリビジョン・インデックスが底を打ち、弊社はそこに焦点を当ててきたのです。

話をまとめましょう。経済指標は過去に重きを置き、EPS予想のリビジョン・インデックスと株式市場は将来に目を向けます。株価は4月、私たちがいま目にしている冴えない経済指標を織り込んで、重要な底値を付けました。そしてそれは、過去3年間の、セクターごとに時間差で業績後退を示すローリング・リセッションの底であり、セクターごとに時間差で回復するローリング・リカバリーと新たな強気相場の始まりでもあったのです。

本当にそうなのだろうか――腑に落ちない方には、リセッションのさなかに株式市場が底を打ってから12ヵ月間は失業が増えるのが典型的なパターンであることを認識していただくのが重要だと思われます。成長リスクがひとたび織り込まれれば、それは究極的には利益率と株価の追い風になります。営業レバレッジがプラスになり、FRBも大幅利下げに踏み切るからです。

今朝の株価の反発を見ても、株式市場はこの見方に同意してくれているように思われます。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

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市場の風を読むBy Morgan Stanley