関税政策が流動的である限り市場への信頼感は戻らないのか――弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが探ります。
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トランスクリプト
「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。
最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン, 本日は最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、先週の相場のボラティリティと今後の見通しについてお話します。
このエピソードは4月14日 にニューヨークにて収録されたものです。
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今月は、株式市場にとって大変な月になっています。しかも、まだ半分しか過ぎていません。4月の初め、弊社の関心はインフレのリスクよりも経済成長減速のリスクのほうにもっぱら向かっていました。人工知能、(AI(エーアイ))関連設備投資の伸びの鈍化、財政支出の伸びの鈍化、政府効率化省(DOGE(ドージ))、不法移民の大量送還といった向かい風に見舞われていたためです。そこに関税という、とどめの一撃が加わりました。「解放の日」がこれからどうなっていくのかをめぐって、ほとんどの投資家は前向きになれませんでした。失望するというよりは、何らかの救済措置が採られないだろうかという見方に傾いていました。
4月2日に相互関税の詳細が発表されると、一連の向かい風の組み合わせは問題含みであることが判明しました。S&P500先物は同日午後の高値から翌週月曜日(7日)の朝にかけて16.5%もの急落を演じました。驚くべきことにサーキット・ブレーカーは一度も発動されず、この極度のストレス下でも市場は非常に順調に機能しました。2:03 とは言え、売却を強いられたケースも一部で見受けられ、7日には米国債、金(きん ゴールド)、ディフェンシブ銘柄がそろって下落しました。
私自身は、7日月曜日は大量の商いを伴った典型的な「降伏の日」だったと考えています。実際この日は、去年 昨年12月にほとんどの銘柄について始まった調整期間の、そして多くのシクリカル株については1年も前に始まっていた調整期間のモメンタムの底であったことが判明する公算が大きいとさえみています。またそれは、たとえ一部の個別銘柄が底打ちしたとしても、主要な株価指数は先週の安値を再度試す、あるいは突き抜けて下落する公算が大きいことも意味しています。弊社では、もっと耐久性のある底値が到来するのは早くても来月、あるいは企業業績が下方修正される夏ごろになるだろうとみています。加えて、信用市場や資金調達市場が不安定にならない限り利下げや流動性の追加供給は行わないというFRBの理解を踏まえ、株価倍率は下方バイアスを伴いながら引き続き乱高下すると考えています。
先週お話ししたように、市場はいま、リセッションのリスクが通常よりもはるかに高まっていると考えています。民間経済のほとんどがもう2年近く苦しんでいる事実は言うまでもなく、数多くの種類の向かい風によって景気がすでに悪化しているところに関税が追い打ちをかけてきているからです。私が見る限り、国内総生産(GDP)成長率と労働市場は3つの要因に支えられています。政府支出、消費者向けサービス、AI関連の設備投資という3点ですが、今ではこれらがすべて減速しています。
ここで厄介なのは、関税による打撃が絶えず変化していることです。問題は、ダメージを受けた市場心理が回復できるか否かです。すでに指摘されているように、市場はファンダメンタルズに先んじて動いてきました。そして、データに現れてきている景気減速の予測において、今回もコンセンサスを上回る成績をあげています。
S&P500種指数やそのほかの主要な株価指数の下落はだれの目にも明らかですが、実は株式市場の本質がそれ以上に明確になっています。第1に、小型株のパフォーマンスはここ4年間、大型株のそれに対して明らかに劣る傾向にありました。端的に言えばこれは、高クオリティ銘柄への投資が成功を収めた時期でした。その理由はいわゆるK字経済や、政府支出のクラウディング・アウトによって総合的な景気指標が高めに出る状況など、弊社がもう何年も指摘してきたことに求められます。FRBはこの強さに促されて金利を高めに、それも米国経済の比較的弱い部分が回復するのに必要な水準よりも高く維持してきたのです。
したがって金利が下がるまでは、この二極分化した景気と株式相場が続くことになりそうです。また、昨年秋にFRBが利下げしていたときに低クオリティのシクリカル株が短期間ながら力強い上昇を見せたこと、しかし利下げが12月で打ち止めになると急速に下落してしまったことも、これで説明できます。シクリカル株と小型株の劇的な調整は株価だけでなく、時間的にもかなり先行しています。多くの人が経済成長の減速を懸念するようになったのはつい最近のことですが、市場はそれを1年前に織り込み始めていたのです。
また、株価の下落をより広い観点から眺めると、相場の調整がかなり進んでいることが示唆されます。しかし最終的にリセッションに陥るのであれば、あるいはそうなることへの不安が完全に織り込まれることになるのであれば、おそらく調整はまだ完全ではないということも浮かび上がってきます。株式投資家にとって最も重要な問題はやはりこれだ、と私はみています。そしてそれゆえに、リセッションに関するこの問題にもっと明快な答えが示されるか、あるいはFRBが昨年秋と同様に経済成長リスクをもっと積極的に回避する決断を下すまでは、S&P500種指数は5000~5500のレンジ内で乱高下しそうだと考えています。
FRBはインフレリスクという制約があると話しており、リセッション入りのリスクが高まっていてもあえて金利を据え置く公算が大きいと思われます。また2022年に匹敵する下落に見舞われている分野も多く、セクター単位や業種単位においても類似したパフォーマンスで、レンジ内での乱高下が予想されます。結論を申し上げますと、株価はすでに大きく下げていますが、耐久性のある底に達したと結論付けるのは時期尚早です。政策には不確実性が残っており、企業の業績見通しも下方修正のトレンドに入っているうえ、FRBは利下げに動かず、長期金利が上昇しているためです。多くの個別銘柄については、すでに売り時を逃した感がありますので、相場が先週の底値を再度試す展開になりそうな来月や再来月にリスクを取りに行くことに注力すべきかもしれません。
最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。