市場の風を読む

60・40ポートフォリオを超える戦略はあるのか?


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60・40ポートフォリオは、幾何かの手直しさえすれば優れたパフォーマンスをこれからも維持することができると考える理由について、弊社チーフ・グローバル・クロスアセット・ストラテジストが解説します。

このエピソードを英語で聴く方はこちら。


-----トランスクリプト-----


「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

本日はモルガン・スタンレーのチーフ・グローバル・クロスアセット・ストラテジストのSerena Tang(セレナ・タン)が、60・40ポートフォリオ戦略の将来性についてお話しします。このエピソードは7月16日木曜日にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

投資家の皆様から、次のような質問をよく頂きます。株式を60パーセント、債券を40パーセントの割合で配分する60・40ポートフォリオは終わったのか?と。何せ、この戦略の過去2年間のリターンはこの数十年間で最も低いのですから、皆様がそう考えるのも無理のないことでしょう。私たちは現在、広く採用されてきたこの戦略を疑問視する考えに根拠が全くないとは考えていませんが、いささか過剰であることに間違いはないと思っています。ただし、この種のポートフォリオ戦略の株式と債券の適正配分比率については、見直す必要があると考えてもいます。

ポートフォリオのリスクを低減することを目的として、株式に60パーセント、債券に40パーセントの割合で投資するポートフォリオ戦略は、1950年代のモダンポートフォリオ理論から発展したものです。この戦略が狙い通りに機能するためには、債券のボラティリティが株式を下回り、株式と債券のリターンの相関係数が1未満である条件を満たす必要があります。1だと、株式と債券との間に完全な正の相関があることになるからです。これまでは、成長率とインフレ率が長らく歩調を合わせるように上下していたため、株式と債券の相関係数も長い間1を大きく下回っていました。

それが何の関係があるんだと、おっしゃりたい方もおられるでしょう。説明するなら、力強い成長をバックに株式が上昇する環境では、一般的に物価も上昇します。つまり、名目利回りは高い水準のままで債券リターンは損なわれます。そしてリセッション環境ではその逆のことが起こります。すなわち、いずれの環境においても、株式と債券のリターンの負の相関関係は、成長と物価の正の相関関係によってもたらされているのです。60・40ポートフォリオ戦略が何十年もの長い間、特にボラティリティが低く、成長と物価の正の相関関係が高く、株式と債券のリターンの相関関係が低かった1990年代から2010年代にかけて上手く機能したのは、こうした理由によります。

投資家の方々にとっては残念なことですが、ここ数年間はそうした条件が満たされていないのです。パンデミックのもたらした極めて異例なマクロ環境が成長と物価の関係性を壊し、その結果として株式と債券の関係性が破綻したことで、ここ数年間の債券ボラティリティが急速に高まり、債券リターンが数十年来の低い水準へと低下したためです。しかし、こうした変化は緩やかに正常化すると私たちは予想しており、60・40ポートフォリオのような戦略は再び機能するようになると考えています。ただし、これから先の株式と債券の相関関係の度合や債券ボラティリティの水準は、これまでとはかなり異なるようになるかもしれません。特に量的緩和期と比べると、明らかに異なってくるでしょう。それでも債券のリスク特性が株式より低い限り -実際のところ、そうならないことを示す材料はほとんどないのですが- 債券はポートフォリオを分散化させる優れた資産クラスになり続けると考えます。

ここで投資家の方々に考えて頂きたい重要な問題があります。「株式と債券の相関関係をこの先左右する要因はが何か?」という問題です。私たちの考えでは、この二つの資産クラスの長期的な相関性は、先ほどお話しした成長と物価によって一部左右されるようになります。「一部」と言ったのは、これからはAIの影響も考える必要があると考えるからです。私たちの予想に基づくなら、生成AI技術の普及とエネルギー転換の進行がもたらす生産性の飛躍的な向上は、成長と物価の関係性を将来的に大きく変える可能性があり、また、多極化世界への移行の結果として世界主要経済国/地域でデカップリングが進めば、地域の株式と金利の相関関係が変わる可能性があります。

60・40ポートフォリオは未来の戦略となり得るのでしょうか? それとも70・30や、場合によっては50・50といった戦略へと変わるのでしょうか? ボラティリティと相関関係の正常化ペースが鈍い場合、60・40ポートフォリオより株式を多く組み入れた戦略の方がリスク/リワードは上向きます。一方、世界の65歳以上の人口が向こう数十年間にわたって増え続ける人口高齢化トレンドを踏まえると、例えリターンを犠牲にしても、変動性のより低い資産の組入拡大を求める向きが増える可能性もあるでしょう。

あるいは、あくまでも仮定の話ですが、選択肢はほかにもあるかもしれません。60・40のような単純な戦略の枠を超え、例えばポートフォリオを分散化させる資産クラスとして国債以外に目を向けたり、より柔軟性の高いマルチアセット・ポートフォリオを組んだりするなどの戦略です。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。



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市場の風を読むBy Morgan Stanley