市場の風を読む

アジア市場は米国選挙をどう見るか


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米国選挙で予想される関税引き上げ等のシナリオからアジアの経済と市場が受ける影響を弊社主席アジアエコノミストの Chetan Ahya(チェタン・アハヤ)が解説します。

このエピソードを英語で聞く。


--トランスクリプト--


「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

今回はモルガン・スタンレー主席アジアエコノミストの Chetan Ahya(チェタン・アハヤ)が米国大統領選挙のアジアへの影響について解説します。このエピソードは7月24日水曜日に香港にて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

米国大統領選が進むにつれ、世界の市場はトランプ氏が勝利する可能性について評価し始めています。投資家が特に気にしているのは、これがアジアにどう影響するかです。弊社は米国の選挙結果が3つの経路を通じてアジアに重要な影響を及ぼすと考えています。

そのひとつ目は、金融環境、つまり米ドルと金利が選挙前後でどう動くかです。ふたつ目は、関税です。そして3つ目が米国の成長率、これは世界成長率とアジアの輸出品に対するエンド需要を左右します。この3大懸案から考えられるのは、関税引き上げによる成長の下振れです。

2018年を振り返ると、関税の直接的な効果というのは、圧倒的な役割を果たしてマクロ経済を左右するというようなものではなく、むしろ企業心理や設備投資、世界需要、金融環境を通じて伝播していくものだと言えるでしょう。

ここで2つのシナリオを考えてみましょう。

まず、トランプ氏が勝利して「ねじれ議会」となった場合、中国はアジアで最も関税の影響を受けると考えられます。このシナリオでは2つの結果が考えられます。米国が中国だけに関税を課すケースと、米国が世界のすべての国に10%の関税を課すケースです。

中国からの輸入品に60%の関税を課す場合、アジアの成長率は大きな打撃を受け、デフレに陥るでしょう。中国はアジアの中でも最も大きなリスクを抱えた状態が続くでしょう。他のアジア諸国はすでに中国への輸出を時間をかけて減らしており、サプライチェーンから中国を外して多様化する動きから恩恵を受ける可能性があります。

米国が世界のすべての国からの輸入品に10%の関税を課す場合、中国とアジアはさらに大きな下振れが予想されます。この場合は、関税が輸出に直接影響を及ぼすだけでなく、企業心理や設備投資、貿易にも深刻な影響を及ぼし、成長はさらに大きく下振れるでしょう。企業セクターはフレンドショアリングの継続ではなく、オンショアリングを検討しなければならないため、中国だけに関税を課す場合と比べて企業心理へのダメージは大きくなると思われます。

2つ目のシナリオとして、トランプ氏が勝利して共和党が圧勝した場合は、関税の影響に加えて財政政策がどのようになるか、それに伴って米国債利回りと米ドルがどう変化するかに注意する必要があります。つまり、関税の影響以上に、金融環境の引き締まりがアジアの成長率をさらに下押すものと考えられます。

アジアの政策立案者はこのようなシナリオにどう対応するでしょうか。関税が課せられれば、アジア通貨は短期的に低下圧力を受ける可能性が高いと考えます。通貨安は関税の悪影響を一部打ち消すという意味では役に立ちますが、中央銀行による利下げは制限されるでしょう。この文脈では最初の政策対応としてまず財政を緩和し、通貨が落ち着いた後に金利を引き下げるものと予想します。注目すべきは、このサイクルにおけるアジアの金融政策の余地は過去のサイクルと比べてかなり狭いということです。アジアの名目金利は大体、米国金利よりもそもそも低いためです。

もちろん、状況は米国選挙までの数カ月間に変化します。今後も重要な展開があれば新たな情報をお伝えしていきます。

最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

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市場の風を読むBy Morgan Stanley