ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「AIの子守唄」


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『AIの子守唄』は、AI技術が高度に発達した未来の高山市を舞台に、ひとりの少女と彼女を守るAIの絆を描いた作品です。

先天性心疾患を抱え、生まれながらにして厳しい運命を背負った少女エミリ。
そして、彼女を守るために誕生したヒト型AI「SUE(スー)」。

「人はAIに命を託すことができるのか?」
「感情を持たないはずのAIに“愛”は存在するのか?」

この物語は、そんな問いかけとともに、エミリとスーが過ごした日々を綴っています。
彼らの物語が、少しでもあなたの心に響くことを願って──(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

■SE/赤ちゃんの鳴き声+バイタルを表示する音「ピッピッピッ」

私は高山市内の総合病院で産声をあげた。

そのとき母が医師から告げられたのは、無脾(むひ)症候群による余命宣告。

(医学的に説明すると、内臓が左右対称になっているため、脾臓がない。

それが原因で、肺動脈閉鎖・高度狭窄(きょうさく)という心疾患を併発)

多分、1歳の誕生日も迎えられないだろうと言われた。

そのとき母は、AIラボで働くシングルマザー。

”どんなことがあっても娘を救ってみせる”

鉄の意志で、退院を待たずに行動を開始した。

母が働くAIラボは、高山市役所の地下にある。

その名を

Takayama AI Cyber Electronic Labo=略してTACEL(ターセル=意味「ハヤブサ」)という。

国家の命で最先端のAIを極秘裏に研究・開発する組織である。

まさか市役所の地下にこんな施設があるなんて、高山市民は誰も知らないだろう。

TACELでAI開発のチーフだった母は、完成間際のヒト型AIを密かにコピー。

OSを起動させ、無断で自宅へ持ち帰った。

そのコマンドは、

”将来、先天性疾患の手術ができるようになるまで、娘の命を守ること”。

AIは「Save Ultimate Eternal-life」(SUE=スー)と名付けられた。

SUEのOSに埋め込まれた駆動コード。

そこには法で決められた、

『人間に危害を加えてはならない』

『上記に抵触しない範囲で、人間の命令に従わなければならない』

『上記にに抵触しない範囲で、自分を守らなければならない』

というアシモフの三原則より上位に、

『娘の命を守る』

というコードが優先順位最高位で書き込まれた。

スーは、常に私のバイタルを監視する。

無脾症候群によるチアノーゼが現れたら、冷静に診断。

ショック状態が続く強度のチアノーゼになったら、

窒息したり心筋梗塞になる前に、酸素吸入で処置する。

心不全や肺高血圧に対する薬物はスーが服用させる。

新生児のうちにおこなわれる2回の大手術では、術後の世話をやいた。

『大丈夫』

これがスーの口癖だ。

私の目を優しく見つめ、いつも笑顔で語りかける。

スーに守られて、私は命を永らえた。

小学校に入るまで、何度もおこなわれた手術。

『大丈夫だよ』

その都度、スーはこう言って私を励ましてくれる。

手術の苦しさに耐えられたのも、スーがいたからだ。

『もう大丈夫。よく頑張ったね』

私とスーの間には、人間とAIという関係を超えた信頼が生まれていた。

『大丈夫。今度も心配ない』

8歳になったとき、

私の心臓にはペースメーカーが植え込まれた。

ペースメーカーは新しい命の鼓動を刻む。

私は嬉しくて、外への散歩をするようになった。

と言っても、家の前の公園までだけど。

それはちょうどスーが充電をしているとき。

”公園までひとりで走ってみようかな”

そんな気持ちが心をよぎった。

”ペースメーカーがあるんだし、きっと大丈夫だ”

私は、スーがいないことをいいことに、公園まで走る。

あ、大丈夫そう。

最初はおそるおそる。

途中からだんだん全力疾走になる。

”あ・・・”

あっという間に胸が苦しくなる。

息ができない。

スー、たすけて・・・

意識が遠のいていった。

■SE/病院の心電図の音

気がつくと病院のベッドだった。

スーがママと話している。

どうやら、私の意識がなくなった直後にスーがかけつけ

酸素吸入してくれたらしい。

病院に運んでくれたのももちろんスーだ。

『申し訳ありません』

『あなたは悪くない。動きながら充電できるバッテリーを開発するわね』

私はママではなく、スーに声をかける。

『スー、ごめんなさい』

『まあ大丈夫なの?もう苦しくない?

これからは、ちゃんとエミリを見てるからもう安心してね』

ママがその横でうなづいていた。

そんなことがあってしばらくしてから、

私は初めて小学校へ通うことになった。

まだ小雪が混じる肌寒い初日。

スーが運転する車で小学校へ送ってもらう。

不安そうな私を励ましてくれたのもやっぱりスーだ。

『大丈夫だから。行ってらっしゃい』

スーは、私を教室まで送り届けたあと、廊下でじっと待っている。

周りのみんなに奇異の目で見られながらも

小学校に行けたことが嬉しくて、帰り道スーと語り合った。

夕方、家に帰ると珍しくママが帰っている。

ママは、私とスーに、

『ごめんね。ママ、国の仕事でアメリカへ行くことになっちゃったの』

『スーがいるから大丈夫だよね』

『スー、エミリをお願いね』

『大丈夫。エミリはスーが必ず守ります』

ママは安心した顔でうなづく。

それから1週間もしないうちに、旅立っていった。

■SE/学校のチャイム〜教室の雑踏(低学年)

桜が咲く季節になると、私は小学校4年生。

『ねえ、スー。私、勉強遅れてない?』

『大丈夫大丈夫。半年でもう3年分進んだからね』

スーが毎日勉強を教えてくれたおかげで、同級生のみんなに追いついたんだ。

ある日のこと。小学校の校舎になんとクマが侵入してきた。

クマは、1階の教室まで入ってくる。

教室はパニックとなり、みんなは慌てて外へ逃げていく。

逃げ遅れた私は、教室の入り口に倒れ込んだ。

しゃがみこむ私を見つけたクマは突進してくる。

そのまま私に噛みつこうとした瞬間、

素早く駆けてきたスーの右手が動いた。

■SE/クマの叫び

目を瞑った私の耳に聞こえてきたのは、クマの断末魔の叫び声。

スーは、かけつけた教員たちに何食わぬ顔で、

『クマ突進して止まれず、机の角に頭部をぶつけたようです』

と、説明した。

こんな事件があったけど私は学校が大好き。

教室のおともだちも大好きだった。

でも、周りのみんなはそうじゃないみたい。

私は病気で階段が登れない。

だから本当なら3階だった4年生の教室は、私の進学と同時に1階に変わった。

移動教室で授業するときは、スーにおんぶしてもらう。

そうしないと階段を登れなかったんだ。

『スー、私って体重軽すぎるよね』

『大丈夫。ちゃんとご飯食べてお薬飲んでるから他の子と変わらないよ』

病気のせいで成長が遅れて、体重も軽いはずなのに、スーは優しい嘘をつく。

そんな私たちのことを、クラスのみんなは冷たい目で見ていた。

”あの子ばっかり甘やかされて”

”えこひいきだよね”

”叔母さんの子守唄で眠ってるんだよ”

やがて、私の筆箱や上履きがなくなるようになった。

一番最後に給食が回ってくると、ほとんど食べ物が残ってなかった。

移動教室から帰ってくると、ランドセルが消えていた。

私は最初、誰にも言わずに1人で悩んでいたけど、

お薬の入った手提げ袋がなくなったとき、スーに相談した。

スーは少し考えたあと、笑顔で言う。

『大丈夫。心配いらないから。もうそんなことは絶対におきない』

本当だった。

スーは私の持ち物にAIタグをつけて、自分のAIとリンクさせたのだ。

誰かが私のものに手をふれると、スーが瞬時に横に立つ。

誰もなにもできなくなった。

■SE/教室の雑踏(低学年)

小学校4年生の半ば、私はフォンタン手術という最終的な手術を受けることになった。

休学期間は3か月。

手術後は上半身にドレーンというチューブがつけられ、身動きできないという。

不安でいたたまれない私にスーは、

『大丈夫。スーがついてるから』

きっとこう言ってくれるだろうな、とわかっていても、本当に安心する。

だが、先生がクラスの生徒たちに私の休学のことを話したとき、

みんなから射るような冷たい視線を感じた。

その日の授業中、女子のグループが私に紙を回してくる。

そこには、

”いままでごめんなさい”

”謝りたいから放課後校舎裏にきて”

”仲直りする気があるなら叔母さんは連れてきちゃだめ”

と書かれてあった。

放課後、校舎裏で待っていたのは、女子のグループとなぜか男子たち。

”叔母さんに言ってないよね”

それを確認すると、いきなり私の手提げ袋を奪い取った。

『あ、そこにはお薬が』

聞く耳を持たない彼女たちは、男子に袋を投げる。

”オレたちに追いついたら返してやるよ”

『だめ。返して』

私は焦って走り出す。

当然追いつくこともできず、胸の痛みでうずくまってしまった。

そのあとのことは全然覚えていない。

だが翌日の朝。

先生から、昨日の女子グループと男子たちが入院したと告げられた。

帰り道、スーに尋ねると、

『大丈夫。心配ないから』

と優しく微笑む。

私はスーを信じて、手術を受けた。

手術のあと、目が覚めると、ベッドの横にはスーではなく母が座っていた。

母はスーのログ履歴をチェックして急遽帰国したらしい。

真剣なまなざしで私に話しかける。

『エミリ、スーはラボへ返すことになったの』

『え?なんで!?』

『バグが見つかったから。これからはママがついてるわ』

『やだ!スーじゃなきゃいやだ!』

さんざん泣き疲れて眠ってしまった深夜。

目ざめたとき、ママは横のベッドで眠っていた。

私は、自分でドレーンをはずし、病院の外へ出る。

『スー!どこ!?どこにいるの!?』

わかってたことだけど、

探し回っているうちに、胸が苦しくなり、意識が遠ざかっていく。

そのとき、誰かが私を抱き抱えた気がした。

あれは夢だったのかもしれない。

朦朧とする意識のなかで、スーが私に話しかける。

『エミリ、大丈夫?』

『しばらく会えないけど、安心してね』

『スーはこれからもあなたのそばにずっといるから』

『大丈夫、大丈夫』

■SE/学校のチャイム〜教室の雑踏

手術はおおむね成功した。

チアノーゼはなくなり、紫色だった爪や唇がピンク色になった。

階段も、自分の足で登れるようになった。

そしてなにより、私をいじめた男子も女子も

みんな転校していなくなっていた。

私は今日も笑顔で学校に通っている。

通学路の途中で立ち止まり、タブレットを開く。

『スー、おはよう』

『エミリ、おはよう。体調は大丈夫?』

『うん、問題ない。だっていつでもここにスーがいるんだもん』

タブレットについたカメラが赤く点滅した。

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