ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「白亜紀より愛をこめて」


Listen Later

(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

■シーン1/発掘現場/SE〜発掘の音

「ちょっと、いま何捨てた?」

「見せて」

「もっとよく見ないと。これ、蜂の巣サンゴの化石だよ」

ここは奥飛騨温泉郷(おくひだおんせんごう)の福地(ふくじ)。

私は地元の高校2年生。いわゆる”JK”である。

全国でも珍しい『化石部』の部長をつとめている。

化石の発掘って許可がいるんだけど、

うちの学校は実績もいろいろあるから市から特別に認められてるんだ。

ま、コンプライアンスは大事だから、保護者の健康保険証のコピーとかはいつも持ち歩いてるけどね。

もともとは、サイエンス部化石発掘体験科という名前だったけど、

長ったらしいし、覚えにくいので私が『化石部』に変えた。

知ってる?高山って日本最古の化石が発掘されたところなんだよ。

ここんとこ話せば長いから、おいおい説明していくわ。

ところで、さっきから黙って地層をジロジロ見てるアレ、誰?

イケメン?

どこがー?興味ないし。

そう思うんならLINE交換すればー。

え?新しい部員?1年生?聞いてないよ。

さっき顧問の先生が紹介したって?

ぜんっぜん覚えてないなあ・・・

あ、そっか。私、配信で『NHKスペシャル〜生命(せいめい)』見てたんだ。

ま、いいや。

「ちょっと、あんた。なにやってんの?」

え?植物の化石?

どこに?

地層の中にある茶色の点とすじ?

植物の化石から出ている信号だって?

なに、この1年生。

自分の世界に入っちゃって。

”神の手”?

なにが?

え〜こいつが〜!?

なーんか、その名前からして胡散臭いなー。

ワンチャン、T-REXかなんかの発掘でも狙ってるんじゃね?

あ〜いやいや、なんも言ってないし。

『あのう、ひとつ聞いてもいいですか?』

「あっ、あー、いいけど」

『ここで見つかった日本最古の化石って』

「なに?コノドント?」

『はい、それって、海洋生物ですよね?』

「そ、カンブリア期の生き物。NHKスペシャルみた?」

『いえ、見たことありません』

「恐竜じゃなくて、こんなジミな生物に興味があるの?」

『っていうか、地層に興味あって』

「チソー?」

『どうしてこここんなに標高高いのに、海の生き物の化石が出るんすかね?』

「そりゃ、昔海だったからに決まってるじゃない」

『それって、恐竜の時代とかよりうーんと前ですよね』

「まあね、私が生まれる前だし」

『・・・』

なんだよ、そこツッコむとこだろ。

やなやつだなー。

『僕、古生代の地層ヲタクなんです』

「なんじゃそれ、ニッチやのう」

『僕の夢はアロマノカリスの完全な化石を発掘して全身骨格標本をつくること』

「まー、夢は大きい方がいいけど、ニッチすぎてつっこめんぞ」

「そもそも9月に入部って。4月からなにやっとったん?」

『モンゴルに化石留学してました』

「化石留学!」

「大型恐竜の発掘隊にでも加わっとったんか」

『大型恐竜の足跡の化石を発掘してました』

言葉をうしなった。

なんか・・・すごい。

だからかー。

なんかたいそうな発掘セット持ってるなーって思ったわ。

ハンマーなんてチタンだし。

1万円以上するんとちゃうか。

あーもう、考えるの、やめたやめた。

人は人。私は私。

夢なら私にもあるんだよ。

いつか地元で新種の恐竜化石を発掘して、自分の名前をつけること。

エミリザウルスとか、エミリドンとか・・・

なんか美味しそうだな。

それに、私には推しの先輩だっているからいいんだ。

大学の研究室に進んだ先輩。

恐竜の謎に迫るんだ、っていつも目をキラキラさせてたなあ。

『あ、その先輩しってます』

「って、えー!?

なんだおまえ急に、人の心を読むんか?スタンドか?」

『いえ、先輩、自分でぼそぼそ言ってましたから』

不覚・・・

「まあいい、でも知ってるって?」

『モンゴルで一緒でした』

「えっ・・・」

聞いてないよー。ずうっと岡山の大学院にいるって思ってた。

『奥さんも一緒でしたけど』

「奥さん・・・」

私のボキャブラリーにない単語が頭をかけめぐる。

「ふうん・・・ま、いいや。さ、無駄話はやめて発掘にもどろ」

■シーン2/自宅

そのあと、何を発掘してどうやって家に帰ったか覚えていない。

気がつくと、私の部屋の机の上に小さな石ころが置かれていた。

なんだろう、これ?

石の表面にうっすらと卵の殻のような模様が見える・・・

いやいやいや、石も卵も似たような感じじゃん。

でも、なんかやっぱり卵の形に削り出してある。

私、そんなコトした?記憶にない・・・

ってか、やっばい。

こんなん持ち帰っちゃだめなんやさ。

文化財保護や自然保護のためとかなんとか。

自分でもわかってるって。

化石は科学的に価値ある遺物だもんね。

みんなと共有して、保護するべきものだからでしょ。

あー明日、学校で謝ろう。

私ってばかだなあ・・・

メンタル弱すぎ・・・

■シーン3/学校/チャイムの音、ガヤ

「あ、先生、おはようございます。実はお話が・・・」

「えっ、文科省の人がきてる?私に!?」

急いで生徒指導室へ行くと、スーツを着たお役所の男性が2人。

向かい合って座っているのは、顧問の先生と・・・

あの1年生!

くっそ〜、こいつのせいで昨日は・・・

『最初に見つけたのは先輩です』

「え・・・」

『形が見えるまで、自宅で作業してみるって、持ち帰ってくれたんです』

「えっ」

『先輩、早く出してください。持ってきたんでしょ』

私はおもむろにカバンから石ころを取り出す。

『ほら、これ。卵の殻の表面に網目状の隆起模様がある』

みなが興味津々で身を乗り出す。

『こんなの、モンゴルでも見たことない』

文科省のスーツが私に向き直って、歯を見せて笑う。

”ひょっとしたらだけど、新種の恐竜の可能性もあるから”

え?え?え〜!?

でも、私、昨日、あのあと、まともに発掘なんてできてないはず。

『彼女の名前、つけてあげてください』

そう言って立ち上がった彼は、

私の横へ来て、意味ありげにウィンクをする。

なんだ、こいつ。

意外ときれいな目をしてるじゃないか。

『先輩の方がもっと綺麗な瞳です』

「ちょ、またおまえ心読んだな、アーニャか」

『違いますよ、先輩がまたぼそぼそ言ってたんです』

こいつ〜、どうやって成敗してやろう。

とりあえず、1週間毎日私にメシおごらせる。

『了解!』

やっぱり、こいつ超能力者だ。

...more
View all episodesView all episodes
Download on the App Store

ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会