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(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
■シーン1(朝)/自宅の朝
■SE/朝の小鳥〜ゲームを止める音
「おつかれ〜」
「やばっ!朝じゃん」
「そろそろ落ちま〜す」
「んじゃよいお年を〜」
チャットでフレンドと互いに労をねぎらう。
大晦日だというのにゲームで徹夜してしまった。
ま、いいや。寝正月寝正月。
オンラインゲームのいいところは、感動や喜びをフレンドと共有できること。
リアルで友だちのいない私は、ゲームの世界だけが交流の場になっている。
まあ、その分こうやってだらだら会話しながら遊んじゃうんだけど・・・
ゲームのフレンドは、リア友と違って気をつかわなくていいし、
遠く離れていても同じ世界でリアルタイムに遊べるのが好き。
私は年末から、海辺の町に住んでいるプレイヤーと仲良くなった。
キャラ名はピリカ。ちなみに私はエイミ。
2人とも高校2年生。
ピリカは学校にはあんまり行ってないみたい。
高山には海がないから、チャットで話してくれた漁師町の話、おもしろかった〜。
私、勉強きらいだから学校行っても、休み時間はずっと寝てる。
起きてるときも、ぼ〜っとしてるし。
以前、生徒会役員にならないかって誘われたけど、冗談じゃない。
相手を間違えてるんじゃないかしら。
ひとと関わることって好きじゃないんだ。
これからの人生、ずっと1人で楽しく生きていくからいいの・・・
■シーン2/TVのニュース
■SE/アナウンサーが画面から呼びかける
(※宮ノ下編成部長)
「高台や高いビルの上にただちに避難してください」
「できるだけ海岸から遠いところへ逃げてください」
元日の午後。
緊急地震速報に続いてやってきた激しい揺れ。
そのあと、信じられないようなニュースが、私の眠気を吹っ飛ばした。
画面に映し出される、目を背けたくなるような惨状・・・
何が起こってるのか、しばらくはまったくわからなかった。
これは仮想空間の話?
いや、違う。
やがて、現実を理解した私はただ呆然とする。
え?
ちょっと待って。
この場所・・・
ピリカが住んでいる漁師町じゃない!?
やだやだ。そんな、嘘でしょ。
私は慌ててスマホを探す。
だめだ。
ピリカの連絡先なんて知らないし。
そうだ、ゲーム。
オンラインゲームのチャットだ。
ゲームのチャットボックスを開く。
だがもちろん、この状況のなかで、そんなところにピリカがいるはずがない。
私は焦り、うろたえる。
ピリカ、お願い。
無事でいて。
私はじっとしていられず、家を飛び出した。
■シーン3/古い町並(静かなイメージ)から学校へ
静まり返った、お正月の高山。
観光客の姿もまばらだ。
きっとみんな、ニュースを見ているのだろう。
あてもなく彷徨いながら、気がつくと学校へ向かっていた。
校門が開いている。
校舎の1階に灯りがついている。
あそこは・・・たしか、生徒会役員室。
私は躊躇なく、扉を開く。
机を挟んで向き合っている生徒会長と副会長。
同時に私の方へ振り返った。
学校へ来ているのね。
元日なのに。
”どうしたの?”
と、驚きながら私に尋ねる。
「えっと・・・あの・・・地震で友だちが」
生徒会長たちは私を招き入れ、話し合っていたことを教えてくれた。
それは自分たち、高山の高校生がいまできること。
そうか。そうよね。
生徒会も被災地の高校生たちと交流があったんだ。
「今すぐ連絡をとりたい」
「できないなら、助けにいきたい」
「それも難しいなら、救援物資を届けたい」
「義援金も送りたい」
我を忘れて矢継ぎ早に問いかける私。
生徒会長は冷静にわかりやすく説明してくれた。
いまは現地の状況をメディアやネットから収集している。
安否の確認は、信頼できる現地の自治体が発表するSNSを確認してから。
無闇にチャットや電話で連絡をとると回線が集中して、よけいにつながりにくくなる。
救援物資の持ち込みは、緊急車両の通行や救援物資を運ぶ物流の妨げになる。
救援物資はまとめないと、仕分けの手間で被災地の負担が増える。
義援金もバラバラと送るのではなく、地域でまとめてから送る。
確かにそうだ。
私、動転して、大変な状況の友だちに、より迷惑をかけるところだった。
じゃあ、これから私ができることは?
こんなとき、ゲームのキャラなら、魔法のアイテムですぐに助けにいけるのに。
この日、私は生徒会長、副会長と3人で夜まで話し合った。
同時に国や自治体のSNSで最新情報をまとめる。
被害が大きかったのは、湾岸部。
ピリカの住んでいる町のあたりだ・・・
インフラも寸断されている。
通信が途絶えてたら、安否確認のしようがない。
ピリカ、お願い。
無事でいて。
生徒会長たちも、交流のある被災地の生徒会役員たちと連絡がつかないようだ。
じゃあ、うちの学校のサイトに災害時用のチャットを開設したら?
すぐに2人から却下。
ネット回線が遮断されたエリアに対して、ネット上の連絡方法は意味がない。
時間と手間をかけてページを作るより、つながりやすいSNSを使った方がいい。
その通りだ。
救援物資については、SNSに挙がっている要望を参考にした。
水。賞味期限の長い食料。調味料。コーヒー。タオル。ストッキング。生理用品。漫画。
ただ、SNSの情報も出どころをしっかりチェックしないと。
フェイクに騙されないように。
物資を適当に送ってしまうのもNG。
学生LINEの緊急連絡網から告知をして被災地に向けて物資を集めることを伝える。
個人では絶対に送らない。被災地方面への宅配、郵送は極力使わない。
集める場所は学校の生徒会役員室。
物流は使わず、自分で持ってくる。
集めた物資は1週間かけて、生徒会役員が仕分けする。
仕分けマニュアルは生徒会で作成した。
こうして、私の人生で一番長い1週間が始まった。
私は自分の家の水や食料をひとつずつ調べる。
なるべく賞味期限の長いものを選ぶ。
調味料やコーヒーや生理用品も。
パパもママもちゃんと協力してくれた。
漫画は山ほどあるから、自分が気に入っているものから出していく。
私、漫画についてはちょっとうるさいから。
私がいい!と思った作品はみんなにも喜んでもらえるはず。
学生LINEの緊急連絡網とは別に、Q&AのグループLINEも作った。
細かい質問はここで受け付け、緊急連絡網が混乱しないようにしなきゃ。
4日後。
三が日が明けると、生徒会役員室には救援物資が続々と集まってきた。
大量の水。よし、賞味期限は長い。
漬物。そうだ、高山は保存食の宝庫だった。しかもみんな美味しい。
お湯のいらないインスタント食品。へえ、こんなのがあるんだ。
調味料は、えごま油。こうじ味噌。醤油。地酒。酒蔵の多い高山だもんね。
コーヒー、ストッキング、生理用品、漫画もいっぱい。
お、フリーレンの全12巻も。私まだ読んでないんだよな。
みんなが持ってくる物資を、それぞれ仕分けしてまとめていく。
物資にはひとつひとつ心のこもった短い手紙がついていた。
手紙のない物資には私が書き足す。
私は生徒会役員を手伝って、仕分けした物資を大きなダンボールにまとめる。
その上に大きな文字で、「水」「食料」「タオル」と書いていく。
生徒会長は、北へ向かう物流トラック網を入念に調べる。
すごいな。
え?生徒会長の卒業課題は、物流2024年問題?なるほどねえ。
積荷に少しでも余裕のあるトラックを探し出している。
本来なら高山から被災地まで4時間かからない距離なんだけど。
仕分けをしながら、私は心の中で祈る。
ピリカ、お願い。
無事でいて。
1週間後。
仕分けを終えた救援物資を、被災地への物流ラインにやっと乗せてもらうことができた。
宛先は被災地のある県の自治体。
やりとりは電子申請で。
県が指定する配送拠点がたまたま高山にあったのも幸いした。
トラックを見送る私に生徒会長が声をかける。
”おつかれさま、がんばったね。ありがとう”
体の力が抜けていく。じわっと瞳が潤む。
いや、これで終わったわけじゃない。
私の周り、事態はなにも変わっていない。
ピリカ、お願い。
無事でいて。
私は何気なく、スマホをとりだしオンラインゲームを開いた。
チャットの通知が1件入っている。
え?
『連絡ありがと』
『いま避難所だけど、なんとか無事だよ』
『高山も揺れたでしょ。大丈夫だった?』
まぎれもなく、ピリカだ。
「なに言ってんの。こっちのことよりも自分でしょ」
速攻で返信した。
ほかのフレンドたちからも、いっぱい激励のチャットが入ってる。
返信もリアタイでかえってきた。
『落ち着いたらまたゲームしよ』
「そんなことより体調は?風邪ひいてない」
『大丈夫。寒いけど』
「さっき使い捨てのカイロ、大量に物流トラックで運んでもらったから」
『ありがとう。ようし、ではピリカ、BK!back!』
フレンドたちから『WB=Welcome back』のチャットがあふれだす。
「ついでにピリカの好きな葬送のフリーレンも全話送ったからね」
『生き返るわー』
「笑」『笑』
「笑」の文字がチャットボックスを埋め尽くしていった。
(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
■シーン1(朝)/自宅の朝
■SE/朝の小鳥〜ゲームを止める音
「おつかれ〜」
「やばっ!朝じゃん」
「そろそろ落ちま〜す」
「んじゃよいお年を〜」
チャットでフレンドと互いに労をねぎらう。
大晦日だというのにゲームで徹夜してしまった。
ま、いいや。寝正月寝正月。
オンラインゲームのいいところは、感動や喜びをフレンドと共有できること。
リアルで友だちのいない私は、ゲームの世界だけが交流の場になっている。
まあ、その分こうやってだらだら会話しながら遊んじゃうんだけど・・・
ゲームのフレンドは、リア友と違って気をつかわなくていいし、
遠く離れていても同じ世界でリアルタイムに遊べるのが好き。
私は年末から、海辺の町に住んでいるプレイヤーと仲良くなった。
キャラ名はピリカ。ちなみに私はエイミ。
2人とも高校2年生。
ピリカは学校にはあんまり行ってないみたい。
高山には海がないから、チャットで話してくれた漁師町の話、おもしろかった〜。
私、勉強きらいだから学校行っても、休み時間はずっと寝てる。
起きてるときも、ぼ〜っとしてるし。
以前、生徒会役員にならないかって誘われたけど、冗談じゃない。
相手を間違えてるんじゃないかしら。
ひとと関わることって好きじゃないんだ。
これからの人生、ずっと1人で楽しく生きていくからいいの・・・
■シーン2/TVのニュース
■SE/アナウンサーが画面から呼びかける
(※宮ノ下編成部長)
「高台や高いビルの上にただちに避難してください」
「できるだけ海岸から遠いところへ逃げてください」
元日の午後。
緊急地震速報に続いてやってきた激しい揺れ。
そのあと、信じられないようなニュースが、私の眠気を吹っ飛ばした。
画面に映し出される、目を背けたくなるような惨状・・・
何が起こってるのか、しばらくはまったくわからなかった。
これは仮想空間の話?
いや、違う。
やがて、現実を理解した私はただ呆然とする。
え?
ちょっと待って。
この場所・・・
ピリカが住んでいる漁師町じゃない!?
やだやだ。そんな、嘘でしょ。
私は慌ててスマホを探す。
だめだ。
ピリカの連絡先なんて知らないし。
そうだ、ゲーム。
オンラインゲームのチャットだ。
ゲームのチャットボックスを開く。
だがもちろん、この状況のなかで、そんなところにピリカがいるはずがない。
私は焦り、うろたえる。
ピリカ、お願い。
無事でいて。
私はじっとしていられず、家を飛び出した。
■シーン3/古い町並(静かなイメージ)から学校へ
静まり返った、お正月の高山。
観光客の姿もまばらだ。
きっとみんな、ニュースを見ているのだろう。
あてもなく彷徨いながら、気がつくと学校へ向かっていた。
校門が開いている。
校舎の1階に灯りがついている。
あそこは・・・たしか、生徒会役員室。
私は躊躇なく、扉を開く。
机を挟んで向き合っている生徒会長と副会長。
同時に私の方へ振り返った。
学校へ来ているのね。
元日なのに。
”どうしたの?”
と、驚きながら私に尋ねる。
「えっと・・・あの・・・地震で友だちが」
生徒会長たちは私を招き入れ、話し合っていたことを教えてくれた。
それは自分たち、高山の高校生がいまできること。
そうか。そうよね。
生徒会も被災地の高校生たちと交流があったんだ。
「今すぐ連絡をとりたい」
「できないなら、助けにいきたい」
「それも難しいなら、救援物資を届けたい」
「義援金も送りたい」
我を忘れて矢継ぎ早に問いかける私。
生徒会長は冷静にわかりやすく説明してくれた。
いまは現地の状況をメディアやネットから収集している。
安否の確認は、信頼できる現地の自治体が発表するSNSを確認してから。
無闇にチャットや電話で連絡をとると回線が集中して、よけいにつながりにくくなる。
救援物資の持ち込みは、緊急車両の通行や救援物資を運ぶ物流の妨げになる。
救援物資はまとめないと、仕分けの手間で被災地の負担が増える。
義援金もバラバラと送るのではなく、地域でまとめてから送る。
確かにそうだ。
私、動転して、大変な状況の友だちに、より迷惑をかけるところだった。
じゃあ、これから私ができることは?
こんなとき、ゲームのキャラなら、魔法のアイテムですぐに助けにいけるのに。
この日、私は生徒会長、副会長と3人で夜まで話し合った。
同時に国や自治体のSNSで最新情報をまとめる。
被害が大きかったのは、湾岸部。
ピリカの住んでいる町のあたりだ・・・
インフラも寸断されている。
通信が途絶えてたら、安否確認のしようがない。
ピリカ、お願い。
無事でいて。
生徒会長たちも、交流のある被災地の生徒会役員たちと連絡がつかないようだ。
じゃあ、うちの学校のサイトに災害時用のチャットを開設したら?
すぐに2人から却下。
ネット回線が遮断されたエリアに対して、ネット上の連絡方法は意味がない。
時間と手間をかけてページを作るより、つながりやすいSNSを使った方がいい。
その通りだ。
救援物資については、SNSに挙がっている要望を参考にした。
水。賞味期限の長い食料。調味料。コーヒー。タオル。ストッキング。生理用品。漫画。
ただ、SNSの情報も出どころをしっかりチェックしないと。
フェイクに騙されないように。
物資を適当に送ってしまうのもNG。
学生LINEの緊急連絡網から告知をして被災地に向けて物資を集めることを伝える。
個人では絶対に送らない。被災地方面への宅配、郵送は極力使わない。
集める場所は学校の生徒会役員室。
物流は使わず、自分で持ってくる。
集めた物資は1週間かけて、生徒会役員が仕分けする。
仕分けマニュアルは生徒会で作成した。
こうして、私の人生で一番長い1週間が始まった。
私は自分の家の水や食料をひとつずつ調べる。
なるべく賞味期限の長いものを選ぶ。
調味料やコーヒーや生理用品も。
パパもママもちゃんと協力してくれた。
漫画は山ほどあるから、自分が気に入っているものから出していく。
私、漫画についてはちょっとうるさいから。
私がいい!と思った作品はみんなにも喜んでもらえるはず。
学生LINEの緊急連絡網とは別に、Q&AのグループLINEも作った。
細かい質問はここで受け付け、緊急連絡網が混乱しないようにしなきゃ。
4日後。
三が日が明けると、生徒会役員室には救援物資が続々と集まってきた。
大量の水。よし、賞味期限は長い。
漬物。そうだ、高山は保存食の宝庫だった。しかもみんな美味しい。
お湯のいらないインスタント食品。へえ、こんなのがあるんだ。
調味料は、えごま油。こうじ味噌。醤油。地酒。酒蔵の多い高山だもんね。
コーヒー、ストッキング、生理用品、漫画もいっぱい。
お、フリーレンの全12巻も。私まだ読んでないんだよな。
みんなが持ってくる物資を、それぞれ仕分けしてまとめていく。
物資にはひとつひとつ心のこもった短い手紙がついていた。
手紙のない物資には私が書き足す。
私は生徒会役員を手伝って、仕分けした物資を大きなダンボールにまとめる。
その上に大きな文字で、「水」「食料」「タオル」と書いていく。
生徒会長は、北へ向かう物流トラック網を入念に調べる。
すごいな。
え?生徒会長の卒業課題は、物流2024年問題?なるほどねえ。
積荷に少しでも余裕のあるトラックを探し出している。
本来なら高山から被災地まで4時間かからない距離なんだけど。
仕分けをしながら、私は心の中で祈る。
ピリカ、お願い。
無事でいて。
1週間後。
仕分けを終えた救援物資を、被災地への物流ラインにやっと乗せてもらうことができた。
宛先は被災地のある県の自治体。
やりとりは電子申請で。
県が指定する配送拠点がたまたま高山にあったのも幸いした。
トラックを見送る私に生徒会長が声をかける。
”おつかれさま、がんばったね。ありがとう”
体の力が抜けていく。じわっと瞳が潤む。
いや、これで終わったわけじゃない。
私の周り、事態はなにも変わっていない。
ピリカ、お願い。
無事でいて。
私は何気なく、スマホをとりだしオンラインゲームを開いた。
チャットの通知が1件入っている。
え?
『連絡ありがと』
『いま避難所だけど、なんとか無事だよ』
『高山も揺れたでしょ。大丈夫だった?』
まぎれもなく、ピリカだ。
「なに言ってんの。こっちのことよりも自分でしょ」
速攻で返信した。
ほかのフレンドたちからも、いっぱい激励のチャットが入ってる。
返信もリアタイでかえってきた。
『落ち着いたらまたゲームしよ』
「そんなことより体調は?風邪ひいてない」
『大丈夫。寒いけど』
「さっき使い捨てのカイロ、大量に物流トラックで運んでもらったから」
『ありがとう。ようし、ではピリカ、BK!back!』
フレンドたちから『WB=Welcome back』のチャットがあふれだす。
「ついでにピリカの好きな葬送のフリーレンも全話送ったからね」
『生き返るわー』
「笑」『笑』
「笑」の文字がチャットボックスを埋め尽くしていった。