ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「紅影参上」


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飛騨高山の街には、時代を超えて語られる伝説がある。
木々に囲まれたこの地には、飛騨の匠と呼ばれる技術者たちが住み、歴史の流れに沿って幾多の名工を輩出してきた。しかし、その影にもう一つの顔があったことを知る者は少ない。

かつて飛騨の山々を駆け巡った忍びの一族――影一族。
彼らは歴史の裏で動き続け、時の権力者のもとでその技を振るってきた。金森長近が築いた高山城にも、影一族の手が加わっていたと囁かれる。

そして、時は流れ現代へ。

かつての影は姿を消したかに見えたが、高山の匠たちの手によって創られたアートの中に、その魂は受け継がれている。声優であり、木工アーティストとして活動する桑木栄美里。彼女の作品は、ただのアートではない。それは時代を超えた歴史の鍵となるものだった。

だが、それを狙う者たちがいた――。

飛騨高山を舞台に繰り広げられる、忍びと匠の物語(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

[シーン1:戦国時代のモノローグ】

■SE/馬の蹄の音

豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎と呼ばれていた頃、

飛騨には戦国時代から続く「影」一族という忍者集団がいた。

彼らは、

伊賀・甲賀とともに、忍者を重用した木下藤吉郎に仕え、

独自の文化を作っていった。

影一族の表の顔は、飛騨の伝統的な木工技術者「匠」。

金森長近が秀吉の命で飛騨に赴いたとき、

彼らは高山城の建設にも関わった。

その後、

江戸幕府、明治政府、と政権は変わるたび

その裏には常に影一族の暗躍があったと言われている。

[シーン2:HitsFMのスタジオ】

■SE/「ごきげん カバラジオ」タイトルコール

『かば ゆうすけ の ごきげん カバ ラジオ!

今日は素敵なゲストをお迎えしています!

声優の桑木栄美里さんです!』

『おはにちばんは!桑木栄美里です!』

『今日はよろしくお願いします!』

私は、声優でありながら

”飛騨の匠”=木工アーティストとしても活動する桑木栄美里。

さらに、もうひとつ裏の名前も持っている

その名は、紅影。

そう、飛騨忍者『影一族』のくの一なのである。

影一族は、政府直轄の組織『SHINOBI』に所属する飛騨の忍者集団。

今日は、SHINOBIの命である人物を探っていた。

高山で活躍中のデザイナー、かばゆうすけ。

ここHitsFMで番組を持つ人気ナビゲーターだ。

しかしてその実態は・・

美術品専門の犯罪組織『ゴーアヘッド・ブランシュ』の影のリーダー!

と、SHINOBIは睨んでいる。

私が今日ゲストで招かれたのも、

かばゆうすけの実態を探るためだ。

『栄美里さんは、声優であると同時にアーティストでもあるんですね』

『はい、高山市内にアトリエを持っています』

『いまバズってるものがあるとか』

『金森長近公の生誕500年を記念して、

1/100スケールで作った高山城ですね』

『どうして高山城を作ろうと思ったんですか?』

『当時、城を中心に飛騨の人たちがどんな生活をしてたのか。

すっごく興味があって、それでまず城の復刻をしてみたかったんです』

『もう少し詳しく教えてください』

お、さっそくジャブを打ってきたな。

いま、私が作った木工アート、1/100スケールの高山城は、

飛騨高山まちの博物館で展示されている。

『どんなところにこだわったんですか?』

『そうですねぇ、一番時間をかけたのは、本丸と二の丸の再現ですね。

当時の匠たちが使用した木材と建築技術を忠実に再現して、

当時の柱や梁、瓦屋根の細部まで作りました。

木材の質感や組み方は、飛騨の伝統技法「寄木(よせぎ)細工」や

「墨付け」と呼ばれる技術を使用しています」

『すごすぎますね!

なんか聞いた話だと、技術的な部分だけじゃなく、ペルソナも考えたとか』

『はい。

当時の匠たちがどのように生活し、どのように城の建築に関わったか。

そんなエピソードも考えながら、ジオラマで表現しました』

『そんな素晴らしい作品だと、時価にするとすごい金額でしょうね』

おっと、いきなり本丸に攻め込んできたな。

こんな答えだとどう切り返してくる?

『売り物ではないですから。

あ、でも、まあ、あえて換算すると1億円くらいかな』

『い、一億!?』

『コレクター向けのオークションだともっといくでしょうね。

2億とか3億とか』

『いやあ、すごいなあ』

『でも、いま言ったように非売品ですから。

コレクターがいくら積もうとも、手にすることは不可能ですわ』

『なるほど。

それにしても、栄美里さんのアートって、どうしてこんなに人気なんですか?』

ふふ。そろそろ、最後の撒き餌を巻いてみるか。

『実は、特別な仕掛けが・・』

『え?特別な仕掛け!?』

『あ、いえ。なんでもありません。

忘れてください』

『特別な仕掛けってなんですか?』

よしよし、食いついてきたな。

ここは適当にごまかしながら、あとは敵の動きを待つとするか。

番組終了後、インスタ用に

かばゆうすけと2ショットの写真を撮る。

それを「影送りの術」を使って仲間に送った。

スタジオの外には、編成部長の名を借りた影一族の長(おさ)

白影こと宮ノ下浩一がスタンバイしている。

白影ともにこやかに握手をして、かばゆうすけはスタジオをあとにした。

[シーン3:飛騨高山まちの博物館】

■SE/夜イメージの環境音(虫の声やフクロウの声)

その夜。

飛騨高山まちの博物館。

特別展示室。金森長近特別展。

強化ガラスで覆われた私の作品、1/100スケールの高山城。

美術品窃盗団に餌を投げ、誘き出した。

あとは私と白影が張り巡らせた罠で、一網打尽にする。

隠れ身の術で壁と同化した白影と私の前に

ゆっくりとシルエットが近づいてきた。

警報が鳴らない。

まあ当然、そのくらいのことは想定内だが。

少しずつ伸びる影。

あのシルエットは・・

かばゆうすけじゃない。

撒菱の床の上。

一歩足を踏み入れたとき、私は手裏剣を投げる。

命中。

ん?

なぜ動じない?

防弾スーツか?

突如赤外線センサーが私と白影の姿を浮き上がらせる。

しまった!

まわりから数人の窃盗団が現れ、私たちの逃げ道を封じた。

やつら、我々より先にここにいたというのか!?

まるで草のように。

どうやら罠にかかったのは、我々の方らしい。

彼らは素早く動き、私たちの身動きを封じようとした。

白影が撒菱を撒き、私は手裏剣を投げて抵抗したが、数が多すぎる。

もはやこれまで。

その時だった。

突然、我々を取り囲んだ窃盗団が1人ずつ床にくずれる。

なに?

強い風が吹き抜けたかのように、窃盗団が薙ぎ倒されると。

後ろに立っているのは、手裏剣を手にした黒装束の集団。

その中から全身黒づくめのかばゆうすけが現れた。

『遅くなってごめんね』

え?

『まさか、ゴーアヘッド・アッシュって忍者集団だったの?』

『影一族とは別の系譜だが・・』

かばゆうすけが説明する。

影一族は、幕府、政府直属の忍者集団。

だが飛騨には、政府に属しないもうひとつの忍者集団があった。

彼らはゴーアヘッド・アッシュとして、

飛騨の文化財やアートを守ってきたという。

『さあ、仕上げをしよう』

『仕上げ?』

『窃盗団の元締めをつかまえないと』

『そうだな』

『行くぞ!』

『わかった!』

スタジオでの笑顔は消え、精悍な表情。

固く握手を交わした我ら3人は美術館をあとにする。

街灯のあかりが3つの影をつないでいた・・・

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ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会