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2050年の未来を舞台にしたフィクションですが、決して荒唐無稽な話ではありません。地球温暖化の影響が顕著になり、雪が消えた高山(TAKAYAMA)で、かつての冬を取り戻そうとする人々の姿を描いています。SFでありながら、どこかリアルな未来が感じられるように執筆しました。
また、この作品はボイスドラマ化 もされており、音声と共に物語の世界を楽しんでいただけます!
番組「Hit’s Me Up!」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでお聴きいただけますので、ぜひチェックしてみてください。音で感じる未来の高山、きっと新しい体験になるはずです。
それでは、2050年のメトロポリスTAKAYAMAへ、一緒に旅をしましょう(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
■SE/吹雪の音
「がんばって!もう少しで頂上よ!」
「雪で前が見えない!」
「なに言ってんの!やっとここまでたどり着いたのに!」
「わかった!がんばってみる!」
「ほら、晴れ間が見えてきたわ」
「わあ・・・」
「どう、これが霧氷よ」
「すごい・・・キレイだ」
「霧氷も樹氷も、氷点下の芸術ね」
「はあ〜」
ため息が出るほどの美しさ。
言葉を失うほどの絶景を十分堪能してから、
私たちはサングラスのトリガースイッチを押した。
とたんに、目の前の風景は、吹雪から青空に変わり、
ダウンジャケットを着ていると汗ばんでくる。
私たちが装着していたウェラブルデバイスは、AR+VR=MR対応のモデル。
2050年の今では、クラシカルな装備としてマニアに人気のグッズだ。
サングラスで視覚を、マスクで臭覚、ジャケットで体感温度と風圧を感じることができる。
「これが現実か・・・」
「そうよ。雪化粧しない飛騨の冬山」
ここは、メトロポリスTAKAYAMAの猪臥山(いぶしやま)。
かつて『卯の花街道』と呼ばれる県道が走り、人気の冬山登山ルートだった。
今や卯の花は春を待たずに開花する。
いま、主要な交通機関は車よりエアカー。人を乗せるドローンだ。
思えば2050年ともなると、TAKAYAMAも変わった。
かつてJRと呼ばれた鉄道網には線路の下に光回線が張り巡らされている。
北陸と名古屋を結ぶ高山本線は結局電化されなかったが、
水素をメインエネルギーにする電道客車が無人で走る。
駅舎も地下になった。
かつての高山駅前は広場となり、子どもたちが遊んでいる。
「この子たちは雪を知らないんだな・・・」
「うん。スノーレスチャイルド」
「SLCか。悲しい話だ・・・」
彼は、メガロポリス『J』=かつて日本と呼ばれた国の、
環境保全機関JWFで働くアナリスト。
(※注釈:JWF=Japan Wildlife Fund/造語 by D)
私はそのJWFの環境アドバイザーだ。
2050年現在、地球温暖化は危険領域に突入し、夏の気温は47度を超える。
国同士のくだらない争いに割いている時間など、とうになくなっていた。
愚にもつかない紛争よりも、人類絶滅を防ぐ課題が最優先だ。
国という概念は消えて、コスモポリスという枠の中にかつての”国たち”が所属する。
そのなかにメガロポリス『J』というカテゴリーがあり、
その中心がメトロポリス。古い言葉で言うと『首都』?
そんな感じ。
『J』の首都は、TOKYOではなく、TAKAYAMAだ。
理由は明確。日本、つまり『J』の中心に位置するから。
地球温暖化による海面上昇で、どこのメガロポリスも国土が消失しかけている。
太平洋プレートとフィリピン海プレートに挟まれた『J』は
隆起していっているのでまだ大丈夫だが。
メガロポリス『A』のニューヨークなど、あと35年で水没すると予想されている。
そういえば、私が生まれる前、日本沈没というアニメがあったなあ。
(※注釈:Netflixアニメ映画『日本沈没2020』監督:湯浅政明)
説明がだらだらと長くなってしまったが、言いたいことを簡潔に話そう。
私がJWFから相談されたのは、『TAKAYAMAに雪を降らせる計画』。
かつて雪国だったTAKAYAMAの住民の半数以上が、雪を知らないのだ。
なんとか、粉雪を復活させようと私毎週この山に登ってプランニングしている。
30年前の温暖化対策。
かつてここが日本と呼ばれたころ、国家機関はいろいろ考えたらしい。
カーボンニュートラル、プラスチックフリー、RE100・・・
(※注釈:『RE100 プロジェクト 』=事業運営に必要なエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とした指標。Renewable Energy 100%)
SDGsを唱え、いろんな造語を作ってがんばった結果、意識だけは浸透した。
だが、結果がついてこなかった。
結局日本だけでも気温は上昇を続け、スキー場からも雪が消えた。
環境保護を理解している今の国民たちに対して、
私には、視覚的にクールダウンを訴えたい、という思いもある。
そこで私が提案したのは、「クラウド・シーディング」。
人工的に雪雲を作り、雪を降らせるプロジェクトだ。
理論は決して難しくはない。
実験室の中ではすでに成功している。
だが、暖かい空気の中でピンポイントに雪を降らせても仕方ない。
メガロポリス『J』全体にクールダウンするための仕掛けを作る。
具体的に説明していると番組が終わってしまうのでここでは割愛するが。
「CO2フリー」とか「クールチョイス」とかで検索してみてほしい。
「クラウド・シーディング」には莫大な予算がかかるので、
私はメガロポリスが運営するJWFにプレゼンする。
それでも、きっと予算は足りないだろうから、あとは「クラウドファンディング」か。
いや、ダジャレではない。
そんなことを言うと「お前、令和か」って言われるからな。
とにかく、雪を見たことのない子どもたち”SLC”に雪を感じてほしい。
あ、SLCというのは、Snowless Childrenの略ね。
ということで、計画の名前は、”クラウド・シーデイング〜天気の子どもたち”。
これは私が命名した。昔、ヒットしたアニメ映画をリスペクトして決めたのだ。
ある日、彼からビジネスLINEが入った。
え?2050年にもLINEはあるのかって?
もちろんあるよ。
ただ、昔と違ってスマホなんていう邪魔なデバイスはないけどね。
今は、肩に埋め込んだチップか、スマートウォッチか、スマートグラスが端末の代わりだ。
えっと・・・
お、プレゼンが通ったって?
『J』本体から予算がおりたんだ。
ようし、何年かかるかわからないけど、子どもたちに粉雪をプレゼントしよう!
■SE/粉雪の音
結局、計画が完遂するまでに30年かかった。
2080年。メトロポリスのニューヨークはほとんど水没してしまったが、
ここTAKAYAMAには、冬になるとわずかだが、粉雪が舞う。
白い息を吐いて、子どもたちがはしゃぎまわる。
その横で、震えながら手袋を擦り合わせるお父さん。
地球温暖化は世界全体。コスモポリス単位で考える課題だ。
『J』のTAKAYAMAだけがクールダウンできればいいという話ではない。
でも、”クラウド・シーデイング〜天気の子どもたち”は、確実に街を変えた。
きっと、このTAKAYAMAから世界へ、コスモポリスへ向けて、
メッセージは届くだろう。
お父さんの手をひいた子どもがこちらへ振り返る。
「ママ〜!ママも一緒に雪遊びしようよ」
「いいわよ、雪合戦しようか」
「雪合戦?なにそれ?」
「いいからいいから、そらっ」
「わ、冷たい!パパ、ママをやっつけて」
アンチエイジングが飛躍的に進んだおかげで、私の肌年齢は30年前と変わらない。
当たり前となった高齢出産ケアは、当たり前のようにこの年で子どもが授かる。
■SE/雪玉が顔に当たる音「バシャ」
「つめたーい!やったな。この〜」
「わーママこわーい」
時代は変わっても親子の絆は変わらない。
粉雪の中で遊ぶ家族の形も、100年前から変わっていないだろう。
雪国TAKAYAMA。持続させなければいけないのは、このスピリッツだ。
2050年の未来を舞台にしたフィクションですが、決して荒唐無稽な話ではありません。地球温暖化の影響が顕著になり、雪が消えた高山(TAKAYAMA)で、かつての冬を取り戻そうとする人々の姿を描いています。SFでありながら、どこかリアルな未来が感じられるように執筆しました。
また、この作品はボイスドラマ化 もされており、音声と共に物語の世界を楽しんでいただけます!
番組「Hit’s Me Up!」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでお聴きいただけますので、ぜひチェックしてみてください。音で感じる未来の高山、きっと新しい体験になるはずです。
それでは、2050年のメトロポリスTAKAYAMAへ、一緒に旅をしましょう(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
■SE/吹雪の音
「がんばって!もう少しで頂上よ!」
「雪で前が見えない!」
「なに言ってんの!やっとここまでたどり着いたのに!」
「わかった!がんばってみる!」
「ほら、晴れ間が見えてきたわ」
「わあ・・・」
「どう、これが霧氷よ」
「すごい・・・キレイだ」
「霧氷も樹氷も、氷点下の芸術ね」
「はあ〜」
ため息が出るほどの美しさ。
言葉を失うほどの絶景を十分堪能してから、
私たちはサングラスのトリガースイッチを押した。
とたんに、目の前の風景は、吹雪から青空に変わり、
ダウンジャケットを着ていると汗ばんでくる。
私たちが装着していたウェラブルデバイスは、AR+VR=MR対応のモデル。
2050年の今では、クラシカルな装備としてマニアに人気のグッズだ。
サングラスで視覚を、マスクで臭覚、ジャケットで体感温度と風圧を感じることができる。
「これが現実か・・・」
「そうよ。雪化粧しない飛騨の冬山」
ここは、メトロポリスTAKAYAMAの猪臥山(いぶしやま)。
かつて『卯の花街道』と呼ばれる県道が走り、人気の冬山登山ルートだった。
今や卯の花は春を待たずに開花する。
いま、主要な交通機関は車よりエアカー。人を乗せるドローンだ。
思えば2050年ともなると、TAKAYAMAも変わった。
かつてJRと呼ばれた鉄道網には線路の下に光回線が張り巡らされている。
北陸と名古屋を結ぶ高山本線は結局電化されなかったが、
水素をメインエネルギーにする電道客車が無人で走る。
駅舎も地下になった。
かつての高山駅前は広場となり、子どもたちが遊んでいる。
「この子たちは雪を知らないんだな・・・」
「うん。スノーレスチャイルド」
「SLCか。悲しい話だ・・・」
彼は、メガロポリス『J』=かつて日本と呼ばれた国の、
環境保全機関JWFで働くアナリスト。
(※注釈:JWF=Japan Wildlife Fund/造語 by D)
私はそのJWFの環境アドバイザーだ。
2050年現在、地球温暖化は危険領域に突入し、夏の気温は47度を超える。
国同士のくだらない争いに割いている時間など、とうになくなっていた。
愚にもつかない紛争よりも、人類絶滅を防ぐ課題が最優先だ。
国という概念は消えて、コスモポリスという枠の中にかつての”国たち”が所属する。
そのなかにメガロポリス『J』というカテゴリーがあり、
その中心がメトロポリス。古い言葉で言うと『首都』?
そんな感じ。
『J』の首都は、TOKYOではなく、TAKAYAMAだ。
理由は明確。日本、つまり『J』の中心に位置するから。
地球温暖化による海面上昇で、どこのメガロポリスも国土が消失しかけている。
太平洋プレートとフィリピン海プレートに挟まれた『J』は
隆起していっているのでまだ大丈夫だが。
メガロポリス『A』のニューヨークなど、あと35年で水没すると予想されている。
そういえば、私が生まれる前、日本沈没というアニメがあったなあ。
(※注釈:Netflixアニメ映画『日本沈没2020』監督:湯浅政明)
説明がだらだらと長くなってしまったが、言いたいことを簡潔に話そう。
私がJWFから相談されたのは、『TAKAYAMAに雪を降らせる計画』。
かつて雪国だったTAKAYAMAの住民の半数以上が、雪を知らないのだ。
なんとか、粉雪を復活させようと私毎週この山に登ってプランニングしている。
30年前の温暖化対策。
かつてここが日本と呼ばれたころ、国家機関はいろいろ考えたらしい。
カーボンニュートラル、プラスチックフリー、RE100・・・
(※注釈:『RE100 プロジェクト 』=事業運営に必要なエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とした指標。Renewable Energy 100%)
SDGsを唱え、いろんな造語を作ってがんばった結果、意識だけは浸透した。
だが、結果がついてこなかった。
結局日本だけでも気温は上昇を続け、スキー場からも雪が消えた。
環境保護を理解している今の国民たちに対して、
私には、視覚的にクールダウンを訴えたい、という思いもある。
そこで私が提案したのは、「クラウド・シーディング」。
人工的に雪雲を作り、雪を降らせるプロジェクトだ。
理論は決して難しくはない。
実験室の中ではすでに成功している。
だが、暖かい空気の中でピンポイントに雪を降らせても仕方ない。
メガロポリス『J』全体にクールダウンするための仕掛けを作る。
具体的に説明していると番組が終わってしまうのでここでは割愛するが。
「CO2フリー」とか「クールチョイス」とかで検索してみてほしい。
「クラウド・シーディング」には莫大な予算がかかるので、
私はメガロポリスが運営するJWFにプレゼンする。
それでも、きっと予算は足りないだろうから、あとは「クラウドファンディング」か。
いや、ダジャレではない。
そんなことを言うと「お前、令和か」って言われるからな。
とにかく、雪を見たことのない子どもたち”SLC”に雪を感じてほしい。
あ、SLCというのは、Snowless Childrenの略ね。
ということで、計画の名前は、”クラウド・シーデイング〜天気の子どもたち”。
これは私が命名した。昔、ヒットしたアニメ映画をリスペクトして決めたのだ。
ある日、彼からビジネスLINEが入った。
え?2050年にもLINEはあるのかって?
もちろんあるよ。
ただ、昔と違ってスマホなんていう邪魔なデバイスはないけどね。
今は、肩に埋め込んだチップか、スマートウォッチか、スマートグラスが端末の代わりだ。
えっと・・・
お、プレゼンが通ったって?
『J』本体から予算がおりたんだ。
ようし、何年かかるかわからないけど、子どもたちに粉雪をプレゼントしよう!
■SE/粉雪の音
結局、計画が完遂するまでに30年かかった。
2080年。メトロポリスのニューヨークはほとんど水没してしまったが、
ここTAKAYAMAには、冬になるとわずかだが、粉雪が舞う。
白い息を吐いて、子どもたちがはしゃぎまわる。
その横で、震えながら手袋を擦り合わせるお父さん。
地球温暖化は世界全体。コスモポリス単位で考える課題だ。
『J』のTAKAYAMAだけがクールダウンできればいいという話ではない。
でも、”クラウド・シーデイング〜天気の子どもたち”は、確実に街を変えた。
きっと、このTAKAYAMAから世界へ、コスモポリスへ向けて、
メッセージは届くだろう。
お父さんの手をひいた子どもがこちらへ振り返る。
「ママ〜!ママも一緒に雪遊びしようよ」
「いいわよ、雪合戦しようか」
「雪合戦?なにそれ?」
「いいからいいから、そらっ」
「わ、冷たい!パパ、ママをやっつけて」
アンチエイジングが飛躍的に進んだおかげで、私の肌年齢は30年前と変わらない。
当たり前となった高齢出産ケアは、当たり前のようにこの年で子どもが授かる。
■SE/雪玉が顔に当たる音「バシャ」
「つめたーい!やったな。この〜」
「わーママこわーい」
時代は変わっても親子の絆は変わらない。
粉雪の中で遊ぶ家族の形も、100年前から変わっていないだろう。
雪国TAKAYAMA。持続させなければいけないのは、このスピリッツだ。