ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「フライムーン〜魂の眠る山」


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飛騨高山の歴史や伝承をもとに構築した幻想的な世界と、『葬送のフリーレン』 にインスパイアされた物語。
北欧神話と飛騨高山の伝説が交錯し、不老のエルフが「魂の眠る山」を求めて旅をする—

「エルフにとっての”死”とは何なのか?」
「人間と共に生きることで、何を見出すのか?」
「”魂の眠る山”とは、本当に存在するのか?」

エルミアというエルフが"時の流れ" をどう受け入れるか、大切な人との別れと再会を通じて、何を見つけるのか(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

<『フライムーン〜魂の眠る山』>

■シーン1/異世界アルフヘイムで年老いた弟子を見送るエルフ・エルミア

■SE/荒れ狂う吹雪の音

「今までありがとうございました」

「もうしゃべらなくていいよ、フローラ」

「エルミアさまと会えて幸せでした」

■BGM/inferno-of-glory-347306543.wav

大切な人がまた逝ってしまう。

たった70年前は、こんな小さな少女だったフローラ。

人間はどうしてこんなに早く年老いて、どうしてすぐに死んじゃうんだろう。

ずうっとそう思いながらもう何千年もの時を生きてきた。

■シーン2/異世界アルフヘイムに1人で暮らすエルミア

ここは、異世界アルフヘイム。

かつて、エルフがおおぜい住んでいた北欧神話の世界だ。

いまはエルフの私と、農民たちと鍛冶屋とパン屋といろんな人間たちが住んでいる。

私は、エルミア。

アルフヘイムに住む、たったひとりのエルフ。

エルミアというのは、エルフの言語=アルドリア語で『星の宝石』という意味を持つ。

翡翠の色をした瞳を見て、両親が名付けた。

私以外のエルフはみな、フライムーンを目指してアルフヘイムから出ていった。

フライムーンは、海の向こう、東の果てにあるという、”安息の地・魂の眠る山”。

不老不死というのは死が訪れないということ。

いつまでも生き続けるというのは、やがて苦痛となり、休息を求めはじめる。

アルフヘイムに住むエルフたちはひとり、またひとりと消えていった。

私には、その苦しみ・痛みがわからなかったから、

いまでもひとりで、ここアルフヘイムにいる。

ほかのエルフがいないのだから、友だちは必然的に人間。

恋をしたり、旅をしたり、悪いやつらと戦ったり、

人間とともにいろんな体験をしてきた。

だけどすべては瞬きをするほどの間。

人間は例外なく私より先に逝ってしまう。

200年くらい前からは弟子を1人だけとって、魔法を教えるようになった。

人間は短命だけど、その分短い時間で魔術を習得する。

私にとっての百年が彼らの一年くらいかな。

短いよ。

「ママ〜!」

フローラは70年前、突然このアルフヘイムに召喚されてきた。

なぜか血のついた上着をはおって。

泣いてばかりいるフローラを私は育て、魔法を教えた。

きっともともと筋がよかったのだろう。

フローラの魔法は、ほかの魔法使いたちを凌駕していく。

「エルミアさま、見てください」

ある日、フローラが私に覚えたての魔法を見せてくれた。

私が与えた杖を高く翳し、呪文をとなえる。

「フィア」「エジル」「リンナール」「ダゴール」「ドスタ」

あ、だめ。

「ハヴォ!」「ダド!」

慌てて魔法を強制終了させる。

フローラが見せた魔法は、『エルフの舞』。

北欧神話に由来する”滅びの呪文”だ。

それはこんな神話が元になっている。

霧深い夜、森が湖に出会う岸辺で、エルフが輪になって舞う。

それを見たものは、時間に囚われる。

ほんの少しの時間だけ、舞を見ていたつもりが

何十年もの歳月が流れていることに気づく。

みなひどく老いてしまった自分を嘆き、自らの命を絶ってしまう。

この神話のように

魔法使いは自分のアバターを何十体も作り出し、輪になって踊る。

有名な絵画『草原のエルフたち』のように。

それを見たものは時間の虜となり、死に至るのだ。

本当に頭のいい子。

私が封印していた技をいつの間にか習得していたんだ。

私はこの出来事以来、フローラの魔法を封じた。

私がフローラに教えるのは、

魔法の力=魔力を制御する方法に変わっていった。

だが、悲劇は突然やってくる。

私が仕事を頼まれて、北の国へ出かけていたとき、

予告もなく隣国が攻めてきたのだ。

留守番をしていたフローラは魔法は使わず、

必死で村人を森へ逃す。

だが、隣国の兵士がその森に火を放とうとした瞬間、

フローラの理性がふっとんだ。

兵士たちの前で表情を殺し『エルフの舞』を舞う。

効果はてきめん。

敵の兵士は目の前でどんどん老いていき、朽ち果てていく。

屍がアルフヘイムの森を埋めていった。

私が村へ戻ったとき、その光景を見て愕然とした。

「どんな理由があるにせよ、人が人を殺めるなんて」

「やらなきゃ、村人は全員殺されていました」

平然と言い放つフローラに驚き、私は彼女との縁を切った。

以来、彼女と絶縁していた時間は、60年。

私にしてみれば、ほんの短いひとときだ。

60年後。彼女から連絡が入った。

それは、60年前の謝罪。

私は受け入れた。そして彼女を訪ねる。

小さな家で年老いたフローラは病に伏せっていた。

「病気なんて魔術で治せばいいのに」

「エルミアさまから封じられていましたから」

「ああ、そうか。封印を解くね」

「必要ありません。これが人間の寿命なのです」

「早過ぎるよ」

「フライムーンでお会いできるのを楽しみにしています」

「魂の眠る山・・・」

「私の魂に会いにきてくだ・・さい・・・ね」

「フローラ・・・」

私はフローラを埋葬すると、アルフヘイムをあとにした。

■シーン3/飛騨高山の乗鞍連峰・剣ヶ峰に立つエルミア

海を渡る魔法を使って、世界をまたぎ、たどり着いたのは、吹雪の中。

乗鞍連峰・剣ヶ峰の頂上だ。

アルフヘイムの吹雪ほど、厳しくないな。

私、寒がりだからちょうどいいや。

でもここあんまり”安息の地”とか”魂の眠る山”っぽくないなあ。

そう、私はフローラと最後に約束した、フライムーンを訪ねてきたんだ。

フライムーン。

その名の由来は”飛びあがれば月に手が届くような高い山”。

あ、”飛騨高山”って名前にも通じるじゃん。

高い山が連なる乗鞍岳(のりくらだけ)。

その中の最高峰は、剣ヶ峰である。

ひととおり、頂上周辺を探索したあと、ゆっくりと麓の方へ降りていく。

なんか、ヘンな匂い・・・

卵が腐ったような・・・

なんだろう・・・

わ、びっくりした。

この辺一帯、岩の間から蒸気が湧き出してる。

まるで、冥府のようだ。

私は、森の中へ入り、麓から『魂の眠る山』を探る。

魔法の痕跡を見つけようとうろうろしながらさらに深い森へ足を踏み入れると、

「あっ」

少しだけ開けた木々の間、あたり一面に白い小さな花が咲き乱れている。

星のように、5つの白い花びらと黄色い花弁。

匂いを嗅いでみると、少しだけキュウリやセロリのような青っぽい香りがする。

あれ。

なんか、ちょっとだけ、頭がクラクラしてきた。

ゆっくりあとずさり、後ろを振り返ると、

なんだろう。

石が積まれている。

そこに刻まれた文字を見て、愕然とした。

それはこの国のものではなく、エルフの文字=アルドリア語で書かれてある。

これって・・・エルフのお墓だ。

みんな、ここで眠っているってこと?

でも、どうして?

待って。

さっきの花・・・

あの香りは、アルカロイドじゃない?

ってことは、あの花は、ニリンソウ。

毒の効かない私たちエルフにとって、最強の猛毒草。

トリカブトの毒などまったく効かないというのに

昔からニリンソウだけはエルフの天敵と言われている。

とはいえ、アルフヘイムを含め、私たちの世界にはニリンソウは存在していない。

だから不老不死なんだ。

この高山、奥飛騨温泉郷平湯温泉が『魂の眠る山』だったのね。

私はもう一度、エルフのお墓の前に戻る。

石碑には、昔から知っている名前が並んでいた。

その一番下の列に・・・

フローラ!?

どうして?

フローラもここに来たの?

そうだ。

ここは『魂の眠る山』。

魂となった仲間と話せる場所のはず。

フローラを思い、石碑に向かって、魂を呼び出す魔法をかける。

「エルミアさま」

「フローラ」

「お会いできてうれしいです」

「フローラもここに来たの?」

「はい」

「でもどうやって?」

「アルフヘイムで魂の灯火が消える瞬間に、思い出したんです」

「なにを?」

「私がアルフヘイムに召喚されたわけを」

「どういうこと?」

「召喚されたとき、私は5歳でした。

この山へ母と一緒にハイキングに来ていました。

そのとき、崖崩れにあって母とともにこの崖から落ちていくところだったんです」

「そうなの」

「私はその瞬間の自分となって呼び戻されました」

「70年前に?」

「そうです。エルミア様から魔法の制限を解除されたから、

5歳の私は魔法で母と自分を救うことができたんです」

「だから」

「はい。それから70年。ここ高山市平湯で母と2人幸せに暮らせました。

ありがとうございます」

「いや、私じゃないし」

「いえ、エルミア様のおかげです」

「そうかなあ」

「きっとエルミア様は会いにきてくれると信じていました」

「きたけど」

「ニリンソウなんて食べずに、温泉に入って美味しい料理を食べていってください」

「私の魂は・・・」

「まだまだ必要としている人がいっぱいいます」

「たしかにね」

「未来永劫、エルミア様はエルミア様のままでいて下さい」

「わかったよ」

フローラの姿は、どこからか立ちのぼる湯煙に消されていった。

温泉で、魂の休息をするってのも悪くないなあ。

ありがとう、フローラ。

ヒンメルにも会いたいな・・

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ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会