ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「金庫破り」


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ボイスドラマ『金庫破り』は、高山市を舞台に、オー・ヘンリーの名作をベースにしたサスペンスドラマです。

天才ブラックハッカーとホワイトハッカーの追走劇、そして予想もつかない愛の行方。
最先端のサイバー技術とクラシックな金庫破りの技術が交差し、スリリングな展開を繰り広げます。

果たして主人公は"過去"と"未来"、どちらを選ぶのか――?
そして、高山の街並みが、この物語にどんな彩りを添えるのか(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

■SE/高山駅前の雑踏〜足音

「ここが高山か。(※ブルブルっとして)冷えるなあ」

初めて降り立った高山駅。

改札を出て、左手に曲がると、コンコースは匠通り?

・・・祭りの屋台や飛騨の匠の木工品が展示してあるんだな。

面白い。

高山を選んだ俺の勘、結構冴えてるんじゃないか。

俺?

俺は天才ブラックハッカー。

人は『金庫破り』と呼ぶ。

いや、実際に銀行に忍び込んで金庫破りをするわけじゃないぞ。

ほら、天才ブラックハッカーと言っただろ。

大金持ちの銀行口座に侵入して

ほんの少しだけ、お裾分けをしてもらってるのさ。

言っておくが、相手は真面目に働いている人間ではない。

人が一生懸命貯めた金を奪うようなことは、流儀に反する。

なんとなくわかんないか?

TVとかネットを見てると、いるだろ。

国民の税金を懐へ入れてしまうようなやつ。

それに反社会的なやり方で金を溜め込んでいる団体。

そういうやつらの口座からちょいと拝借してやるんだよ。

ただ、東京-名古屋-大阪と銀行口座を荒らしまくったからなあ。

最近は、内閣サイバーセキュリティセンター=NISCから目をつけられちまって。

なんてったっけな。

ええっと・・・

そうそう。ブライス。

ブライスとかいうホワイトハッカーから執拗に追いかけられてるんだ。

なに?

ハッカーなのに、リアルに銀行行く必要があるのかって?

ふふん。

それも俺流の仁義なんだよ。

銀行に行かないとわからないことがあるだろ。

どんな銀行員がいて、どうやって働いているのか。

そいつらがみんな真面目で感じいいやつだったとする。

なのにもしオレがハッキングしたせいで、彼らが責任とることになったら

後味が悪いじゃねえか。

ん?ああ、大丈夫だ。

メガネをはめてウィッグをかぶれば、絶対にバレないよ。

いや、そうでもないか。

どうして俺が現場にいると思ったんだろうな。

ブライスは銀行の監視カメラを徹底的に調べて

俺のアバターをモンタージュしやがった。

やりにくいったらねえぜ。

だから今は、

3Dプリンターで薄い皮膚を作り、まるでルパン三世のように変装している。

やっぱり、口髭は似合わんな。

パソコンも専用ケースではなくチタン製のアタッシュケースに入れた。

こんなごっついケースにパソコンだけが入っているとは思うまい。

パソコンはいわば俺の七つ道具。

スリムなボディに特注の24コアCPU。64GBのメモリ。8TBのSSDストレージ。

ハッキングした口座からのダウンロードなど一瞬で可能だ。

おっと、前置きが長くなっちまったな。

急がないとな。

地方銀行とはいえ、閉店ギリギリに行ったりすると顔を覚えられちまうからな。

『あ、ごめんなさい』

ん?

誰だ、あれ?

ぶつかりそうになりながら俺の横をすり抜けて銀行へ入っていきやがった。

おや、入っていったのは頭取室(とうとりしつ)?

大口のお得意様かな。

一通り、行内とキャッシュディスペンサーをチェックしてから

偽のIDで口座を作った。

今度の名前は・・・

スー・ヴァレンティン。

そのあとは変装を脱ぎ、いつものようにカフェでラテをオーダーする。

少々寒いが、コートの襟を立てて、日除けの下のテラス席へ。

通りの向こうで、銀行のシャッターが降りていく。

いい場所が確保できたな。

パソコンを開いて、ゆっくりと『金庫破り』に入るとするか。

どれどれ、預金者のリストは・・・

『やだ、ごめんなさい!』

先ほどと同じ声が、同じセリフを呟く。

顔をあげると・・・

予想通り、先ほどの女性が目の前に立ち尽くしている。

『私ったら、なんてことを・・・』

よく見ると、彼女が持っているトレイから俺のコートに

エスプレッソが流れ落ちている。

『ああ、どうしましょう・・・』

つぶらな瞳をうるませて彼女がうろたえる。

『はは。大丈夫ですよ。安物のダウンコートですから』

『そんな、いけませんわ・・・』

なおも食い下がる彼女。

俺は一瞬で、その瞳の光に射抜かれてしまったようだ。

見つめ合ったのは数秒間。

俺にとっては永遠のように長く感じられたのだが。

彼女がはっと気づいたように取り繕う。

『では、せめてお名前を・・・』

『スー。スー・ヴァレンティンと申します』

『私は、エミリ。エミリ・ハンプティです』

ハンプティ?

さきほどの銀行の頭取と同じ苗字だ。

ってことは・・・

それからというもの、エミリとは頻繁に会うようになった。

私が滞在先のホテルを教えたからだ。

私?

そうだ。彼女と知り合って私は生まれ変わった。

”俺”でも『金庫破り』でも本名でもなく、スー・ヴァレンティンとして。

彼女が銀行家の娘だと知ったからではない。

純粋にエミリを愛してしまったからだ。

生まれてこのかた感じたことのない感覚。

天使のような笑顔のために、私は金輪際悪事は働かないと誓った。

エミリは父である頭取に私を紹介する。

父親も心から喜んで、私のこと気に入ってくれたらしい。

私がシステムプログラマーだと言うと、銀行のシステム一切を私にまかせてくれた。

私は自分が今まで破ってきたファイアウォールをはるかに上回る

強固なセキュリティシステムを配備する。

3か月もあれば完成するだろう。

その頃、地方銀行にしては珍しく、最新式の金庫が納品された。

エミリの父は頭取の顔で、私にその説明をする。

電子式のナンバーロックシステムは五段階認証のセキュリティ。

さらに扉の部分には新案特許をとった工夫がほどこされていた。

閉めるときは自動でダイヤルが回り子供でも簡単に閉じられる。

しかし、開けることは容易ではない。

まず頑丈な鋼鉄のダイヤルが三列に並ぶ。

あらかじめ決まった時刻にそれを同時に回さないと開けられない。

時限式のクラシックなギミック。

なるほど。

ITを駆使してハッキングされるより、

こういうアナログ式のセキュリティの方が安心かもしれないな。

ほどなくして、彼女との結婚話が持ち上がった。

私に抗う理由などあるはずもなく、つつがなく日取りが決まっていく。

幸せの絶頂。

そんなさなかに、NISCのホワイトハッカー、ブライスが高山駅に降り立った。

もちろん、私にはそんなこと知る由もない。

結婚式を1週間前に控えたある日の午後。

私は、エミリと父、エミリの姉とその娘を連れて、市内のレストランで食事をしていた。

いつ食べても、A5フィレの飛騨牛は最高だ。

ほっぺが落ちる、とはまさにこのことだな。

そこへ、エミリの祖母があわてて飛び込んできた。

『たいへんなこと、しちゃった!』

『おばあちゃん、どうしたの!?』

『振込詐欺にひっかかっちゃったかもしれない!』

頭取が慌てて店を飛び出す。

私たちもそのあとを追う。

銀行に到着すると、報せを受けて警察官たちも窓口で聞き取りをしていた。

そのなかには・・・

ブライス。

そうか、NISCには容疑者を拘束する権利もあったんだな。

どうやら祖母が教えてしまったのは、口座番号らしい。

それにしても、頭取の母親が被害者になるとは。

『副頭取の名前で取り付け騒ぎがおこってるって』

『とにかく気が動転しちゃって』

『頭取の母親ともあろう人間がなんということを』

うろたえる祖母。

姪っ子が目にいっぱい涙をためている。

そうか、この娘はなにより祖母が大好きだって言ってたな。

口座を凍結すればなんとかなるのでは?

と思ったが、基幹システムから全預貯金データを確認すると・・・

なんということ!

銀行からすべての預貯金のデータが引きおろされている。

この手際の良さは・・・

かなり手足れの連中だな。

頭取の顔が青ざめる。

『パパ、どうするの?』

金庫にある現金で補填するしかないだろう、と頭取は答える。

『そんなことしたら銀行はどうなっちゃうの!?』

仕方ないよ、それが銀行の責任だから、と父親の顔で笑った。

そのまま、金庫室へ入っていく。

みな、その後へついていった。

頭取は金庫をあけて、現金を運び出す。

それを見ながら、自分を責め嗚咽する祖母。

専用の袋に入れて金庫から出てきた頭取と入れ替わりに

走り出したのは小さな姪っ子だった。

『おばあちゃんを泣かせちゃいや!』

そう言って、金庫の奥へ入っていく。

姪っ子を追いかけた姉は頭取とぶつかり金庫に倒れ込んだ。

2人の体重で、最新式の金庫の扉は無情にも閉じていく。

瞬きをする間に、ダイヤルが自動でまわった。

祖母は目を見開いて悲痛な叫びをあげる。

そのまま大声で叫びながら金庫へ体当たりした。

私は頭取の方へ向き直り冷静にたずねる。

『頭取、次に金庫が開く時間は?』

12時間後だ、と父は震えながら答えた。

絶望して泣き叫ぶ母親。

金庫室を覗き込んでいるブライスが自分のパソコンで

システムに侵入して解除を試みる。

だが残念ながらそれは徒労に終わった。

金庫を閉めると中はゆっくり真空に近づいていく。

祖母が頭取につめよった。

『このままじゃ、あの娘、死んじゃうわ。

早く金庫をあけて!

男の人がいるのに、なんとかならないの!?』

(※あとは物語をお楽しみください)

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ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会