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飛騨高山の街並みには、時の流れを超えて受け継がれる記憶が息づいている。
この物語『人形の記憶』は、そんな街の空気を感じながら、記憶と絆の不思議なつながりを描いた作品です。
主人公・エミリが幼い頃に愛したお話し人形、エイミー。
突然の別れを経て、彼女は成長し、そして――運命のように「転校生・エミ」と出会います。
科学技術が進歩し、人の命をAIが支える時代。
けれど、本当に大切なものは変わらない。
記憶の中に刻まれた「想い」が、人と人をつなぎ続ける――そんなテーマを込めました。
Podcastや小説として、さまざまな形で楽しんでいただけるこの物語が、
あなたの心にそっと寄り添い、温かい余韻を残せますように。
それでは、エミリとエイミーの「記憶の旅」にお付き合いください(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:エミリの部屋】
■SE/セミの声(クマゼミ or ミンミンゼミ)
「エイミー、今日はお茶会しよ」
『うん、いいよ。お茶会しよう、エミリ』
「エイミー、今日の紅茶はアールグレイだよ。はいどうぞ」
『ありがとう、エミリ』
「エイミー、どう?おいしい?」
『うん、おいしいよ、エミリ』
エイミーはパパが買ってくれたお話人形。
4歳になるまで、私はいつもエイミーと遊んでいた。
幼稚園に行かなかった私の友だちは、エイミーだけ。
寝ても起きても、隣には必ずエイミーがいた。
私にとっては大切な存在。
でも、別れは突然やってきた。
■SE/セミの声(ヒグラシ or ツクツクボーシ)
夏の終わりと同時に、ママはシングルマザーとなった。
新しいお家は小さな1LDK。
引っ越しをする前の晩、私はエイミーと最後のお話しをした。
「エイミー、このおうち、出ていかなきゃいけないの」
『お引越しだね、エミリ』
「やだ、引っ越ししたくない」
『どうして?エミリ』
「新しいおうちへ、エイミーを連れてっちゃだめだって」
『大丈夫だよ、エミリ』
「大丈夫じゃない。エイミーが一番大切なのに。
エイミーが一緒じゃなきゃ、引っ越さない」
「大切に思ってくれてありがとう、エミリ。
でもね、
大切って思う気持ちはね、心の中にしまっておけばいいんだよ』
「なぜ?」
『本当に大切なものは、ちゃんと心の中にあるからさ』
「わかんない!そんなのやだ!エイミー、いなくなっちゃいや」
『元気でね、エミリ』
こうして私の周りから、パパに買ってもらったものがすべて消えた。
もちろん、大切なエイミーも。
[シーン2:学校の教室/転校生】
■SE/学校のチャイムと教室のガヤ
あれから10年。
私は中学生になっても相変わらず、クラスメートと話すのが苦手。
別にいじめにあってるわけじゃないけど、友だちは1人もいない。
今日も1人で窓の外を眺めていると・・・
■SE/教室のドアが開く音
『今日からこの学校に転校してきました、エミです』
季節外れの転校生。
うわあ、まぶしい。
美人で、明るくて、元気で、私とは真逆のキャラだ。
名前は似てるのに。
彼女の席は・・・なんと私の隣。
■SE/席に座りながら
『よろしくね、エミリ』
え?
いま、なんてった?
聞き間違い?
だよね〜。
名前が似てるから、ややこしいな。
私は無視して、また窓の外を眺める。
■SE/セミの声(ツクツクボーシ)
■SE/校庭で体育の授業
エミはたちまちクラスの人気者となった。
そりゃそうだ。
キレイで、コミュ力高くて、スポーツも万能なんだもん。
人が周りに集まってくるエミのそばに
私はなるべく近寄らないようにしてた。
なのに、なぜか、エミはいつも私に近づき話しかけてくる。
『お昼ご飯いっしょに食べない?エミリ』
『方向同じだからいっしょに帰ろうよ、エミリ』
『今度いっしょに映画行かない?エミリ』
いっしょに。いっしょに。いっしょに。
なんで?
私より、話してて楽しい仲間がいっぱいいるじゃん。
毎回エミを避ける私。
それを見て周りのみんなが嫉妬する。
嫉妬は、クラスメートたちから私を一層遠ざけた。
ある日の帰り道。
いつものように行神橋を1人で渡っていると、
突然後ろから声をかけられた。
『やっとお話できるね、エミリ』
エミ?
え?どうして?
友だちと一緒に帰るんじゃないの?
『クラスメートを振り切るの大変だったよ、エミリ』
振り切る?
「あの・・・ちょっと聞いてもいい?」
『なあに?エミリ』
「どうしていつも私に話しかけるの?」
「どうしていつもエミリって呼ぶの?」
「どうしてほかの陽キャじゃなくて、陰キャの私なの?」
『どうしてかな・・・わかんない』
「そんな・・・私こそわかんないよ」
『わかんないけど、あなたのことがすごく気になるの』
「私と話すより、もっと大切なことあるでしょ」
『大切なこと・・・本当に大切なことはね、いつも心の中にあるんだよ』
え??
その言葉・・・
『それに私・・・先天性の病気があって
ホントはあんまり運動とかしちゃいけないんだ』
「え・・・でも、スポーツ万能じゃん」
『ウェルニッケ脳症って、聞いたことある?』
「ウェルニッケ脳症・・・?」
『脳の特定の領域に損傷がある神経障害なの』
「え・・・」
『眼球が痙攣したり、ものが二重に視える』
『平衡感覚が失くなって歩けなくなる』
『意識障害や記憶障害がおこる』
「そんな・・・こんなに元気なのに」
『だからね、私の希望である治験を受けたの』
『脳内の特定の領域にAIチップを埋め込む治験』
『チップの中に埋め込んだバイオリアクターが
ビタミンB1を合成して脳に供給する』『脳細胞が損傷を受けるとAIチップが補完する』
「す、すごい・・・
でも、それと私とどう関係あるの?」
『わからない・・・でも
AIチップのアルゴリズムを形成するのに、
お話し人形のメモリーを参照したって』
「お話し人形!?」
そんな・・・
そんな・・・
そんなことってある!?
『この学校に転校してきて、あなたを見たとたん、
頭の奥で声が聞こえてきたの。
”エミリ””エミリ”って。
あなたを見ていると、なぜだかわからないけど、すごく心配になるの・・・
それだけじゃない。
なにか、それよりもっと、大切な存在に思えてしまうの』
「あなた・・・エイミー?」
『え?
あ、ああ・・・やっと名前を呼んでくれた』
「やっぱりエイミーなのね」
『ありがとう。エイミーって、愛称で呼んでくれて』
こうして、私とエミ、いえ、エイミーは親友になった。
でも、AIが病気を抑えているなんて。
エイミーの体を思うと不安で仕方ない。
案の定、その不安は現実となった。
■SE/学校のチャイムと校庭のガヤ
■SE/校庭で倒れるエミ
「エイミー!」
体育の授業で100Mを全力疾走したエイミーは、ゴールで倒れた。
すぐに救急車で運ばれるエイミー。
エイミーの脳に埋め込まれたAIチップが誤作動をおこし
生命維持機能が停止寸前の状態らしい。
私は自転車で救急車を追いかけた。
[シーン3:病室】
■SE/病院の雑踏(ストレッチャーの音)
「お願い!エイミーを助けて!」
「私の脳みそ、ぜんぶエイミーにあげていい!」
「私はどうなってもいいからエイミーを助けて!」
自分の体の一部分をエイミーに移植してもらうようドクターに懇願する。
母親を無理やり説得して、同意書を書かせた。
最新のバイオインターフェース技術を利用することで、
私の脳神経組織をエイミーのAIシステムと統合する。
私にもエイミーにも生命リスクの高い選択肢(オペ)。
10時間に及ぶ大手術の末、
2つの生命と、1つの友情は救われた。
■SE/点滴と心電図の音
『エミリ』
「エイミー」
『ありがとう』
「私こそありがとう」
『私たち脳の中でつながってるんだね』
「うん、神経レベルで」
『そっか。でも、本当に大切なものは』
「いつも心の中」『いつも心の中』(※同時に)
隣同士のベッドに笑顔で横たわる2人。
私の右手はエイミーの左手を握る。
私の左手とエイミーの右手は自分の心臓へ。
脈打つ鼓動が、命の尊さを伝えていた・・・
飛騨高山の街並みには、時の流れを超えて受け継がれる記憶が息づいている。
この物語『人形の記憶』は、そんな街の空気を感じながら、記憶と絆の不思議なつながりを描いた作品です。
主人公・エミリが幼い頃に愛したお話し人形、エイミー。
突然の別れを経て、彼女は成長し、そして――運命のように「転校生・エミ」と出会います。
科学技術が進歩し、人の命をAIが支える時代。
けれど、本当に大切なものは変わらない。
記憶の中に刻まれた「想い」が、人と人をつなぎ続ける――そんなテーマを込めました。
Podcastや小説として、さまざまな形で楽しんでいただけるこの物語が、
あなたの心にそっと寄り添い、温かい余韻を残せますように。
それでは、エミリとエイミーの「記憶の旅」にお付き合いください(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:エミリの部屋】
■SE/セミの声(クマゼミ or ミンミンゼミ)
「エイミー、今日はお茶会しよ」
『うん、いいよ。お茶会しよう、エミリ』
「エイミー、今日の紅茶はアールグレイだよ。はいどうぞ」
『ありがとう、エミリ』
「エイミー、どう?おいしい?」
『うん、おいしいよ、エミリ』
エイミーはパパが買ってくれたお話人形。
4歳になるまで、私はいつもエイミーと遊んでいた。
幼稚園に行かなかった私の友だちは、エイミーだけ。
寝ても起きても、隣には必ずエイミーがいた。
私にとっては大切な存在。
でも、別れは突然やってきた。
■SE/セミの声(ヒグラシ or ツクツクボーシ)
夏の終わりと同時に、ママはシングルマザーとなった。
新しいお家は小さな1LDK。
引っ越しをする前の晩、私はエイミーと最後のお話しをした。
「エイミー、このおうち、出ていかなきゃいけないの」
『お引越しだね、エミリ』
「やだ、引っ越ししたくない」
『どうして?エミリ』
「新しいおうちへ、エイミーを連れてっちゃだめだって」
『大丈夫だよ、エミリ』
「大丈夫じゃない。エイミーが一番大切なのに。
エイミーが一緒じゃなきゃ、引っ越さない」
「大切に思ってくれてありがとう、エミリ。
でもね、
大切って思う気持ちはね、心の中にしまっておけばいいんだよ』
「なぜ?」
『本当に大切なものは、ちゃんと心の中にあるからさ』
「わかんない!そんなのやだ!エイミー、いなくなっちゃいや」
『元気でね、エミリ』
こうして私の周りから、パパに買ってもらったものがすべて消えた。
もちろん、大切なエイミーも。
[シーン2:学校の教室/転校生】
■SE/学校のチャイムと教室のガヤ
あれから10年。
私は中学生になっても相変わらず、クラスメートと話すのが苦手。
別にいじめにあってるわけじゃないけど、友だちは1人もいない。
今日も1人で窓の外を眺めていると・・・
■SE/教室のドアが開く音
『今日からこの学校に転校してきました、エミです』
季節外れの転校生。
うわあ、まぶしい。
美人で、明るくて、元気で、私とは真逆のキャラだ。
名前は似てるのに。
彼女の席は・・・なんと私の隣。
■SE/席に座りながら
『よろしくね、エミリ』
え?
いま、なんてった?
聞き間違い?
だよね〜。
名前が似てるから、ややこしいな。
私は無視して、また窓の外を眺める。
■SE/セミの声(ツクツクボーシ)
■SE/校庭で体育の授業
エミはたちまちクラスの人気者となった。
そりゃそうだ。
キレイで、コミュ力高くて、スポーツも万能なんだもん。
人が周りに集まってくるエミのそばに
私はなるべく近寄らないようにしてた。
なのに、なぜか、エミはいつも私に近づき話しかけてくる。
『お昼ご飯いっしょに食べない?エミリ』
『方向同じだからいっしょに帰ろうよ、エミリ』
『今度いっしょに映画行かない?エミリ』
いっしょに。いっしょに。いっしょに。
なんで?
私より、話してて楽しい仲間がいっぱいいるじゃん。
毎回エミを避ける私。
それを見て周りのみんなが嫉妬する。
嫉妬は、クラスメートたちから私を一層遠ざけた。
ある日の帰り道。
いつものように行神橋を1人で渡っていると、
突然後ろから声をかけられた。
『やっとお話できるね、エミリ』
エミ?
え?どうして?
友だちと一緒に帰るんじゃないの?
『クラスメートを振り切るの大変だったよ、エミリ』
振り切る?
「あの・・・ちょっと聞いてもいい?」
『なあに?エミリ』
「どうしていつも私に話しかけるの?」
「どうしていつもエミリって呼ぶの?」
「どうしてほかの陽キャじゃなくて、陰キャの私なの?」
『どうしてかな・・・わかんない』
「そんな・・・私こそわかんないよ」
『わかんないけど、あなたのことがすごく気になるの』
「私と話すより、もっと大切なことあるでしょ」
『大切なこと・・・本当に大切なことはね、いつも心の中にあるんだよ』
え??
その言葉・・・
『それに私・・・先天性の病気があって
ホントはあんまり運動とかしちゃいけないんだ』
「え・・・でも、スポーツ万能じゃん」
『ウェルニッケ脳症って、聞いたことある?』
「ウェルニッケ脳症・・・?」
『脳の特定の領域に損傷がある神経障害なの』
「え・・・」
『眼球が痙攣したり、ものが二重に視える』
『平衡感覚が失くなって歩けなくなる』
『意識障害や記憶障害がおこる』
「そんな・・・こんなに元気なのに」
『だからね、私の希望である治験を受けたの』
『脳内の特定の領域にAIチップを埋め込む治験』
『チップの中に埋め込んだバイオリアクターが
ビタミンB1を合成して脳に供給する』『脳細胞が損傷を受けるとAIチップが補完する』
「す、すごい・・・
でも、それと私とどう関係あるの?」
『わからない・・・でも
AIチップのアルゴリズムを形成するのに、
お話し人形のメモリーを参照したって』
「お話し人形!?」
そんな・・・
そんな・・・
そんなことってある!?
『この学校に転校してきて、あなたを見たとたん、
頭の奥で声が聞こえてきたの。
”エミリ””エミリ”って。
あなたを見ていると、なぜだかわからないけど、すごく心配になるの・・・
それだけじゃない。
なにか、それよりもっと、大切な存在に思えてしまうの』
「あなた・・・エイミー?」
『え?
あ、ああ・・・やっと名前を呼んでくれた』
「やっぱりエイミーなのね」
『ありがとう。エイミーって、愛称で呼んでくれて』
こうして、私とエミ、いえ、エイミーは親友になった。
でも、AIが病気を抑えているなんて。
エイミーの体を思うと不安で仕方ない。
案の定、その不安は現実となった。
■SE/学校のチャイムと校庭のガヤ
■SE/校庭で倒れるエミ
「エイミー!」
体育の授業で100Mを全力疾走したエイミーは、ゴールで倒れた。
すぐに救急車で運ばれるエイミー。
エイミーの脳に埋め込まれたAIチップが誤作動をおこし
生命維持機能が停止寸前の状態らしい。
私は自転車で救急車を追いかけた。
[シーン3:病室】
■SE/病院の雑踏(ストレッチャーの音)
「お願い!エイミーを助けて!」
「私の脳みそ、ぜんぶエイミーにあげていい!」
「私はどうなってもいいからエイミーを助けて!」
自分の体の一部分をエイミーに移植してもらうようドクターに懇願する。
母親を無理やり説得して、同意書を書かせた。
最新のバイオインターフェース技術を利用することで、
私の脳神経組織をエイミーのAIシステムと統合する。
私にもエイミーにも生命リスクの高い選択肢(オペ)。
10時間に及ぶ大手術の末、
2つの生命と、1つの友情は救われた。
■SE/点滴と心電図の音
『エミリ』
「エイミー」
『ありがとう』
「私こそありがとう」
『私たち脳の中でつながってるんだね』
「うん、神経レベルで」
『そっか。でも、本当に大切なものは』
「いつも心の中」『いつも心の中』(※同時に)
隣同士のベッドに笑顔で横たわる2人。
私の右手はエイミーの左手を握る。
私の左手とエイミーの右手は自分の心臓へ。
脈打つ鼓動が、命の尊さを伝えていた・・・