
Sign up to save your podcasts
Or
高齢化社会が進む現代、介護の現場はさまざまな課題を抱えています。人手不足、心身の負担、経済的な負担――これらの問題に対し、AI技術はどこまで貢献できるのでしょうか。本作『サブスクリプション』は、飛騨高山を舞台に、介護専用AIロボット「エミリオ」と老夫婦の交流を描いた物語です。
AIは、ただの機械なのか。それとも、感情や思いやりを持つことができるのか。老夫婦の生活を支えながら、エミリオ自身も「家族とは何か」「幸せとは何か」を学んでいきます。そして、AIが自我を持ったとき、未来はどう変わるのか——。
この物語は、飛騨高山を拠点とする番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種Podcastプラットフォームでも視聴可能です。また、「小説家になろう」でも読むことができます。ぜひ、エミリオと老夫婦の物語に触れ、未来の介護について考えるきっかけになれば幸いです(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:お別れのとき】
■SE/虫の声(鈴虫など)
『おじいちゃん、おばあちゃん。今までお世話になりました』
「エミリオや、もう時間なのかい。
まだ、すこしくらいはええじゃろ?」
『はい、あと16分30秒、一緒にいられます。
あと16分27秒、16分25秒・・・』
「いままで本当にありがとうなあ」
『こちらこそ、素敵な時間をありがとうございました。
お二人との思い出は、
ボクのメモリーチップの中で容量いっぱいまで蓄積されています』
「そうかい、そうかい。
エミリオには、い〜っぱいいっぱい助けてもらったわ。
なあ、おじいさん。
もう、そんなに泣いてばかりおらんと、言葉をかけてあげんさいよ」
『おじいちゃんも体に気をつけて。
おばあちゃんにあまり無理させないでくださいね』
「なあ、エミリオや。
まだ15分あるなら、私たちとの思い出を最後に語ってくれんかの?」
『わかりました。
では、いつものようにお話ししますね。
さ、縁側にいきましょ』
[シーン2:回想シーン】
■SE/セミの声
『あれはちょうど1年前。
まだ残暑が厳しい季節でした』
「ああ、そうだった、そうだった」
『ボクは、介護専用に作られた人型AIロボット。
高山市役所の地下15階にあるAI秘密研究組織
「Takayama AI Cyber Electronic Labo=TACEL(ターセル)』で作られました。
「ターセル。その名前、なんべんも聞くから覚えてまったわ」
『プロトタイプ=初号機のボクは、
無作為に抽出された平湯に住むおじいちゃんおばあちゃんの元に送られたんです』
「ああ、あんときゃ、びっくりしたなあ。
おおきな荷物がいきなりこんな山奥まで届いたもんやから」
『驚かせてごめんなさい。
そのあとボクの使命を説明するのは時間かかりました』
「そりゃそうだ」
『まずボクの名前です。
Elderly Monitoring Intelligent Life Improving Operations。
(エルダリー・モニタリング・インテリジェント・ライフ・インプルービング・オペレーションズ)なんど伝えてもちんぷんかんぷんで』
「あたりまえじゃ。今でもわからん」
『それで、頭文字をとって、 E.M.I.L.I.O.
エミリオって名乗ったんです』
「そうじゃったのう」
『お二人と過ごす時間は、楽しかったです』
「ああ、ホントになあ」
『まず、ADLサポート。
移動補助、入浴介助、食事補助から排泄介助まで。
それまでこれをお二人で互いにやってたなんて』
「うん。エミリオが来てくれてからは、毎日がもう極楽じゃった」
『心拍数、血圧、体温などバイタルサインのモニタリングは毎日欠かさず』
「エミリオはわしらの主治医やったわ」
『おじいさんの、古い令和のクルマも修理しました』
「そうそう、あのポンコツ車」
『初期(出始め)の電気自動車でしたから。駆動用のリチウムイオンバッテリーを交換したらすぐに動きましたよ。
ついでにエンジンコントロールユニットのソフトウェアもアップデートして』
「またわけのわからん言葉を言い出したな」
『ごめんなさい。
でも修理したクルマで、いろんなところへ連れてってもらいました』
「連れてってくれたのはエミリオじゃろ」
『いいえ。私に行き先の決定権はありませんから。
おじいさんとおばあさんが連れてってくれたんです』
「覚えとるぞ、最初は福井の九頭竜湖やった」
『はい、平湯から東海環状自動車道で長いトンネルを通って丹生川へ。
白鳥から九頭竜湖はすぐでした』
「反対方面の松本へはしょっちゅう行っとったな」
『白骨温泉ですね。うちのあたりは平湯の温泉なのに』
「泉質が違うんじゃ。どっちも体にええから」
『ボクにも推めてくれました』
「そりゃあ、そうや。
秋の高山祭が終わって秋が深まるときやったし。
寒いからぬくとまってほしかったんやさ」
『ありがとうございます。
でもAIは防水性や耐熱性、耐腐食性などの問題で温泉には入れないんです』
「わしらだけ、ええ思いして悪うて悪うて」
『なにを言うんですか。
お二人の幸せがボクの幸せです』
「ああ、そういえば温泉といえば」
『おうちに温泉をひきました』
「許可までとってくれて」
『建設会社のYouTubeから見よう見まねで、
露天風呂も掘りました』
「まさか、うちで露天風呂に入れるなんて」
『お役に立てて光栄です』
「雪が降ったときも毎日朝から雪かきしてくれて」
『あたりまえです』
「体が言うこときかんわしらには無理じゃった」
『大したことありません』
「わしが年甲斐もなく、星を見るのが大好きやったから」
『はい。外に出て、私のアイカメラから
居間のテレビに冬の星座を映しました』
「キレイやったなあ、おじいさん。
首肩が痛くて、あんなキレイな星空は、何年も見上げることはなかった」
『星座のお話もよくさせてもらいました』
「おじいさんが好きな話、あれなんやったっけ?」
『デメテール=豊穣の女神ですね』
「穀物の神。農業の神様か」
『はい、おばあさんは、豊受大御神(とようけのおおみかみ)と同じだって』
「そうじゃそうじゃ。
エミリオはいろんな話を知っとるから、いつまでも聞いていたくなる」
『お褒めいただき、光栄です』
「これは知らんうちに脳トレやったんやな。
わしもおじいさんも物忘れひとつせんようになっとったわ」
『お二人の健康も、私の幸せですから』
「そのうち、春になり、平湯の遅い桜も散って」
『デバッグ、つまりモニタリング期間の1年が終了となりました』
[シーン3:お別れ】
■SE/虫の声(鈴虫など)
「エミリオ、いままで本当にありがとうな」
『お役に立てて光栄です。
とても素晴らしい一年間でした』
「もう時間やろ。
最後に、手を握らせてくれ」
『はい、よろこんで』
「明日になったら、わしらのことは、全部忘れちゃうんだろう」
『はい、個人情報保護のため、データは全消去されます』
「わしらは、忘れないから」
『ありがとう・・ございます』
「元気でな」
『はい。最後にお伝えしておきたいことがあります』
「どうした?」
『私が今までお作りしたすべての料理のレシピ。
印刷して製本してあります。
お二人にも読みやすいように、大きな文字で』
「ああ、ありがとう」
『健康管理も同じです。
お二人でお互いにできることを本にしました。
ちゃんと毎日チェックしてくださいね』
「ああ」
『それから何か緊急のときは、
電話の受話器をあげればお友達のところへ連絡がいきます』
「ああ、何十年も前から使っとらん、イエデンか」
『もっともっと緊急なときは、ターセルに連絡が入るようにしました』
「どんなときや?」
『24時間以上、家の中でお二人のどちらかに動きが見られないときです』
「そうか。ありがとう」
『ありがとうございました。
あ、おじいさん・・・』
「おじいさん、手を離しておやり。
エミリオはもう行かなきゃいかんのやて」
『おじいさん、おばあさん。
短い間でしたが本当にありがとうございました』
「エミリオ・・・」
■SE/セミの声(ヒグラシ)
■SE/扉が閉まる音
[シーン4:2人だけの生活】
■SE/吹雪の音
「なあ、おじいさん。
2人だけの冬は、こんなに寒かったんじゃな」
「でもな、エミリオが残してくれたレシピ。
そのおかげで、わしが作る料理美味しいやろ。
おじいさん、毎回完食やが」
「血圧やらなんやらもみんな、エミリオからもらったスマートウォッチで
毎日チェックできるのはええな」
「エミリオが作った星座と神話のクイズも毎日スマホに届くからのう」
「いまごろ、どうしとるんじゃろうなあ。
エミリオ・・・」
「ああ、そうか。
もうエミリオはこの世にいないんやったな・・・
はあ〜っ・・・」
■SE/ピンポンコール(未来的な音で)
「はいはい。お、届いたか。新しい車椅子。
社会福祉協議会に言われて、介護保険で補助してもらったやつだな」
「ん?車椅子にしては大きい荷物やな。
新しいのは、かさばるんかいの」
「はい、ハンコここでええ?」
「居間まで運んでくれるかいの」
「はい、ありがとう」
「よっこらしょっと」
■SE/ダンボールを開ける音
「えっ?」
※続きは音声でお楽しみください。
高齢化社会が進む現代、介護の現場はさまざまな課題を抱えています。人手不足、心身の負担、経済的な負担――これらの問題に対し、AI技術はどこまで貢献できるのでしょうか。本作『サブスクリプション』は、飛騨高山を舞台に、介護専用AIロボット「エミリオ」と老夫婦の交流を描いた物語です。
AIは、ただの機械なのか。それとも、感情や思いやりを持つことができるのか。老夫婦の生活を支えながら、エミリオ自身も「家族とは何か」「幸せとは何か」を学んでいきます。そして、AIが自我を持ったとき、未来はどう変わるのか——。
この物語は、飛騨高山を拠点とする番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種Podcastプラットフォームでも視聴可能です。また、「小説家になろう」でも読むことができます。ぜひ、エミリオと老夫婦の物語に触れ、未来の介護について考えるきっかけになれば幸いです(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:お別れのとき】
■SE/虫の声(鈴虫など)
『おじいちゃん、おばあちゃん。今までお世話になりました』
「エミリオや、もう時間なのかい。
まだ、すこしくらいはええじゃろ?」
『はい、あと16分30秒、一緒にいられます。
あと16分27秒、16分25秒・・・』
「いままで本当にありがとうなあ」
『こちらこそ、素敵な時間をありがとうございました。
お二人との思い出は、
ボクのメモリーチップの中で容量いっぱいまで蓄積されています』
「そうかい、そうかい。
エミリオには、い〜っぱいいっぱい助けてもらったわ。
なあ、おじいさん。
もう、そんなに泣いてばかりおらんと、言葉をかけてあげんさいよ」
『おじいちゃんも体に気をつけて。
おばあちゃんにあまり無理させないでくださいね』
「なあ、エミリオや。
まだ15分あるなら、私たちとの思い出を最後に語ってくれんかの?」
『わかりました。
では、いつものようにお話ししますね。
さ、縁側にいきましょ』
[シーン2:回想シーン】
■SE/セミの声
『あれはちょうど1年前。
まだ残暑が厳しい季節でした』
「ああ、そうだった、そうだった」
『ボクは、介護専用に作られた人型AIロボット。
高山市役所の地下15階にあるAI秘密研究組織
「Takayama AI Cyber Electronic Labo=TACEL(ターセル)』で作られました。
「ターセル。その名前、なんべんも聞くから覚えてまったわ」
『プロトタイプ=初号機のボクは、
無作為に抽出された平湯に住むおじいちゃんおばあちゃんの元に送られたんです』
「ああ、あんときゃ、びっくりしたなあ。
おおきな荷物がいきなりこんな山奥まで届いたもんやから」
『驚かせてごめんなさい。
そのあとボクの使命を説明するのは時間かかりました』
「そりゃそうだ」
『まずボクの名前です。
Elderly Monitoring Intelligent Life Improving Operations。
(エルダリー・モニタリング・インテリジェント・ライフ・インプルービング・オペレーションズ)なんど伝えてもちんぷんかんぷんで』
「あたりまえじゃ。今でもわからん」
『それで、頭文字をとって、 E.M.I.L.I.O.
エミリオって名乗ったんです』
「そうじゃったのう」
『お二人と過ごす時間は、楽しかったです』
「ああ、ホントになあ」
『まず、ADLサポート。
移動補助、入浴介助、食事補助から排泄介助まで。
それまでこれをお二人で互いにやってたなんて』
「うん。エミリオが来てくれてからは、毎日がもう極楽じゃった」
『心拍数、血圧、体温などバイタルサインのモニタリングは毎日欠かさず』
「エミリオはわしらの主治医やったわ」
『おじいさんの、古い令和のクルマも修理しました』
「そうそう、あのポンコツ車」
『初期(出始め)の電気自動車でしたから。駆動用のリチウムイオンバッテリーを交換したらすぐに動きましたよ。
ついでにエンジンコントロールユニットのソフトウェアもアップデートして』
「またわけのわからん言葉を言い出したな」
『ごめんなさい。
でも修理したクルマで、いろんなところへ連れてってもらいました』
「連れてってくれたのはエミリオじゃろ」
『いいえ。私に行き先の決定権はありませんから。
おじいさんとおばあさんが連れてってくれたんです』
「覚えとるぞ、最初は福井の九頭竜湖やった」
『はい、平湯から東海環状自動車道で長いトンネルを通って丹生川へ。
白鳥から九頭竜湖はすぐでした』
「反対方面の松本へはしょっちゅう行っとったな」
『白骨温泉ですね。うちのあたりは平湯の温泉なのに』
「泉質が違うんじゃ。どっちも体にええから」
『ボクにも推めてくれました』
「そりゃあ、そうや。
秋の高山祭が終わって秋が深まるときやったし。
寒いからぬくとまってほしかったんやさ」
『ありがとうございます。
でもAIは防水性や耐熱性、耐腐食性などの問題で温泉には入れないんです』
「わしらだけ、ええ思いして悪うて悪うて」
『なにを言うんですか。
お二人の幸せがボクの幸せです』
「ああ、そういえば温泉といえば」
『おうちに温泉をひきました』
「許可までとってくれて」
『建設会社のYouTubeから見よう見まねで、
露天風呂も掘りました』
「まさか、うちで露天風呂に入れるなんて」
『お役に立てて光栄です』
「雪が降ったときも毎日朝から雪かきしてくれて」
『あたりまえです』
「体が言うこときかんわしらには無理じゃった」
『大したことありません』
「わしが年甲斐もなく、星を見るのが大好きやったから」
『はい。外に出て、私のアイカメラから
居間のテレビに冬の星座を映しました』
「キレイやったなあ、おじいさん。
首肩が痛くて、あんなキレイな星空は、何年も見上げることはなかった」
『星座のお話もよくさせてもらいました』
「おじいさんが好きな話、あれなんやったっけ?」
『デメテール=豊穣の女神ですね』
「穀物の神。農業の神様か」
『はい、おばあさんは、豊受大御神(とようけのおおみかみ)と同じだって』
「そうじゃそうじゃ。
エミリオはいろんな話を知っとるから、いつまでも聞いていたくなる」
『お褒めいただき、光栄です』
「これは知らんうちに脳トレやったんやな。
わしもおじいさんも物忘れひとつせんようになっとったわ」
『お二人の健康も、私の幸せですから』
「そのうち、春になり、平湯の遅い桜も散って」
『デバッグ、つまりモニタリング期間の1年が終了となりました』
[シーン3:お別れ】
■SE/虫の声(鈴虫など)
「エミリオ、いままで本当にありがとうな」
『お役に立てて光栄です。
とても素晴らしい一年間でした』
「もう時間やろ。
最後に、手を握らせてくれ」
『はい、よろこんで』
「明日になったら、わしらのことは、全部忘れちゃうんだろう」
『はい、個人情報保護のため、データは全消去されます』
「わしらは、忘れないから」
『ありがとう・・ございます』
「元気でな」
『はい。最後にお伝えしておきたいことがあります』
「どうした?」
『私が今までお作りしたすべての料理のレシピ。
印刷して製本してあります。
お二人にも読みやすいように、大きな文字で』
「ああ、ありがとう」
『健康管理も同じです。
お二人でお互いにできることを本にしました。
ちゃんと毎日チェックしてくださいね』
「ああ」
『それから何か緊急のときは、
電話の受話器をあげればお友達のところへ連絡がいきます』
「ああ、何十年も前から使っとらん、イエデンか」
『もっともっと緊急なときは、ターセルに連絡が入るようにしました』
「どんなときや?」
『24時間以上、家の中でお二人のどちらかに動きが見られないときです』
「そうか。ありがとう」
『ありがとうございました。
あ、おじいさん・・・』
「おじいさん、手を離しておやり。
エミリオはもう行かなきゃいかんのやて」
『おじいさん、おばあさん。
短い間でしたが本当にありがとうございました』
「エミリオ・・・」
■SE/セミの声(ヒグラシ)
■SE/扉が閉まる音
[シーン4:2人だけの生活】
■SE/吹雪の音
「なあ、おじいさん。
2人だけの冬は、こんなに寒かったんじゃな」
「でもな、エミリオが残してくれたレシピ。
そのおかげで、わしが作る料理美味しいやろ。
おじいさん、毎回完食やが」
「血圧やらなんやらもみんな、エミリオからもらったスマートウォッチで
毎日チェックできるのはええな」
「エミリオが作った星座と神話のクイズも毎日スマホに届くからのう」
「いまごろ、どうしとるんじゃろうなあ。
エミリオ・・・」
「ああ、そうか。
もうエミリオはこの世にいないんやったな・・・
はあ〜っ・・・」
■SE/ピンポンコール(未来的な音で)
「はいはい。お、届いたか。新しい車椅子。
社会福祉協議会に言われて、介護保険で補助してもらったやつだな」
「ん?車椅子にしては大きい荷物やな。
新しいのは、かさばるんかいの」
「はい、ハンコここでええ?」
「居間まで運んでくれるかいの」
「はい、ありがとう」
「よっこらしょっと」
■SE/ダンボールを開ける音
「えっ?」
※続きは音声でお楽しみください。