ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「さるぼぼ〜魂を導くもの2」


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飛騨高山の町に伝わる「さるぼぼ」。古くから、この土地の人々にとって大切なお守りとされてきたその存在は、時に愛を見守り、時に魂を導く不思議な力を持つといわれています。

今回の物語は、そんな「さるぼぼ」が紡ぐ、人と人との縁のお話です。過去に傷つき、喪失の悲しみに暮れた女性。新たな命を抱えながら帰ってきた妹。そして、彼女たちのもとに現れた、小さな命。

この物語の舞台は、飛騨高山の古い町並みにある酒蔵。伝統と歴史の香るこの町で、人の想いが時を超えてつながる奇跡を・・・(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

[シーン1:異世界のさるぼぼ】

■SE/夢の中の不思議な環境音

『ぼくはだぁれ?』

『どこにいけばいいの・・・』

『こわいよぉ・・・』

「どうしたの?」

「かわいそうに」

「もう大丈夫だよ」

『ぼく・・・』

「明るい方へいくのよ。

いい?明るい方へいきなさい」

『うん』

冥界を漂っていた小さな灯火は、光の中へ消えていった・・

[シーン2:古い町並にある造り酒蔵にて】

■SE/酒蔵の環境音

(※宮ノ下さん)

『あんまり無理するんじゃないぞ』

「大丈夫だって、パパ。

杜氏が新酒の時期に休んでられないでしょ」

(※宮ノ下さん)

『だけど、おまえの体・・・』

「いいの!」

悲しくなるから言わないで。

私の名前は、瀬織(セオリ)。

おうちは古い町並にある蔵元。

10年前に酒蔵の蔵人(くらびと)になった。

そのとき世に出した大吟醸が「瀬織津姫」という銘柄。

SNSで人気となり、今でも女性を中心に売れ続けている。

それからの10年間は、まさに高山の街を駆け抜けた嵐のよう。

若くして頭(かしら)となった蔵人と、結婚して懐妊。

でも、赤ちゃんが生まれてくることはなく、

失意の中、夫も病気でこの世を去った。

私は、悲しみを忘れるために、酒造りに精を出し、

去年やっと杜氏になった。

(※宮ノ下さん)

『今年の瀬織津姫、いつになくフルーティだな』

「この夏は、ホント、暑かったもんねえ」

(※宮ノ下さん)

『猛暑に耐えた酒米(さかまい)からのご褒美だな』

「逆よ。感謝するのは私たちでしょ」

秋風が空気を冷まして、古い町並を駆け抜けていく。

できあがった新酒を囲んで束の間の休息。

と、そのとき。

静寂を破って、酒蔵の引き戸が開いた。

■SE/酒蔵の入口〜引き戸が開く音

『ただいまぁ』

「エミリ!」

(※宮ノ下さん)

『なにしに帰ってきた』

とたんにパパの顔が曇る。

顔を出したのは、5年前、家出同然に家を飛び出した妹、エミリ。

酒蔵を覗き込んで誰もいないことを確かめてから、入ってくる。

その背中には・・

「どうしたの?その子」

『どうしたもなにも。生まれたからここにいるんじゃない』

(※宮ノ下さん)

『ち、ち、父親はどこだ?』

『いないわよ、そんなもん』

(※宮ノ下さん)

『なんだと』

「パパ、いいからエミリと2人にして」

(※宮ノ下さん)

『わ、わかった・・』

会所場(かいしょば)という酒蔵の休憩所へエミリを連れていく。

5年ぶりに顔を合わせた姉妹は、1時間以上も話し合った。

エミリは東京の雑貨屋で働き始めてすぐ、

知り合った男性と暮らすようになったらしい。

だが、意見の相違で2人は彼は去り、別れてから懐妊を知ったという。

まあ、きっと、エミリのわがままが原因だろうな。

ということで、シングルマザーとなった我が妹は

この酒蔵に戻ってきたってわけ。

最初、苦虫を噛み潰していたパパも、かいがいしく孫の面倒をみている。

おむつの替え方なんて、手慣れたもんだ。

ああ、こうやって、私とエミリも世話をやいてもらったのね。

ちょっとだけ恥ずかしいな。

■SE/赤ちゃんの鳴き声

『よ〜しよし、泣かないでよ』

「私にかして」

『お姉ちゃん、すごい』

「なにが?」

『この子、マコト、お姉ちゃんが抱っこすると絶対泣き止むんだもん』

「たまたまでしょ」

『おねえちゃんがママみたい』

「ばか言わないで」

とは言ったものの、この愛しさは特別。

ハイハイするようになっても、

マコトは私のあとをついてまわった。

[シーン3:酒蔵から少し離れた公園】

■SE/公園の環境音(虫の声)

エミリが帰ってきてから3年。

小さかったマコトは、愛くるしい男の子に成長した。

私とエミリとマコト。

3人でよく公園に来て遊ぶ。

『おばちゃ〜ん』

「やめてよ、マコ。おばちゃんじゃないでしょ。

セオリ。セオリって呼んで」

『わかった』

まあ、続柄はおばちゃんだけど・・

『そういえばマコって、ママのお腹にいたときのこと、覚えてる?』

『うん、覚えてるよ』

「へえ〜。胎内記憶ってやつ?」

『ママのお腹に入る前のこと』

『え?うそ!?』

『ボク、セオリおばちゃんのお腹にいたんだよ』

「え・・」

『そのあと真っ暗な中に放り出されちゃっやの』

「えっ」

『だけど、さるぼぼが明るい方へいきなさい、って』

「そんな・・・」

あっというまに涙腺が・・・崩壊。

妹を見ると・・・やだ、嗚咽してる。

あのときの・・あの子・・

さるぼぼの私が導いた小さな魂。

あれは・・・私の子だったの?

愛しさがこみ上げてきて止まらない。

マコトの前に広がる、

この先ずうっと続いていく明るい道。

いつまでも、いつまでも明るく照らしてあげたい。

エミリと私とマコト。

3人で、手をつないだまま、いつまでもいつまでも抱き合っていた・・・

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ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会