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語り継がれる『シンデレラ』の物語。美しいドレスとガラスの靴を履いた少女が、王子さまと出会い、運命に導かれる——。けれども、本当の「幸せ」とは何なのでしょうか?もし、物語のその先があったとしたら?もし、シンデレラが年を重ねてもなお、王子さまと手を取り合っていたとしたら?
この物語は、飛騨高山を舞台に、ひとりの少女が"シンデレラ"になった日と、その後の人生を描いたお話です。それは、50年の時を経ても変わらない、大切な"約束"の物語。
(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:高齢者施設〜開け放したテラスで孫娘に本を読むおばあさん]
■SE/森の中の小鳥たちのさえずり
「ガラスの靴はシンデレラの足にぴったりでした。
王子さまと結ばれたシンデレラは、末長く幸せに暮らしました。
めでたし。めでたし」
※孫娘(5歳)
「それからどうなったの?」
「え?」
「そのあと二人はどうなったの?」
「そうねえ。
シンデレラはそのあと50年経っても幸せだったのよ。
いつもいつも夢を見ているようだったわ。
ずうっと醒めなければいいって思ってた」
「王子さまは?」
「もちろん王子さまも幸せだったわ。
だけど時間は少しずつ記憶をうばっていったの」
「え〜、じゃあシンデレラのこと忘れちゃうの?」
「忘れないわよ。
忘れそうになったときは、シンデレラがガラスの靴を見せてあげるの」
「ふうん」
そう言って私はテラスでまどろむ夫に目を向ける。
「あそこに置いてある靴は?」
「ガラスの靴」
「ガラスじゃないよ」
「おばあちゃんにとってはガラスの靴」
「へんなの〜」
「うふふ。そうね」
昔から、いえ、中学校3年生の春から大好きになったお話『シンデレラ』。
孫娘に絵本を読み聞かせながら、私は50年前を思い出していた。
[シーン2:中学校の渡り廊下から]
■SE/遠くから学生たちの雑踏が聞こえてくる
「おっかしいなあ。
いつもならこの辺。花壇のあたりに絶対あるはずなんだけど・・・」
中学に入ってから3年生の春まで、私はいじめにあっていました。
といっても、今のような陰湿ないじめではなく、
せいぜい上履きの靴をどこかへ移動するくらい。
思えば、よく隠されてたなあ。
たいていは、渡り廊下の横にある花壇の中に隠してあった。
まあ、日課のような感じでいつも花壇まで靴をとりに行ってたっけ。
でも今日は、どれだけ探しても見つからない。
四時限目の体育の授業が終わったあと、
下駄箱を探したら上履きがなかった。
またか、と思いながら探しても、どうしても見つけられない。
少しだけ嫌な感じが脳裏をよぎった。
どうしよう。
いまはお昼休みだから、もうちょっとで授業が始まっちゃう。
しょうがない。
放課後に植込みのとこも探してみようかな。
あ、お弁当食べる時間なくなっちゃった。
そう思ったらとたんにお腹がすいてくる。
だめだめ。授業中にお腹、鳴らないでよ。
春とはいえ板張りの廊下は足先が冷える。
末端冷え性の私には特にきついんだなあ。
仕方なく職員室で先生に事情を話し、来客用のスリッパを借りた。
『ま〜た上履きなくしたのか。
これでなんべん目だ?モノを大事にしないとダメだぞ。
ちょっとたるんでるんじゃないか』
たるんでなんかいない。
いないけど、いじめのことは口がさけても言えない。
だって友だちを裏切るみたいでイヤだもん。
私はゴム製のスリッパに足を通す。
だけどこれがまた冷たいんだよー。
あと2時限。6時限目が終わるまで耐えられるかしら。
無理だった。
お腹はグーグー鳴るし、スリッパは冷たくて3回もトイレに行っちゃったし。
みんな、声に出さずに笑ってる。
早く放課後になって。
上履き探しにいかなきゃ。
■SE/チャイムの音(教室から出ていくイメージ)
「あ、私の靴は?」
放課後、花壇へ行くため靴に履き替えようとしたとき。
なんと、靴まで下駄箱から消えていた。
どうする?どうする?
え〜い。迷ってる場合じゃないし。
私はスリッパのまま、植え込みのところまで走った。
■SE/ガサゴソと花壇の中を探す音/夕方のイメージ(カラスの鳴き声)
あとから汚したスリッパ洗わないと。
先生に見つからないように、かがみながら必死で2足の靴を探す。
ない。ない。
どこにもない。
どれだけ探しても見つからない。
おまけにスリッパで土の上歩いたら、歩きにくいし、冷たいし。
もう最悪だな。
ひょっとして、今日お家までスリッパで帰るってこと?
そんなのいやだ〜。
いろいろ考えてたら、泣きそうになってきた。
あ〜泣くのもあかん。
こんなとこ見られたら、いじめがバレちゃう。
この前ホームルームでいじめの話題がでたとき、担任が言ってたもん。
『いじめられる側にも問題があるんだぞ』
な〜んて。
こんなん絶対相談できないじゃん。
途方に暮れて、しばらくツツジの花を見つめる。
ピンク色が目にしみた。
と、そのとき。
背後からふいに肩を叩かれ、思わず振り返ってしまった。
「あ」
彼は・・・えっと・・・先週から学校に来た転校生だ。
やばい。
泣いてるの見られた?
少し戸惑いながら私に声をかける。
「なあ、オマエ知らないか?」
「え・・・なにを?」
「人を探してるんだけど」
「・・・だれを?」
「この靴の持ち主さ」
「あ・・・」
彼が両手でかざしたのは、私の上履きと外履きの靴。
その瞬間、いままで我慢していた感情が吹き出した。
「私の・・・」
それだけ言うのがせいいっぱい。
あとは下を向いてただしゃくりあげる。
抑えようと思っても、涙が止まらない。
「やっぱりな」
そこから先は彼が一方的に語り出す。
「この上履きと靴、焼却炉の前に落ちてたんだよ」
「オレ、持ち主が困ってるだろうと思ってみんなに聞きまくったんだ」
「そしたら、どいつもこいつも口をつぐんで、黙っちゃう」
「もしかしたら、だれかいじめられてるんじゃないか」
「なんか、いてもたってもいられなくなって、学校中さがしまくったんだ」
ああ、そうか、彼はわかってないんだ。
「あ、ありがとう。
でも早くどっかへ行って。
こんなとこ誰かに見られたら、
君も仲間はずれにされるか、いじめの対象になっちゃうよ」
「それがどうしたの」
「え?
だって先生も言ってたじゃない
いじめられる側にもなにか問題があるって」
「あるわけないだろう」
「え」
「心配するなよ。手はうっといたから」
「え〜」
「担任じゃなくて、教頭と校長に告げ口してやったよ。
こ〜んな悪質ないじめがあるけど、放っておくのかって」
「そんなぁ。私明日からどんな目に会うかわかんないじゃん」
「誰もなにもしてこないよ。
だって校長たちに、
なんなら教育委員会にも告げ口しようか、って言ったら、
あわててすぐに対処するって言ってたぜ」
「うそ・・・」
「それよりさ、証拠見せてくれよ」
「え?なに?証拠?」
「この靴の持ち主だって証拠」
そう言って彼は私の前で片膝をついた。
「ほら、履いてみろよ」
彼が両手で抱えた靴の中に、私の足は滑り込んだ。
「よかったな、見つかって」
まるで靴に言っているように聞こえたけど、
言い終わってから彼は私を見上げてウインクした。
その日を境に本当にいじめはぱったりとなくなった。
彼は私をシンデレラにしてくれたのです。
[シーン3:高齢者施設〜開け放したテラスで孫娘に本を読むおばあさん]
■SE/森の中の小鳥たちのさえずり
あれから50年。
私たちは高山市内で小さな靴屋を営み、
今はリタイアして、二人で奥飛騨の施設に入っている。
最近昔のことがあまり思い出せなくなってきた夫に、
私はいつもこの話を語ってきかせる。
必ず、この靴と上履きを膝の上にのせながら。
そうするといつも彼は靴を、私に履かせようとする。
私を見あげてウィンクしながら。
「おばあちゃん」
「あ、あら。ごめんなさい。ぼうっとしちゃった」
「やっぱりおばあちゃんってシンデレラでしょ」
「ふふふ。そうかもね」
「だと思った」
テラスでロッキングチェアに腰掛けた王子さまに向かって
小さく微笑む。
いつまでもこの靴が履けますように。
ありがとう、私の王子さま。
語り継がれる『シンデレラ』の物語。美しいドレスとガラスの靴を履いた少女が、王子さまと出会い、運命に導かれる——。けれども、本当の「幸せ」とは何なのでしょうか?もし、物語のその先があったとしたら?もし、シンデレラが年を重ねてもなお、王子さまと手を取り合っていたとしたら?
この物語は、飛騨高山を舞台に、ひとりの少女が"シンデレラ"になった日と、その後の人生を描いたお話です。それは、50年の時を経ても変わらない、大切な"約束"の物語。
(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:高齢者施設〜開け放したテラスで孫娘に本を読むおばあさん]
■SE/森の中の小鳥たちのさえずり
「ガラスの靴はシンデレラの足にぴったりでした。
王子さまと結ばれたシンデレラは、末長く幸せに暮らしました。
めでたし。めでたし」
※孫娘(5歳)
「それからどうなったの?」
「え?」
「そのあと二人はどうなったの?」
「そうねえ。
シンデレラはそのあと50年経っても幸せだったのよ。
いつもいつも夢を見ているようだったわ。
ずうっと醒めなければいいって思ってた」
「王子さまは?」
「もちろん王子さまも幸せだったわ。
だけど時間は少しずつ記憶をうばっていったの」
「え〜、じゃあシンデレラのこと忘れちゃうの?」
「忘れないわよ。
忘れそうになったときは、シンデレラがガラスの靴を見せてあげるの」
「ふうん」
そう言って私はテラスでまどろむ夫に目を向ける。
「あそこに置いてある靴は?」
「ガラスの靴」
「ガラスじゃないよ」
「おばあちゃんにとってはガラスの靴」
「へんなの〜」
「うふふ。そうね」
昔から、いえ、中学校3年生の春から大好きになったお話『シンデレラ』。
孫娘に絵本を読み聞かせながら、私は50年前を思い出していた。
[シーン2:中学校の渡り廊下から]
■SE/遠くから学生たちの雑踏が聞こえてくる
「おっかしいなあ。
いつもならこの辺。花壇のあたりに絶対あるはずなんだけど・・・」
中学に入ってから3年生の春まで、私はいじめにあっていました。
といっても、今のような陰湿ないじめではなく、
せいぜい上履きの靴をどこかへ移動するくらい。
思えば、よく隠されてたなあ。
たいていは、渡り廊下の横にある花壇の中に隠してあった。
まあ、日課のような感じでいつも花壇まで靴をとりに行ってたっけ。
でも今日は、どれだけ探しても見つからない。
四時限目の体育の授業が終わったあと、
下駄箱を探したら上履きがなかった。
またか、と思いながら探しても、どうしても見つけられない。
少しだけ嫌な感じが脳裏をよぎった。
どうしよう。
いまはお昼休みだから、もうちょっとで授業が始まっちゃう。
しょうがない。
放課後に植込みのとこも探してみようかな。
あ、お弁当食べる時間なくなっちゃった。
そう思ったらとたんにお腹がすいてくる。
だめだめ。授業中にお腹、鳴らないでよ。
春とはいえ板張りの廊下は足先が冷える。
末端冷え性の私には特にきついんだなあ。
仕方なく職員室で先生に事情を話し、来客用のスリッパを借りた。
『ま〜た上履きなくしたのか。
これでなんべん目だ?モノを大事にしないとダメだぞ。
ちょっとたるんでるんじゃないか』
たるんでなんかいない。
いないけど、いじめのことは口がさけても言えない。
だって友だちを裏切るみたいでイヤだもん。
私はゴム製のスリッパに足を通す。
だけどこれがまた冷たいんだよー。
あと2時限。6時限目が終わるまで耐えられるかしら。
無理だった。
お腹はグーグー鳴るし、スリッパは冷たくて3回もトイレに行っちゃったし。
みんな、声に出さずに笑ってる。
早く放課後になって。
上履き探しにいかなきゃ。
■SE/チャイムの音(教室から出ていくイメージ)
「あ、私の靴は?」
放課後、花壇へ行くため靴に履き替えようとしたとき。
なんと、靴まで下駄箱から消えていた。
どうする?どうする?
え〜い。迷ってる場合じゃないし。
私はスリッパのまま、植え込みのところまで走った。
■SE/ガサゴソと花壇の中を探す音/夕方のイメージ(カラスの鳴き声)
あとから汚したスリッパ洗わないと。
先生に見つからないように、かがみながら必死で2足の靴を探す。
ない。ない。
どこにもない。
どれだけ探しても見つからない。
おまけにスリッパで土の上歩いたら、歩きにくいし、冷たいし。
もう最悪だな。
ひょっとして、今日お家までスリッパで帰るってこと?
そんなのいやだ〜。
いろいろ考えてたら、泣きそうになってきた。
あ〜泣くのもあかん。
こんなとこ見られたら、いじめがバレちゃう。
この前ホームルームでいじめの話題がでたとき、担任が言ってたもん。
『いじめられる側にも問題があるんだぞ』
な〜んて。
こんなん絶対相談できないじゃん。
途方に暮れて、しばらくツツジの花を見つめる。
ピンク色が目にしみた。
と、そのとき。
背後からふいに肩を叩かれ、思わず振り返ってしまった。
「あ」
彼は・・・えっと・・・先週から学校に来た転校生だ。
やばい。
泣いてるの見られた?
少し戸惑いながら私に声をかける。
「なあ、オマエ知らないか?」
「え・・・なにを?」
「人を探してるんだけど」
「・・・だれを?」
「この靴の持ち主さ」
「あ・・・」
彼が両手でかざしたのは、私の上履きと外履きの靴。
その瞬間、いままで我慢していた感情が吹き出した。
「私の・・・」
それだけ言うのがせいいっぱい。
あとは下を向いてただしゃくりあげる。
抑えようと思っても、涙が止まらない。
「やっぱりな」
そこから先は彼が一方的に語り出す。
「この上履きと靴、焼却炉の前に落ちてたんだよ」
「オレ、持ち主が困ってるだろうと思ってみんなに聞きまくったんだ」
「そしたら、どいつもこいつも口をつぐんで、黙っちゃう」
「もしかしたら、だれかいじめられてるんじゃないか」
「なんか、いてもたってもいられなくなって、学校中さがしまくったんだ」
ああ、そうか、彼はわかってないんだ。
「あ、ありがとう。
でも早くどっかへ行って。
こんなとこ誰かに見られたら、
君も仲間はずれにされるか、いじめの対象になっちゃうよ」
「それがどうしたの」
「え?
だって先生も言ってたじゃない
いじめられる側にもなにか問題があるって」
「あるわけないだろう」
「え」
「心配するなよ。手はうっといたから」
「え〜」
「担任じゃなくて、教頭と校長に告げ口してやったよ。
こ〜んな悪質ないじめがあるけど、放っておくのかって」
「そんなぁ。私明日からどんな目に会うかわかんないじゃん」
「誰もなにもしてこないよ。
だって校長たちに、
なんなら教育委員会にも告げ口しようか、って言ったら、
あわててすぐに対処するって言ってたぜ」
「うそ・・・」
「それよりさ、証拠見せてくれよ」
「え?なに?証拠?」
「この靴の持ち主だって証拠」
そう言って彼は私の前で片膝をついた。
「ほら、履いてみろよ」
彼が両手で抱えた靴の中に、私の足は滑り込んだ。
「よかったな、見つかって」
まるで靴に言っているように聞こえたけど、
言い終わってから彼は私を見上げてウインクした。
その日を境に本当にいじめはぱったりとなくなった。
彼は私をシンデレラにしてくれたのです。
[シーン3:高齢者施設〜開け放したテラスで孫娘に本を読むおばあさん]
■SE/森の中の小鳥たちのさえずり
あれから50年。
私たちは高山市内で小さな靴屋を営み、
今はリタイアして、二人で奥飛騨の施設に入っている。
最近昔のことがあまり思い出せなくなってきた夫に、
私はいつもこの話を語ってきかせる。
必ず、この靴と上履きを膝の上にのせながら。
そうするといつも彼は靴を、私に履かせようとする。
私を見あげてウィンクしながら。
「おばあちゃん」
「あ、あら。ごめんなさい。ぼうっとしちゃった」
「やっぱりおばあちゃんってシンデレラでしょ」
「ふふふ。そうかもね」
「だと思った」
テラスでロッキングチェアに腰掛けた王子さまに向かって
小さく微笑む。
いつまでもこの靴が履けますように。
ありがとう、私の王子さま。