ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「トラベラーズ」


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(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

■SE〜目覚まし時計のアラーム

「うるさ〜いなぁ・・・」

無意識に目覚ましのアラームを叩いて止める。

そういえば昨日、目覚まし時計買ったんだっけ。

■SE〜再び目覚まし時計のアラーム

「う〜ん・・・・」

「あ!もうこんな時間!?」

「やっばい!」

ベッドから起きてトースターに食パンを入れ、スイッチを回す。

シャワーを浴びながら、チン、という音が聞こえてくる。

タオルで髪を乾かしながら、グラノーラに牛乳を注ぐ。

たとえ寝坊しても、これが私のモーニングルーティンだ。

私は高山市図書館につとめる司書。

図書館に仕入れる専門書や洋書を選定したり、市民に向けたワークショップを企画する。

今日は私があっためてきた企画、古典SFの名作を分析するワークショップの日。

レイ・ブラッドベリ、フィリップ・K・ディック、H・G・ウェルズ・・・

作品を思い返すだけでワクワクする。

私は手早く朝食をすませ、身支度を整えて、アパートを出た。

宮川の朝市を通り、宿儺(すくな)かぼちゃを売るおばちゃんに今日も声をかける。

「おはようございます!おいしそう!」

忙しく観光客の相手をするおばちゃんは、視線だけ私に向けて微笑む。

国分寺(こくぶんじ)通りから安川通り(やすがわどおり)へ。

坂をゆっくり上がると、歩道を自転車が降りてくる。

中学生の女の子。顔が真剣。

結構なスピードね。危ないかも。

ごめんなさい!

■SE〜自転車のブレーキ

そう言って自転車は私と接触した。

目の前が真っ暗になる・・・

やだ、こういうときホントに星が見えるんだ・・・

[LOOP-2](ループトゥー)

■SE〜目覚まし時計のアラーム

「うるさ〜いなぁ・・・」

■SE〜再び目覚まし時計のアラーム

「う〜ん・・・・」

「え!?」

あれ?

私、なんで部屋にいるの?

確か自転車とぶつかって・・・

夢・・・?リアルな夢だわー!

あ、いや、こんなことしてる場合じゃない。

トースターで食パンを焼き、シャワーを浴びる。

タオルで髪を乾かしながら、グラノーラに牛乳を注ぐ。

モーニングルーティンは不滅だ。

今日は、古典SF小説の名作を分析するワークショップの日。

華氏451度、アンドロイドは電気羊の夢を見るか?、そしてタイム・マシン・・・

大好きな作品を準備しておいて遅れるわけにはいかない。

朝食をすませ、急いでアパートを出る。

宮川の朝市で、宿儺かぼちゃを売るおばちゃんに今日も声をかける。

「おはよう!」

安川通りをゆっくりと上がっていくと、歩道を自転車が降りてくる。

ちょっと待って。

このシーン、既視感満載!

そうそう、思い出した。あの中学生の女の子だ。顔が真剣。

あぶない!

私は女の子の腕をひっぱって抱き抱える。

自転車はバランスを失って歩道に転がった。

「大丈夫?」「はい」

女の子は丁寧にお礼をのべて倒れた自転車を起こし、足早に去っていった。

ブレーキ、壊れてたんじゃないかしら。

・・・?あ!いっけない!私、急いでるんだった。

今日のためにSF作家を東京から招いているのに。

もう着いちゃってるかも・・

あわてて信号のない通りを横切ったとき、

反対側から左折してきた軽トラックと接触した。

■SE〜自動車のブレーキ

まただ・・・

目の前を星が舞う・・・

[LOOP-3](ループスリー)

■SE〜再び目覚まし時計のアラーム

「はっ!?」

夢?いやいや、これは夢じゃない。

頭の中でなにかが私を急かす。

急いで図書館へ行かないと。

SF小説のワークショップの日にタイムループ?

まさかね、でもなにか関係ある?

華氏451度・・・本を読むことを禁じられた未来のせい?

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?・・・私はアンドロイドなの?

タイム・マシン・・・?いやいやいや、直球すぎるでしょ。

今度は朝食をとらず、シャワーも浴びずにアパートを出る。

宮川の朝市もひたすら早足で駆け抜ける。

安川通りをのぼりきる直前、女の子が自転車に乗ろうとしていた。

「その自転車、ブレーキ壊れてるから、今日は歩いていきなさい」

女の子は不思議そうな顔をしながらブレーキを調べる。

あ、ホントだ・・・

小さな驚きの声が後方から聞こえる。

昨日より早いから大丈夫、と思いながらも

反対側の車に注意して慎重に通りを渡る。

薬局の前を通れば、もう図書館の入口が見えてくる。

図書館の前に立っているのは・・・だれ?

”あなたを待っていました”

え?

”あなたを救うために”

え?え?

”私は、いま『SFトラベラーズ』という新作を書いている小説家です。

その小説のなかの主人公があなたなのです”

え?いや、わかんない、わかんない。

”そりゃそうですよね。

小説の内容は話せば長くなるので、手短に伝えますね。

まず、タイトルのトラベラーズとは、タイムトリップをする人のこと。

タイムトリップが可能になった未来では、

過去を何度もやり直す『タイムループ』について厳しく規制されていました。

タイムループをするためのトリガーを手にしたものは終身刑。

トリガーを使用すると、当局にすぐにアラートが届きます。

トラベラーズたちはトリガーを隠すため、過去へ送りました。

そのなかのひとつが2023年の高山に住む、あなたのところだったのです。

・・・という物語です”

ちょ、ちょっと、待って。トリガーって?

”あなたが昨日買った目覚まし時計です。

間違って、古い町並の雑貨屋さんにまぎれこんだみたい。

まあ、でも、これで、

どうやって完結させようか悩んでいた小説も無事書き上げられそうです”

はぁ?そんな・・・

っていうか、あなた、

そもそもどこから来たの?

”2050年からです”

またまたぁ。

“でなければこんな話できないでしょ。

場所が特定できたので、いまあなたのDNAを解析しました。

そのDNAをつかってトリガーもリモートで解除しました。

もう大丈夫。タイプルームは今後起こりません”

あの目覚まし、ちょこっとだけ気に入ってたのになあ。

”心配いりません。目覚ましの機能は残ってますから。

ではまたいつか・・・私は帰ります”

どこへ?

”もちろん、2050年へ”

ちょっと、待って!あ・・・

行っちゃった・・・

なんか・・・残念。今度ワークショップに招いてみたかったのに。

彼が戻ったところには朝靄(もや)がかかっている。

その中を歩いてくるのは・・・本物のゲスト、今日のSF作家だ。

あら、結構若い男の人だったのね。

なんとなく、さっきの未来人、トラベラーズさんに似てるけど。

そのとき、未来から声が聞こえたような気がした。

”いつまでも元気でいてね・・・”

”未来で会いましょ、ママ”

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ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会