ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「わたつみの恋」


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「わたつみの恋」は、飛騨高山の風景を背景に紡がれる、一人の人魚と人間の儚くも美しい恋の物語です。

人魚と人間、異なる世界に生きる二人が運命に導かれ、深く愛し合う。しかし、その愛には決して避けられない試練が待ち受けていました。彼女は愛する人と共に生きるために陸へと上がり、一年間の誓いを交わします。しかし、大きな災害がすべてを奪い去り、彼は記憶を失い、かつての婚約者と再び結ばれようとしていました。

過去を思い出せない彼。消え去る運命に抗う彼女。絡み合う運命の糸は、果たしてどのような結末へと向かうのでしょうか。

「わたつみの恋」は、Podcast番組『Hit’s Me Up!』の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームで視聴できます。また、「小説家になろう」でも全文を読むことが可能です。

愛が奇跡を生むことを信じて。

(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

[シーン1:2024年元旦の朝]

■SE/波の音と海鳥の鳴き声

「愛してる」

「僕もだよ・・・エミリ、愛してる」

「じゃあ行くわ」

2024年1月1日。

帰ろうとする私の手首を、彼がつかんだ。

「だめよ。もう海へ帰らないと。

陽があんなに高く昇っちゃったんだもん」

後ろ髪をひかれながら、私は彼の手を優しくふりほどく。

誰もいない海岸。

靴を脱ぎ、裸足で波打ち際へ。

足首が打ち寄せる波に包まれると、

少しだけ彼の方へ振り返った。

ほんの少し寂しそうな笑顔で手を振る彼。

私も小さく手を上げて、波の中へ飛び込んだ。

海水が全身を満たすと、足は尾びれに変わっていく。

そう、私は人魚。

彼と知り合ったのは、去年の春。

嵐の夜、この海で溺れていた彼を私が助けた。

誰もいない島で彼を介抱しながら過ごした2週間。

海の底のように澄んだ彼の瞳に、私は一目で虜になった。

自分の心に抗えず、私は恋に落ちていく。

私たちは短い時間の中でお互いの気持ちを確かめ合った。

実は、人魚の世界に男はいない。

だから人魚は人間の伴侶を求める。

彼に一目惚れしてしまったのも、

私の中のDNAがアドレナリンを高めたのだろう。

人間と人魚が結ばれるには、いろいろとハードルもあったけど

私は陸(おか)に上がって、彼との逢瀬を重ねた。

人間のカップルのように。

このまま1年間彼と一緒に過ごせば、私は人間となり、晴れて結ばれる。

でも、途中で別れたら、私は海の泡となって消えてしまう。

そんなこと、忘れてしまうほど、私たちは愛し合った。

夏が過ぎ、秋が流れて、冬を迎えても思いは増すばかり。

昨日の大晦日から元旦までも、二人で過ごした。

甘いひとときを思い出しながら私は水の中を泳いでいく。

身体をくねらせながら目指すのは、海の底。

やがて、空の光が届かないほどの海深くまできたとき。

■SE/水中の鈍い爆発音「ドン」

え?なに?

まるでなにかが爆発したような音。

と同時に、今まで経験したことのないような大きなうねりが私を襲う。

なに、これ!?

考える間もなく地響きが水の中を伝わってきた。

下の方からもなにか上がってくる・・・

それは無数の小さな泡。

海の底から吹き出した細かい泡が私を包み込んでいく。

そのあとは、海底がどんどん濁りはじめた。

あっという間に周りが何も見えなくなる。

これは・・・地震!?

はっ

彼は?彼は大丈夫?

私は慌てて方向転換する。

水圧の変化で耳が痛くなりながら、海面に顔を出すと・・・

うそ!?

街が傾いてる。

私は浜辺に上がり、裸足のまま彼を探して街の中を彷徨った・・・

[シーン2:病院にて]

■SE/病院の雑踏と慌ただしい様子

一ヶ月近く探し回って、やっと見つけたのは病院のベッドの上。

彼は頭に包帯を巻かれ、点滴を受けていた。

「やっと・・・見つけた」

彼の手をとり、名前で呼びかける。

ゆっくりとまぶたを開くと、あの真珠のような瞳が現れた。

だが、彼の瞳は私を見てもなにも反応しない。

え?

私のこと、わからないの?

まさか、記憶喪失?

愕然としながら、私は病室を出る。

廊下で髪の長い若い女性とすれ違った。

なんだか気になった私は彼女のあとをつけた。

予想通り、女性は彼の病室へ入っていく。

半分開いた扉からこっそり部屋の中を覗くと・・・

彼は、笑顔で彼女と話している!

こちらから女性の顔は見えないけど楽しそうな会話。

震災から1か月。一体なにがあったというの?

2人の間に入っていかないとなにもわからない。

どうしよう?どうしよう?どうしたらいい?

思わず病室に入っていく私。

きょとんとした顔で私を見つめる2人に、

「あ、あの、災害ボランティアです。いま病室を回っています」

と答えた。

ああ、なんて浅はかな回答。

だが、彼女は人懐っこい笑顔で、”ちょうどいいわ”、”彼を見てていただける?”

と言って、買い出しに出ていった。

残された彼と私。

私はベッドの横に座り、

「さきほどは失礼しました」

と彼に詫びた。

「いえ、こちらこそ。ボランティアの方だったんですね」

違う。ボランティアなんかじゃない。私はあなたの・・・

口元まで出かかった言葉を抑えて、口にしたくない言葉を告げる。

「先ほどの女性は彼女さんですか?」

「婚約者です」

「え?」

うそ!?そんな・・・

「実は僕、この災害で記憶喪失になってしまって・・・」

「海岸に倒れているところを、彼女に助けられたんです」

「そしたら、なんと去年の春まで婚約していた相手だったらしくて」

「どうして別れたのかは覚えていないけど」

「介抱されるうちに、また元に戻ったっていうか・・・」

去年の春・・・

私と出会った頃だ。

どうして、それがいまになって・・・

ほどなく、彼女が買い物袋を抱えて戻ってきた。

彼は笑顔で彼女を迎えると、私に向き直った。

「今日、退院するんです。

記憶喪失はまだ回復しないけど・・・」

「おめでとうございます。じゃ、私はこれで・・・」

頭の中が動転したまま、私は病院を出た。

これからどうする?

彼をあきらめるの?

何度も自分に問いかけた。悩みに悩んでだした答えは、

あきらめて、海の泡になるのなんて、いや!

彼は、絶対に私のこと、思い出してくれる!

[シーン3:彼のマンション]

■SE/街角の雑踏

私は医療ボランティアとして、彼と彼女の元に通った。

あまり料理が得意でない彼女の代わりに、料理も作る。

問題ないわ。彼の好き嫌いは全部知ってるもん。

2人と関わっていくうちにいろんなことがわかってきた。

婚約していたというのは本当らしい。

ただ、彼女の話の中から、彼の思いは見えてこない。

彼に対する熱い思いだけは、ひしひしと伝わってくるけど。

頭の中に、疑問が湧き上がってくる。

どうして彼は、あんな真冬の海で溺れてたんだろう・・・

婚約者はなにしてたの?

彼女に聞くべき?

悩んでいた私にある日、死刑宣告のような言葉が告げられた。

”そろそろ私たち結婚しようと思うの”

私は、どんな顔をして聞いてたんだろう。

きっと目に涙をためながら、不自然に笑っていたに違いない。

さほど長くない沈黙のあと、我にかえってつぶやいた。

「おめでとう」

「あまりお二人の邪魔になってもいけないから」

「私、そろそろ、消えるわね」

海の藻屑へと・・・

[シーン4:浜辺にて]

■SE/打ち寄せる波の音

彼のアパートを出た私は海岸へと向かう。

波の音が聞こえてきたあたりで、後ろから呼び止められた。

「待って」

聞き慣れた声に振り向くと、彼。

その後ろからついてきているのは、不安げな顔をした彼女。

「なにか思い出せそうなんだ・・・」

「え?」

そう言いながら、また頭をかかえる彼。

「やっぱり、だめだ・・・」

「無理しなくていいのよ。

これから長い時間をかけて、彼女が幸せにしてくれるから」

そう言いながらつとめて明るい笑顔で彼の手をとる。

「お別れよ」

笑ってそう言ってるのに、気がつくと彼の手のひらに、一粒の涙がこぼれ落ちた。

乾いた手のひらが濡れていく。

私は海へと向き直って走り出した。

溢れ出る涙をぬぐおうともせず。

波の間へとびこもうとした瞬間。

「行かないで!エミリ!愛してる!」

彼の絶叫が響き渡った。

振り返ると、彼が駆けてくる。

彼女は、なぜか大きくため息をつき、踵を返した。

「すべて思い出した!」

「忘れるものか、大切な時間を」

「ああ・・・」

「1年前、海へ身を投げた僕を君が救ってくれた日のことも」

「え・・・身を・・・」

そうだったんだ。

彼女のさっきの行動は、そのすべてを知っていたのね。

理由も・・・

「エミリ、僕と一緒になってほしい」

「私でいいの?」

「君でなければ、いやだ」

ひざまで波に洗われながら、強く抱き合う2人。

沖に沈む夕陽が、私たちを祝福するように、金色に輝いていた。

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ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会