ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「音」


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突如、声が出なくなってしまった人気実力派声優。だがそんな彼女の元に大きな舞台の仕事が舞い込んできた・・・(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

SE〜朝のイメージ/小鳥の声/あくびをする声優(無声で)

「ふあ〜・・・」

SE〜猫の鳴き声/以降「」の声はすべて無声(ウィスパーで)

「ゴブリン、おはよ・・・」

え?

声・・・どした?

「あーーーーー」

でない・・・

な、なんで!?

私の頭の中で、いろいろな思いが巡り、回っていく。

昨日、お酒を飲みすぎた?

いや、違う。そもそも私はお酒を飲めないではないか。

風邪?

いや、それも違う。普段から体調管理は万全だ。

声優として、喉のケアにも気を遣っている。

夏でもエアコンをつけて眠らないし、スプーン1杯のマヌカハニーを毎日飲む。

仕事でも最近ボリュームのある台本はないし・・・

はっ!

『沈黙の契約』・・・?

まさか・・・そんなまさか・・・

『沈黙の契約』は春からスタートしたレギュラーアニメ。

原作の小説が話題となり、アニメ化された異色のダークファンタジーだ。

物語の中で、私は悪魔に声を奪われる主人公の巫女を演じている・・・

アニメの中では、神の声が聴けなくなった巫女がもがくうちに

知らずに悪魔と契約を交わしてしまう。

その契約は、神の声を聴く力を取り戻す代わりに

巫女が持つ美しい声を悪魔に捧げる、という悲しい物語だ。

『沈黙の契約』全12話のアフレコ収録が終わったのが、昨日。

声を失った主人公が、命をかけて悪魔と対決し、声を取り戻す最終話。

彼女は神の力を借りて悪魔を倒すが、力尽きてしまう。

取り戻した声で、息を引き取る前に言うセリフが、『ありがとう』。

久々に感極まった表現となった。

でも・・・

私が声が出ないのと、アニメとを結びつけるのは、やっぱり馬鹿げてるわ。

SE〜電話の着信音

あ、事務所から・・・

だめだ、電話出られない。

SE〜着信音を止める「ピッ」

まずい・・・

このままじゃオファーを受けられない。

ってか、そもそも、声がでなければ収録もできない。

どうする?

私が住んでいる高山から東京のスタジオへ通うこと自体大変なのに。

SE〜メールの着信音

ああ、メールにしてくれたのね。助かる。

・・・っと・・・ん?

<memory-and-forgetting-300505069>

<tears-in-the-rain-347007986>

舞台?お芝居ってこと?

タイトルは・・・『音』?

変わったタイトルね。

公演は東名阪(とうめいはん)と・・・

楽日(らくび)は・・・高山!?

これって、私に合わせてくれてるんじゃ・・・

脚本(ほん)書いているのは・・・?

ああ、この人。エモ系のストーリーが得意な監督だわ。

どれどれ、プロットは・・・

え・・・

失声症(しっせいしょう)?

私の役は、ストレスと病気で声がでなくなった舞台女優?

やだ・・・

こんなことってある?

今の私に声を出せない女優の役だなんて・・・

SE〜脚本のページをめくる音

序幕から終幕まで科白が一行もない!!

劇中劇の『真夏の夜の夢』の中にさえ、科白の行がないわ。

う・・・どうやって演じればいい?

この役、受けるべき?受けざるべき?

まるでハムレットじゃない。

結局・・・私は役を受け入れた。

声以外の表現方法。

それは私の役者としての本質を深く考えることでもある。

声を使わずに、純粋に表情と動きで役を演じなければならない。

これは私の新たな挑戦だ。

・・・大丈夫。

私ならできる。

その自信がどこからくるものか、自分でもよくわからないけど。

稽古の日は待ってくれない。

SE〜芝居の稽古場

稽古初日、私が声を出さないことで、周りはみな驚いたが、

監督は、”役作り”ということで理解してくれた。

本番までの短い期間。限られた時間での舞台稽古。

その間、私はひとことも発しない。

ほかの役者も私に合わせてくれるようになっていった。

やがて、本番前日。

ゲネプロを終えた私に監督が声をかけた。

”もう大丈夫”

え?私の喉のこと・・・?

私は初日を前に、喉の違和感が消えているのを感じていた。

でも、あえて私生活でも、一切声は発していない。

役作り、だけではない何かが私を突き動かしていた。

そして本番初日。

『音』のない世界で『音』を表現する。

失った声と引き換えに、圧倒的な迫力と表現で

観客の心を揺さぶらなければならない。

自分で言うのもおこがましいが、私の演技は、鬼気迫っていた。

声をなくした女優は、劇中劇で妖精の女王を演じる。

”星も安らぐ  静かな夜が 永遠(とわ)に この地を 寿ぐように”

ラストシーン、声を出さずに有名な一節を唱える。

”幸多かれと お祈りしましょう 皆に笑顔が 絶えないように”

演じながら、静かに、音が戻ってくるのを感じる。

それは、失声症から返り咲く女優と重ね合わせて感動的なシーンだ。

劇中劇では、狂言回しがラストの口上を述べる。

”今宵 見たものは 淡い幻 真夏の夜(よる)の夢”

SE〜拍手と歓声

楽日の高山市民会館はカーテンコールの嵐だった。何度もカーテンを開けながら、センターに立つ私の瞳は熱い思いで溢れる。

『ありがとう』

1か月ぶりに私の口から発した『音』は、満場の喝采にかき消されていった・・・

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ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会