ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「You've got a friend」


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「君は、友だち」——ひと夏の記憶が胸を刺す、切ない青春ストーリー。

高山線の小さな踏切、夏の終わりの風、そして彼女の笑顔——
「友だち」と呼び続けた関係の中で、少年は何を見て、何を失ったのか。
まぶしさと憧れ、嫉妬と後悔が交差する物語は、やがて取り返しのつかない結末へと向かっていく。

この物語を読み終えたあと、ぜひ人気ボカロ曲 「少女レイ」 を聴いてみてください。
透明感のあるメロディと痛切な歌詞が、君と彼女の記憶をより鮮明にしてくれるはずです(CV:桑木栄美里)

【ストーリー】

■踏切+セミの声

※笑い声から

あの日

夏の終わりの風が吹いてたあのとき

高山線の小さな踏切から

君は空へ舞い上がっていった・・・

■教室のざわめき

桜の蕾がようやく膨らみ始めたころ

彼女は僕の学校へ転校してきた

先生が決めた彼女の席は僕の隣り

よろしくね

と声をかけたのは僕のほうから

彼女は満面の笑みで答える

友だちになりましょう

そのとき

彼女と目が合った瞬間から、僕は彼女に好意を抱いていった

君は・・・友だち

■雨の音

雨音が授業の内容よりも頭に響く季節

彼女は天性の明るさでクラスの人気者になっていた

彼女のまわりにはいつも友人たちの笑顔があふれる

それでも隣りの席の僕とは特別な関係

すぐそばにいるのにチャットで近況をやりとりする

放課後の帰り道、駅までの道のりはいつも一緒

彼女が僕を見る瞳が眩しかった

君は・・・友だち

■電車がホームへ入ってくる

気がつくと、いつも君が横にいた

朝、僕が乗る車両に、君は走って乗り込んでくる

「あ・・おはよう・・・」

そう言って僕は、汗をかいた君にタオルハンカチを渡す

君は一瞬躊躇したあと、ハンカチをそっと首筋にあてた

繊維にしみこむ、君の息づかい

見ていないフリをしながら、僕は場面を網膜に焼きつける

ありがとう、という君の笑顔が眩しくて見られない

君は知っているのか 僕の視線を

なにもなかったように僕にほほえみ返してくるけれど

君は知っているのか 僕のざわめきを

笑顔のまぶしさに僕の心が射抜かれていることを

君は・・・友だち

■セミの声+学校のチャイム

夏休み前の教室

君の周りにはたくさんの友だち

賑やかな歓声がかけめぐる

女子校には、薔薇色の笑顔が咲き乱れているけど

頬を染める薄紅色は芽吹かない

僕は彼女に合わせて明るく笑うけど

心の中の鼠色は誰にも見せられない

「夏休みに入ったら海へ行かない?」

つとめて普通に、声をかける

いつものまぶしい笑顔で、うん、行こう、と答えるけど

彼女の瞳に映る僕は、追い詰められたハツカネズミ のように、見えた

夏めく空

教室の窓から見える線路の向こうに白い雲がたちのぼる

君は・・・友だち

■セミの声+波の音

「高山から海までって、意外と近いんだよね」

高山本線の終点、富山駅には北陸新幹線も乗り入れる

そこからローカル線で終点の海水浴場まで20分

初めての小旅行

僕と彼女は他人からはどう見えるんだろう

女子高生の友だち同士

そりゃそうだ

僕とは対照的な白い肌

浜辺に寝そべり、仲のいい友だちのように手をつなぐ

顔を覆う帽子を斜めに上げて、僕の方を見たあと屈託なく笑う彼女

僕は溺れていく気持ちを隠して、其の手にそっと口吻(kiss)をした

いま僕の笑顔はみにくくないか

彼女の明るさを翳らせていないか

君は・・・友だち

■古い町並み

夏休みもあと少しで終わりという日の午後

僕と彼女は古い町並の雑貨屋さんにいた

「記念にお揃いのキーホルダー 、買わない?」

記念ってなに、とまた大きな声で笑う彼女

それでも彼女は僕を否定しない

彼女が選んだ2つのキーホルダーには

わざとらしくなく可愛いキャラクターが笑っていた

僕たちがレジに並んでいるとき、クラスの友だちが彼女を見つける

友だちは僕じゃなくて、彼女に声をかける

彼女も楽しそうに受け答えする

僕に見せる笑顔より何倍も楽しそうに

僕は独りで支払いを済ませ、彼女の分も立て替える

彼女のまわりには同じ部活の友だちが集まってきて

まるでオープンの女子会だ

輪の中に入らない僕の方を見た彼女は苦笑いする

そうか、やっぱり・・・

君は・・・友だち

■朝の教室チャイム/夏休み明け

いつもの電車に彼女はいなかった

遅れて教室へ入ってきた彼女は、自分の机を見て息を呑む

机に置かれた花瓶

仕掛けたのは僕だった

だって、君が悪いんだよ

僕だけを見ててよ 

罠は僕の思いをはるかに越えていく

彼女はあっという間に、友だちの仮面を被った獣たちの標的になった

無視という暴力 言葉の暴力 ネットの暴力

薄笑いの獣たちは容赦なく爪を突き立てる

彼女の瞳から光は消え、まぶしい笑顔も消えていった

 

今こそ、僕の手をつかんでくれるとき

君の苦しみには助けが必要

君はもう独りだろ

居場所なんてないだろう

僕はここにいるよ

君は・・・友だち

■踏切の音

君は僕の手をつかもうとはしなかった

あの日

夏の終わりの風が吹いたあのとき

高山線の小さな踏切から

君は空へ舞い上がっていった・・・

また、あの歌が聞こえてくる

君の肩 君の肌 君の胸 君の声

夏が消し去った 白い肌の少女に 

哀しい程 会いたい

透明な君に もう一度会いたい

■踏切の音

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ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会