ヒダテン!ボイスドラマ

ボイスドラマ「最後の弁当」


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突然両親を亡くし、高山へやってきた16歳の彩羽。
静。料理未経験の静は、毎朝4時に起きて弁当を作り続けた。やがて二人の間に生まれるた「弁当という会話」。

定年退職の日、静が受け取った“最後の弁当”とは・・・

飛騨高山の食材とともに描く、心あたたまる家族の物語

【ペルソナ】

・静(しずか=58歳〜61歳/CV:日比野正裕)=大学新卒以来高山市役所市民課で働く生え抜きの市職員

・彩羽(いろは=16歳〜18歳/CV:坂田月菜)=東京から高山市街地へ引っ越してきた高校1年生。

・さくら(CV:岩波あこ)=静と同じ課に務める市職員。マイペースで仕事をするさくらを静はいつも厳しく叱責していた

[プロローグ:親族の集まり/東京・息子夫婦の家】

◾️SE:なんとなく騒々しいざわめき

「この子は私が、高山へ連れて帰る!」

私の剣幕に気圧されて、親族一同が静まり返る。

たった一人の孫娘。

東京で両親と暮らしていたが、突然の不幸でいきなり一人ぼっちになってしまった。

親族会議で集まった娘夫婦の家。

母方、つまり娘の親族は私一人。

高山市内で一人暮らしをしている私しかいない。

そんな親族間から聞こえてきたのは、残された孫娘を養護施設に入れよう、という声。

最初、耳を疑った。

冗談だろう。

16歳だぞ。

まだ高校一年生だぞ。

孫娘は親族会議には加わらず、

リビングに面したテラスでスマホをいじっている。

もはや涙も枯れ果て、話を聞いているのかいないのか。

それで、思わず口から飛び出してしまったのが、冒頭の台詞。

「高山で私が面倒を見る」

やがて驚いていた親族たちから、次々と詰問が飛んでくる。

”高齢者がひとりで高校生の面倒を見られるのか”

”東京からそんな遠くへ引っ越してメンタルは大丈夫か”

”学校はどうするのか”

”食事は・・・”

そんなこと私だってわかっている。

転居・転校するだけでも大変なストレスだろう。

私は定年まであと3年。

市役所勤めだから、毎日夕方6時前には帰宅できる。

「もちろん、無理にとは言わないが」

「彩羽、私と一緒にくるか?高山へ」

声をかけると、彩羽は俯いたまま小さくうなづく。

驚いた周りの反応がかまびすしい。

”無理する必要はないんだぞ”

”おじいちゃんに気を遣うことない”

”1回しか里帰りしたことないんじゃ、まったく知らないとこと同じだ”

次々と浴びせられる声を背に、

「荷造りしてくる」

と小さく答え、彩羽は自分の部屋へ戻っていった。

私は、自分の言葉を反芻する。

「この子は私が高山へ連れて帰る」

いや。

決していい加減な気持ちで言ったのではない。

こんなところにいるより、高山の空気の方がいいに決まってる。

周囲の反対意見など、もう私の耳には届かなかった。

[シーン1:古い町並にて】

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◾️SE:古い街角の雑踏

「さあ、ここが古い町並だよ。

小さい頃、夏休みに一緒に歩いただろう。

覚えてる?」

「うん」

彩羽は小さくうなづく。

「疲れてないかい?彩羽」

また小さくうなづく。

転入や転校の手続きは明日市役所へ行ってからにしよう。

「おじいちゃん・・」

「ん?どうしたんだい?」

「お腹すいちゃったから・・

コンビニ行っていい?」

「おお、ごめんごめん!

そういや、おじいちゃんもお腹すいてきたわ。

コンビニより、ラーメンでも食べにいこか?」

「高山ラーメン?」

「ああ、そうだ」

「やった・・」

小さな声で孫娘が笑う。

笑った顔のエクボ・・娘にそっくりだな。

そういえば・・

親族たちに言われてた。

”ごはんはどうするんだ”

”誰がつくるんだ”

”出来合いで済ますつもりか”

そうだ。これからは私が料理を作らなければいけない。

こんなとき、妻がいてくれたら・・・

まあ、考えても仕方がない。

勢いとはいえ、孫娘を連れてきてしまったのだから。

無責任なことはできない。

それから私は毎日弁当を作った。

夕食は、市役所で待ち合わせ、一緒に外食をしてから家へ帰る。

東京では毎日コンビニの夕食だったという。

娘の双葉には、妻が懸命に料理を教えてたじゃないか。

不束者め。

[シーン2:転校生活】

◾️SE:扉を閉める音

「おじいちゃん、行ってきます」

彩羽にとって、高山の高校は水に合っていたらしい。

転校してすぐ『文芸部』に入部した。

毎朝早く、学校へ行って創作活動をしているそうだ。

私も朝4時に起きて朝食と弁当を作る。

いや、早起きなんて慣れたもの。

全然辛くはない。

トーストを焼き、コーヒーを沸かすだけだ。

独り身になってから、ずうっと変わらぬ朝食。

彩羽は文句ひとつ言わずに食べる。

そう。朝食はいいんだが・・・

弁当にはホント、苦労した。

同世代の同僚たちに聞いてはみたが・・・

”白いご飯に、梅干しとゆで卵だけ入れとけばいいんじゃないか”、

とか、

”ご飯に刺身をのせて醤油をたらしておけばいいんだぞ”、

とか、

”卵かけご飯一択だろう”、

とか・・・

まったく昭和のこの世代の男どもはどうにもならん。

ある日。

孫娘のことで学校の先生から呼び出され、衝撃的な事実を知った。

”彩羽は、毎日弁当を焼却炉に捨てている”

”毎日売店でパンを買って食べている”

”栄養が偏っているが、夕食で補えているか?”

そうか・・これではだめだ。

なんとかしないと・・・

職場では、いつもガミガミとうるさい昭和男子の私。

ただの一度も、人に頭など下げたことはなかった。

だが・・もうそういう次元ではない。

私は・・覚悟を決めた。

[シーン3:会社の給湯室にて】

◾️SE:お湯が沸騰する音

「さくらくん・・・少し話があるんだが・・」

「な、なんですか・・・部長。

こんな・・給湯室なんかで。

さっきの書類の件なら、パソコンを見ながら・・」

「いやいや、そうじゃないんだ・・・実は・・」

「はあ・・・」

「いつも、文句ばかり言って仕事を押し付けているのに

こんなこと言うのはお恥ずかしいんだが・・」

「え・・・?」

「実は・・お願いがあるんだ・・」

「お願い・・・?」

「単刀直入に言おう。

私に・・料理を教えてほしい・・」

「え・・・」

「そんな・・すごいたいそうな料理じゃなくてもいいんだ・・。

若い子が普通に食べられるものなら・・」

「どういう・・・ことですか?」

「まだ誰にも言ってないんだが・・

いま毎日孫娘に弁当を作っているんだ」

「ええっ・・・ぶ、部長が・・?」

「そうなんだ・・でも、今まで料理なんてしたこともないし・・

私が作る弁当はまずくて食えたもんじゃないらしい」

「部長・・・お一人暮らしだと思ってました」

「いや・・話せば長くなるんだが・・・

わけあって東京に住んでた孫娘を引き取ったんだよ」

「そうでしたか・・・」

「たのむ!さくらくん。

君しかこんなことお願いできる人はいないんだ」

「部長、頭を上げてください」

「今まで君たちにとってきた態度を考えると、

こんなこと頼むなんて最低な人間だってわかってる・・」

「そんなこと・・・思ってません」

「え・・」

「私、そんなに料理得意じゃないですけど・・・

それでもいいですか?」

「も、もちろんだ!

とにかく、人間が食べても大丈夫な弁当の作り方を教えてほしい」

「(ぷっ、と吹き出して)そんなにまずいお弁当なんですか?」

「どうも・・毎日どこかに捨てているようなんだ。

弁当箱はちゃんと洗って帰ってくるんだが、食べた形跡がないんだよ」

「そうですか・・・」

「だから頼む。助けてくれ。

とはいえ・・・

その、嫁入り前の娘さんのお宅へお邪魔するわけにもいかんからな。

私の家の台所で。孫娘のいないときに・・・

や、いかんいかん。これもいかん。

誰もいないときに、嫁入り前の娘さんを家に呼ぶなどと・・・」

「嫁入り前、って・・・いつの時代ですか。

私、伺いますよ。部長のお宅へ」

「い、いいのか・・」

「だって、そうしないと教えることなんてできないですよね」

「すまん!感謝する!

本当に申し訳ない」

「だから、頭を上げてください。

まずは、始業前に陣屋前朝市へ行きませんか?」

「朝市・・」

「旬の野菜が並んでいるから、まずは食材を選びましょう」

「そうか・・食材選びから」

「はい。

飛騨高山ってところは、観光だけじゃない。

美味しい野菜や果物の宝庫なんですよ」

「あ、ありがとう・・

感謝するよ。恩に着る」

「もう〜、やめてください。部長

昭和じゃないんだから」

「ああ・・すまん」

こうして私は部下のさくらくんと、始業前に朝市へ行く約束をした。

[シーン4:陣屋前朝市】

◾️SE:朝市の雑踏

「あ、あずきなが出ていますよ、部長。

これ買っていきましょう」

「あ、ああ。さくらくんにまかせるよ」

「だめですよ。自分でちゃんとおぼえなきゃ。

高山の旬の野菜は、ほんっとに美味しいんだから」

「わかった」

「飛騨で採れるものって、どうして美味しいか、わかります?」

「いい肥料を使ってるからだろ」

「昼夜の寒暖差が大きいからです。

野菜なんて、み〜んな甘くて、スイーツみたい」


※続きは音声でお楽しみください。

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ヒダテン!ボイスドラマBy Ks(ケイ)、湯浅一敏、飛騨・高山観光コンベンション協会